Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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短報
緩和ケア病棟における質改善活動の実態と遺族調査におけるアウトカムとの関連
田口 菜月升川 研人青山 真帆森田 達也木澤 義之恒藤 暁志真 泰夫宮下 光令
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2023 年 18 巻 3 号 p. 193-200

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Abstract

【目的】緩和ケア病棟の質改善活動の実態と遺族調査のアウトカムとの関連を明らかにする.【方法】J-HOPE4に参加した187施設にアンケート調査を実施し,質改善活動実施状況と,施設を利用した遺族の全般的満足度,ケアの構造・プロセスの評価(CES),望ましい死の達成度(GDI),複雑性悲嘆(BGQ),抑うつ(PHQ-9)との関連を検討した.【結果】日本ホスピス緩和ケア協会の自施設評価共有プログラムへの参加,多職種カンファレンスの開催頻度・カンファレンス参加職種数が多い施設で全般的満足度やGDIが有意に高かった.遺族ケアを実施している施設で全般的満足度,CESが有意に高かった.遺族への電話を実施している施設でBGQが有意に低く,葬儀や通夜への参列を実施している施設でPHQ-9が有意に低かった.【結論】質改善活動を積極的に実施している施設では,緩和ケアの質が高く遺族の悲嘆や抑うつを軽減する可能性がある.

Translated Abstract

Objective: This study examined the relationship between the quality improvement activities in Japanese palliative care units and the bereavement outcomes of patients’ family members. Methods: From a post-bereavement survey (J-HOPE4) conducted in 2018, we sourced the data of 187 facilities. We summarized the quality improvement activities palliative care units performed and explored how these activities are associated with the bereavement outcomes of patients’ family members: overall satisfaction with the care provided, evaluation of the structure and process of care (Care Evaluation Scale: CES), perceived achievement of a good death (Good Death Inventory: GDI), grief (Brief Grief Questionnaire: BGQ), and depression (Patient Health Questionnaire 9: PHQ-9). Results: Facilities that participated in the self-evaluation program provided by Hospice Palliative Care Japan held multidisciplinary conferences more frequently and had more specialties positions attending conferences (all p<0.05) yielded greater overall satisfaction and perceived achievement of a good death. Facilities that provided bereavement care (all p<0.05) resulted in significantly higher overall satisfaction and favorable care evaluations. Grief was significantly lower when facilities made phone calls to bereaved families (p=0.03), and depression was significantly lower when facilities attended the funeral and wake services (p=0.02). Conclusion: Facilities that actively perform quality improvement activities may provide better palliative care and cause less grief and depression among bereaved family members.

緒言

緩和ケア病棟では,患者や家族のQuality of Life(QOL)向上のため,提供される緩和ケアの質の維持・向上のための取り組みを継続的に行う必要がある.そのため,日本ホスピス緩和ケア協会では,緩和ケア病棟の認証制度1や自施設評価共有プログラム2を実施してきた.加えて,緩和ケア病棟の運営マニュアル「緩和ケア病棟運営管理者のための手引き」3において,Support Team Assessment Schedule日本語版の使用,日本医療機能評価機構による第三者評価や遺族調査の実施,多職種カンファレンスやデスカンファレンスの実施,遺族ケアの提供などを提案している.しかし,個々の施設がこれらの質保証・改善活動をどの程度行っているかはわかっていない.

また,わが国では日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団の研究事業「遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関する研究(J-HOPE研究)」47が実施されており,提供されるケアのアウトカムの評価が継続的に行われている.しかし,質保証・改善活動の実施状況と遺族調査のアウトカムとの関連性については検証されてこなかった.

そこで,本研究では,2018年に実施された遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関する研究4(J-HOPE4研究)の参加施設とその施設を利用した遺族を対象として,1)ホスピス・緩和ケア病棟の質改善活動の実態,2)ホスピス・緩和ケア病棟の質改善活動の実施状況と遺族調査のアウトカムとの関連を検討する.

方法

調査方法

J-HOPE4研究5のデータを使用し,二次解析を行った.

調査対象

日本ホスピス緩和ケア協会正会員施設であるホスピス・緩和ケア病棟(324施設:2017年7月1日)で,J-HOPE4の参加に同意した187施設のうち質改善活動に関する施設アンケートに回答した174施設とその施設を利用したがん患者の遺族を対象とした.

