Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
活動報告
緩和ケア病棟の面会制限は感染対策によって解除できるか~COVID-19患者の発生状況と面会データからの考察~
田所 学 高橋 美穂子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2023 年 18 巻 4 号 p. 293-298

詳細
Abstract

COVID-19の流行による面会制限は緩和ケア病棟においても例外ではなく,患者と家族は分断を余儀なくされてきた.済生会宇都宮病院では,2023年7月,感染対策を徹底したうえで緩和ケア病棟での面会制限を解除し,それに伴い,制限解除の前後2カ月間の在棟患者数・年齢・在棟日数・在宅復帰率,COVID-19患者の発生,面会者の続柄および滞在時間,病床利用率を調査した.調査期間に80名の患者が在棟したが,COVID-19患者は認めず,面会者からの面会後の感染報告もなかった.制限解除後2カ月間の1回あたりの滞在時間の中央値は83分,面会者の続柄は親族が89%を占めた.制限解除決定前2カ月間の病床利用率の平均は45%であったが,制限解除後2カ月間は76%で,流行以前の水準に回復した.感染対策を徹底することにより,COVID-19の発生を増やすことなく,PCUにおける面会制限を解除できる可能性が見出された.

Translated Abstract

To limit the spread of coronavirus disease 2019 (COVID-19), restrictions on visitation were implemented in palliative care units (PCUs) during the pandemic, requiring inpatients and their families to be separated. In July 2023, Saiseikai Utsunomiya Hospital lifted the restrictions on visiting in the PCU after implementing thorough infection control measures. During the study period (May 8, 2023 to September 17, 2023), 80 patients were admitted to the PCU, no COVID-19 cases were reported, and no visitors reported becoming infected after visitation. The average number of visitors per day during the first 2 months after restrictions were lifted was 23, with a median stay of 83 minutes per visit. The percentage of visitors who were relatives of inpatients was 89% after restrictions were lifted. The average bed utilization rate was 45% during the 2 months before the decision to lift the restrictions, and was 76% during the 2 months after restrictions were lifted, recovering to the pre-pandemic level. These results demonstrate that visiting restrictions in PCUs can be lifted without increasing the incidence of COVID-19 if thorough infection control measures are taken.

緒言

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行当初より,ほぼすべての病院で,ほぼすべての患者への面会が制限され,病棟から家族の姿が消えた1

日本緩和医療学会らが2020年5月に実施した,全国の緩和ケア病棟(以下,PCU)におけるCOVID-19への対応に関する調査2では,PCUの98%で面会が制限されていた.また,日本ホスピス緩和ケア協会が2021年11月に行ったPCU管理者への調査3では,77%がCOVID-19の流行により緩和ケアの質が低下したと回答し,その理由として面会制限を挙げた.これまで,国内における面会制限についての議論は,患者の権利やケアの質という視点において十分ではなかった4.しかし,とくにPCUでの面会には「お見舞い」以上の意味があり,それはプライバシーの保たれた空間で親しい人々が体にふれあいながら十分な時間を過ごすことでしか達成できない.進行がん患者と家族にとって共にいることは重要であり,面会制限は患者の孤独のみならず,遺族の悲嘆の複雑化・長期化を引き起こす可能性も指摘されている5

2021年11月以降,政府は医療機関に対し,対面での面会を検討するよう求めてきたが6,7,未だ面会制限の見直しが不十分な病院は少なくない4.この背景には,面会制限を緩和し院内で感染クラスターが発生した場合に,患者の命を危険に晒し,世間からも非難されうるという現場の不安があると推測される.また,PCUにおける面会制限についての実態調査や制限解除の報告が乏しく,現場における実践の情報が広く共有されていないことも一因と考える.