調査項目

1. 質改善活動の実態

J-HOPE4研究参加施設に,緩和ケアの質の維持・向上のための活動について,日本医療機能評価機構・緩和ケア機能の認定の有無,2016年度日本ホスピス緩和ケア協会の自施設評価共有プログラムへの参加の有無,症状評価スケール等の使用,遺族会の開催などについて尋ねた.

2. 遺族調査によるケアの質の評価

1)全般的満足度

緩和ケア病棟で受けた医療を,遺族の視点から「6. 非常に満足」~「1. 非常に不満足」の6段階で評価した.得点が高いほど,受けた医療に対する満足度が高い.

2)ケアの構造・プロセスの評価

緩和ケアの構造・プロセスを遺族の視点から評価するCare Evaluation Scale version 2.0(CES 2.0)8短縮版を使用した.各項目を,「6. 非常にそう思う」~「1. 全くそう思わない」の6段階で評価を行い,10項目の得点を100点満点に換算した.得点が高いほど,肯定的な評価である.

3)望ましい死の達成度

望ましい死の達成度を遺族の視点から評価するGood Death Inventory(GDI)9短縮版を使用した.各項目を,「7. 非常にそう思う」~「1. 全くそう思わない」の7段階で評価し,18項目の得点の範囲は18~126点である.得点が高いほど,望ましい死の達成度が高い.

3. 遺族アウトカム

1)複雑性悲嘆

遺族の複雑性悲嘆の評価尺度Brief Greif Questionnaire(BGQ)10を使用した.5項目からなり,合計得点が高いほど,複雑性悲嘆の可能性が高い.

2)抑うつ

遺族の抑うつの評価尺度として,Patient health questionnaire 9(PHQ-9)11を使用した.9項目から成り,合計得点が高いほど抑うつ症状の重症度が高い.

分析方法

まず,質改善活動について単純集計を行った.次に,がん患者遺族から得られた回答に対して,施設IDに基づいて各研究参加施設から得られた質改善活動の実態に関する回答を結合させた.その後,各施設の質改善活動の実施の有無もしくは実施の程度を2群に分け,全般的満足度,CES,GDI,BGQ,PHQ-9の得点関連について対応のないt検定を行った.有意水準はP<0.05とし,両側検定を行った.統計解析はSAS® OnDemand for Academicsを使用した.

倫理的配慮

J-HOPE4研究は東北大学大学院医学系研究科倫理委員会および研究参加施設の倫理委員会の承認のもと実施された(承認番号:2017-2-236-1).

結果

応諾状況

J-HOPE4のすべての潜在的な対象者は17,948名であり,除外者2,802名,宛先不明188名を除いた14,958名に調査が実施された.返信から回答拒否の1,521名を除いた7,939名(53%)のデータを分析した.分析対象となった対象者の背景を 表1に示す.

表1 対象者背景

質改善活動の実態

質改善活動の実態を 表2に示す.2016年度日本ホスピス緩和ケア協会の自施設評価共有プログラムへの参加は85%,多職種カンファレンスの開催頻度は週3~5回が44%,カンファレンスに参加する職種数は7~11職種が32%であった.遺族ケアに関しては,遺族会は73%,遺族への手紙等の送付は87%,遺族への電話は34%,葬儀や通夜への参列は12%であった.

表2 質改善活動の実施状況

質改善活動と遺族調査アウトカムの関連

質改善活動と遺族調査アウトカムの関連を 表3に示す.自施設評価共有プログラムに参加していた施設では,全般的満足度の得点が有意に高い(ES: Effect Size=0.58, P=0.03).職種カンファレンスの開催頻度が高い施設では,全般的満足度,GDIの得点が有意に高い(ES=0.31/0.34, P=0.04/0.03).カンファレンスに参加する職種数が多い施設では,GDIの得点が有意に高い(ES=0.36, P=0.03).遺族会を実施している施設では,全般的満足度,CESの得点が有意に高い(ES=0.62/0.38, P=0.002/0.03).手紙等の送付を実施している施設では,全般的満足度の得点が有意に高い(ES=0.55, P=0.02).遺族への電話を実施している施設では,全般的満足度,CES, GDIの得点が有意に高く(ES=0.55/0.61/0.42, P=0.0009/0.0003/0.01),BGQの得点が有意に低い(ES=0.36, P=0.03).葬儀や通夜への参列を実施している施設では,全般的満足度,CESの得点が有意に高く(ES=0.48/0.59, P=0.04/0.01),PHQ-9の得点が有意に低い(ES=0.56, P=0.02)という結果であった.