済生会宇都宮病院(以下,当院)は,救命救急センター,地域がん診療連携拠点病院等の指定を受け,地域中核病院としての役割を担っており,PCUは20床(四床室:2,個室:12)で運営されている.PCUにおいては,COVID-19流行開始からの約3年間,病状説明など主治医が必要と判断した場合に,同居者とそれに準ずる人のみ10分以内の面会を許可し,COVID-19患者は認めなかった.5類感染症移行を機に,感染対策を徹底したうえで段階的に面会制限の見直しを行うことを決め,PCUのみ2023年7月18日に面会制限を解除した.

当PCUでの実践が全国の面会制限緩和にわずかでも寄与することを期し,本稿では,感染対策の実際と制限解除後の面会者の訪問状況,COVID-19患者の発生状況,および病床利用率の変化について報告する.

方法

面会は当院感染対策委員会の指針に基づき実施し,面会者は看護師による健康チェックを受け,①体温37.0°C未満,②過去7日間発熱がない,③咳や喉の痛み・違和感がない,④味覚や嗅覚の異常がない,⑤体が重い・疲れやすさがない,⑥同居家族に上記症状がない,⑦COVID-19感染者・感染疑いの者との接触がない,以上をすべて満たしていることが確認できたうえで,病室にて面会した.四床室の患者は,原則として面会時のみ個室へ移動した.面会者の続柄や人数,滞在時間に制限は設けなかったが,感染対策遵守の可否やCOVID-19以外の感染症の流行状況も鑑み,中学生以下の小児の面会は主治医による許可制とした.面会に際しては,マスク着用と手指消毒を必須とし,飲食は遠慮いただいた.さらに,面会日から10日以内に面会者がCOVID-19陽性となった場合には,病院に連絡するよう依頼した.入院期間中に発熱や呼吸器症状が生じた場合の方針として,主治医の裁量でCOVID-19のスクリーニング検査を実施し,陽性となった場合にはPCUの個室で診療を継続することとした.

本調査には,2023年5月8日(5類感染症移行日)から9月17日(制限解除2カ月後)までの病棟管理日誌と,制限解除後2カ月間の病棟訪問受付票を用いた.調査項目は,入棟患者の数・年齢・在棟日数・在宅復帰率,COVID-19患者の発生状況,面会者の続柄および滞在時間,病床利用率とした.病床利用率(%)は厚労省の定義8に基づき,在院患者数÷病床数×100で算出し,在院患者とは24時に在院中の患者とした.本調査は当院倫理審査委員会の承認を受け実施した(承認番号2023-19).

結果

調査期間の約4カ月間に80名の患者が在棟した.年齢の中央値は75歳(四分位範囲:67–80),そのうち,期間内に退院した70名の在棟日数の中央値は16日(同:9–31),在宅復帰率は26%であった.制限解除後2カ月間の在棟患者は45名で,その期間の面会は336名(延べ1401回),続柄は親族が89%を占めた( 表1).1回あたりの滞在時間の中央値は83分,5時間以上の付き添いは52名(延べ144回)であった.続柄ごとの滞在時間のヒストグラム( 図1)は,続柄が遠くなるにつれて短時間側へ偏位し,滞在時間が15分以内の割合が増加した.小児の面会は患者5名(11%)に対して行われ,10名(延べ11回)であった.

表1 面会制限解除後2カ月間の面会者(N=336)の続柄と滞在時間
図1 面会者の続柄ごとの滞在時間のヒストグラム

調査期間中,COVID-19のスクリーニング検査の対象となった患者はおらず,COVID-19患者は認めなかった.また面会者からも面会後の感染報告はなかった.

COVID-19の5類感染症移行後,病床利用率は病院全体では変化しなかったが,PCUでは,面会制限の緩い施設への転院も目立ち30%台まで低下し,制限解除が決定されるまでの2カ月間の病床利用率の平均は45%であった.しかし,制限解除後はCOVID-19流行以前の水準(2019年度:77%)に回復し,解除後2カ月間の平均は76%であった( 図2).

図2 緩和ケア病棟の病床利用率の推移

考察

感染対策を徹底したうえでPCUでの面会制限を解除した結果,患者と家族の面会の機会は大幅に増加し,なおかつCOVID-19患者は認めなかった.また,病床利用率はCOVID-19流行以前の水準に回復した.

COVID-19流行中,多くの病院が感染の広がりを危惧し,「面会は1回15分」「同居家族または血縁関係のある親族2人のみ」などの条件を採用してきた4.一方,当PCUでは,面会者の続柄・人数・滞在時間に制限を設けず,調査期間が,栃木県でも感染者の増加がみられた「第9波」の時期9と一致していたにもかかわらず,COVID-19患者は認めなかった.15分間の面会では家族が患者に対する精神的,情緒的援助を行うことは困難であり,患者の満足も得られにくいと指摘されている10.本報告でも,滞在時間の中央値は83分,面会者の15%が5時間以上の付き添いをしており,15分ではいかに短いかがわかった.

面会制限は,WHOの勧告11に従い各国で実施された多くの感染対策の一つであったため,面会制限の効果を他の対策と区別して分析した研究はみられない12.また,何らかの感染対策の実施により面会制限を解除できるかを論じた報告も検索した限り認めなかった.当PCUで行った感染対策のうちどれが効果的であったかは明らかではないが,今回とくに重要視したのは病棟にCOVID-19が持ち込まれないようにすることであり,面会者のセルフチェックに委ねずに,一人ひとりに対して看護師が対面で健康チェックを行ったことが有効であった可能性が考えられる.

米国の医療介護施設では,家族は単なる訪問者ではなくケアにおける重要なパートナーであると考え,一般面会者とは異なる指針に準拠した対応を行っている13,14.また,連邦政府や州などの自治体は,面会制限の例外規定を明示し,面会方針に終末期などの「思いやりのある例外」を含めることを推奨している15.一方,国内では,病院全体の方針としては面会禁止と公表しつつも,現場では看取りの際などに限り個別に融通をきかせる運用が行われてきた4.こうした二重基準の存在下では,患者・家族は面会の機会確保を主張しにくく,主治医や管理者の恣意的な判断に委ねることになる4.米国のように,どのような場合に例外が認められるのかが公表されていれば,患者・家族は自ら面会を希望して病院側と相談することが可能になり4,面会制限下においても患者の権利が守られやすくなる.

面会制限が影響を及ぼした別の側面として,最期の療養場所の選択が挙げられる.COVID-19患者数が多い都道府県では,がんの自宅死亡割合が高かったことが報告され,その原因として,PCUの受け入れ制限や面会制限などに伴い在宅看取りのニーズが増えた可能性が指摘されている16.訪問診療医療機関を対象とした調査17では,COVID-19の流行に伴い7割以上が「在宅看取りが増えた」と回答し,その理由として94%の医療機関が面会制限を挙げた.本調査においても面会制限中の病床使用率が低下していることから,本来PCUで最期の時間を過ごしたかった方々が,面会制限のためやむを得ず在宅看取りを選んでいたのかもしれない.

本報告の限界は,①単一病棟におけるごく短期間の後方視的報告である.②COVID-19の検査は臨床症状に基づき主治医の裁量で行われたため,症状緩和に徹するPCUではCOVID-19の発生を捉えきれていない可能性がある.③今回,面会者の89%は親族であり,COVID-19が収束していない状況において親族以外は面会を控えた可能性がある.④数値データのみの調査であり,制限解除に伴う関係者の心情を考察するには不十分である.

結論

感染対策を徹底することにより,COVID-19患者の発生を増やすことなくPCUにおける面会制限を解除できる可能性が見出された.現行の多くの感染対策のうち何が有効かについては,さらなる研究が必要である.

謝辞

当PCUで面会制限解除を維持できてきたのは,感染対策に細心の注意を払いながら面会する方々のお陰であり,感謝申し上げます.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

田所は,研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.高橋は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2023 日本緩和医療学会
feedback
Top