表3 質改善活動と遺族調査アウトカムとの関連
表3 続き

考察

本研究の主な知見は,緩和ケア病棟における質改善活動は受けた医療に対する質の評価や望ましい死の達成によい影響を与える可能性があること,遺族ケアを実施していた施設の遺族の抑うつや複雑性悲嘆の程度は低い傾向にあったことである.

自施設評価共有プログラムへの参加・多職種カンファレンスの開催・カンファレンスに参加する職種数が多いなどの緩和ケア病棟での質改善活動の実施状況がよい施設は,受けた医療に対する評価や望ましい死の達成度が高い傾向にあり,日常的な質改善に関する試みが患者・家族に対する緩和ケアの向上に資する可能性を示唆した.しかし,質改善活動の実施状況と,BGQやPHQ-9の得点間では統計学的に有意な差は認められなかった.Miyajimaらは12,ケアの質が高いほど遺族の複雑性悲嘆が軽減することを明らかにしたが,今回の研究は施設に対する検討であったため検出力が低かったことが影響したのかもしれない.

日本医療機能評価機構による緩和ケア機能の認定の有無に関しては全般的満足度では有意な傾向があったものの,これを含めてすべてのアウトカムに関連しなかったが,この機構による評価は緩和ケア病棟の構造・プロセスを中心とした評価であることがアウトカムへの影響が小さかった理由かもしれない.

質改善活動の各項目と全般的満足度,CES,GDIの関連は必ずしも一貫性があるものではなかった.理由として施設数が十分に多くなかったこと,全体的に質が高いケアが行われている施設が調査に参加していたこと,探索的に多くの統計学的検定を行っているため統計学的検定の多重性により有意となった項目があった可能性などが考えられる.

遺族ケアについては,先行研究と同様に遺族ケアを実施している施設は遺族の抑うつや複雑性悲嘆の程度が低い傾向にあった13.坂口らは,ホスピス・緩和ケア病棟で提供された遺族ケアサービスに対して,遺族の88%~94%が「とても助けになった」もしくは「助けになった」と回答していることを報告しており,本研究の結果を支持するものである14.一方で,遺族ケアの提供体制の現状に関する先行研究15では,遺族ケアを実施するうえでの多くの課題が明らかとなっており,これらを解決し遺族ケアの提供体制を整えることが必要である.

本研究の限界は,1)J-HOPE4研究へ参加した施設は当時の緩和ケア病棟のうち59%であり,遺族調査に積極的に参加する施設は今回測定した項目以外にも質改善活動を精力的に実施している質が高い施設であった可能性がある.2)今回は施設を対象とした分析のため,標本数があまり多くないため検出力が低く,ESが中程度であっても統計学的に有意にならなかったのかもしれない.3)遺族調査の回答率が53%であり,質が悪いと評価した遺族や抑うつ・悲嘆が強い遺族が回答しない傾向にあるというバイアスの可能性がある.

結論

本研究により,自施設評価共有プログラムへの参加・多職種カンファレンスの開催・カンファレンスに参加する職種数が多いなどの質改善活動は,受けた医療に対する評価や望ましい死の達成によい影響を与えていたことが明らかとなった.また,遺族ケアを行っていた施設では遺族の抑うつや複雑性悲嘆の得点が低かった.緩和ケア病棟の質改善活動は患者や家族に対するケアの質や望ましい死の達成,複雑性悲嘆や抑うつの軽減によい影響を与える可能性がある.

謝辞

J-HOPE4にご協力いただいたご遺族ならびに研究参加施設の方々に心より感謝申し上げます.また,日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団,日本ホスピス緩和ケア協会の皆様のご支援・ご協力に感謝申し上げます.

研究資金

本研究の実施にあたっては,財団法人日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団より資金提供を受けた.

利益相反

木澤義之:講演料等(第一三共株式会社,中外製薬株式会社)

その他:該当なし

著者貢献

田口はデータの解析・解釈,原稿の起草に貢献した.升川は,データの収集,原稿の批判的推敲に貢献した.青山,森田,木澤,恒藤,志真は研究の構想,原稿の批判的推敲に貢献した.宮下は研究の構想,データの解析・解釈,原稿の批判的推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2023 日本緩和医療学会
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