2023 年 18 巻 4 号 p. 253-259
ホスピス・緩和ケアで培われたスピリチュアルケアの本質を,子どもたちに伝えることを目的に,「折れない心を育てるいのちの授業プロジェクト(OKプロジェクト)」を2018年より開始した.教材開発,講師養成を行い,授業を行った.2023年9月までに,認定講師は189人となり,いのちの授業は,延べ720回(小学校202, 中学校88, 高校25, 大学・専門学校78, その他327),参加者53,360人の実績であった.授業後の感想(自由記載)から,自己肯定が強まり,他者への思いやりが生まれる内容が多く寄せられた.認定講師向けのフォローアップとして,認定講師同士の学び合う場を定期的にオンラインで開催し,プレゼンテーションの練習,フィードバックできる環境を整えた.折れない心を育てるいのちの授業は,解決が難しい苦しみを抱えた子どもが穏やかさを取り戻し,コンパッション・コミュニティの実現に近づける可能性がある.
In 2018, the OK Project was launched with the aim of sharing with children the essence of spiritual care fostered in hospice and palliative care. The project developed teaching materials, trained certified instructors, and delivered classes. By September 2023, 189 instructors were certified and a total of 720 programs delivered (202 in elementary schools, 88 in junior high schools, 25 in high schools, 78 in universities and vocational schools, and 327 in other schools) with 53,360 participants. Comments from the participants after the classes (freely written) indicated that they found support from their painful experiences, felt relieved after listening to the stories, wanted to be supportive themselves, and wanted to share what they had learned with others. As a follow-up for certified instructors, a place for certified instructors to learn from each other was regularly held online, and an environment was created where they could practice their presentations and provide feedback. OK Project has a potential to contributing to Compassionate Community because children can live in peace while embracing suffering that is difficult to resolve.
いじめ,不登校,自殺など青少年の抱える課題はきわめて重要である.文部科学省は,学習指導と並行して生徒指導にも力を入れ,児童生徒が,社会の中で自分らしく生きることができる存在へと,自発的・主体的に成長や発達する過程を支える教育を目指してきた1).厚生労働省も若者を支えるメンタルヘルスサイトをWeb上で開設し,困ったときの対応や相談窓口の周知を行ってきた2).しかし15~45歳代の死因1位は自殺であり3),不登校の生徒数は年々増えており4),子どものケアを,学校の教職員だけで対応することは困難な状況である.
近年,コンパッション・コミュニティが注目されている.その考えには,ケアをする人とケアを受ける人という構造から,お互いがケアを提供し,ケアを受けるコミュニティの重要性が謳われている5).エンドオブライフ・ケア協会は,ホスピス・緩和ケアで培われてきたスピリチュアルケアのエッセンス(解決が難しい苦しみへの援助)を,子ども向け教材を開発し,講師養成を行い,折れない心を育てるいのちの授業として,全国に届ける活動を行ってきた.授業を受けた子どもたちが,自分の困難と向き合い,他者への思いが向上するなど,一定の成果が得られたので報告する.
限られたいのちの患者・家族の支援では,スピリチュアルケア(解決が難しい苦しみを抱えた人が穏やかになるためのケア)が重要である.2015年に一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会を設立し,スピリチュアルケアの本質を,①苦しんでいる人は,自分の苦しみをわかってくれる人がいるとうれしいことを意識して聴く(援助的コミュニケーション),②相手の苦しみをキャッチし,解決できる苦しみは解決する,③解決できない苦しみがありながらも,相手が穏やかになれる支えをキャッチする,④相手の支えを,対話を通して強める,⑤援助者自身の支えを知る( 図1)として,地域コミュニティでスピリチュアルケアを実践できる担い手づくりを行ってきた6).この内容を子どもたちに届けるために2018年に「折れない心を育てるいのちの授業プロジェクト(OKプロジェクト)」を開始した7,8).
教材として,スライド,動画を使った講義をもとに,ワークシート( 図2)を用いた個人ワーク,考えを話し合うグループワーク,自分ごととして捉えやすい構成を開発した.標準カリキュラムは,45分×2コマであり,レッスン1:苦しみから支えに気づく(なぜ人は自分や他者を傷つけるのか?解決できる苦しみと解決できない苦しみ,支えとなる関係,選ぶことができる自由,将来の夢),レッスン2:苦しむ人を前にしてわたしにできること(わかってくれる人がいるとうれしい,聴くこと(反復)),レッスン3:自分を認め大切にする(どんなときに自分を認め大切に思えるか,自分が誰からも必要とされていないと感じる苦しみ)とした.折れない心を育てるいのちの授業の流れを 表1に示す.
いのちの授業認定講師を養成するために,年に4回,ワークショップを開催した.ワークショップを受講した後に,認定講師希望者は模擬授業を実施した映像を提出.独自のルーブリック評価表( 表2)に基づき,採点のうえ,認定者による対話型の面談を通して,授業のフィードバックや知識の理解度確認を行った.これらをもとに,最終的な講師認定を行った.いのちの授業は,教育委員会,校長会,自治体関係者,口コミなどにて周知を行い,依頼を受けた学校に出前授業(対面+オンライン)として実施した.授業後は,無記名の自由記載の感想を任意提出の形で回収し,個人情報に配慮したうえで,キーワードをもとに集計を行った.
2018年9月より講師養成ワークショップを15回実施し,551人が受講,その後2023年9月末までに,189人(医療59%,介護13%,一般事務など28%,認定時に大学生4名,高校生1名,中学生1名,小学校5年生1名を含む)が認定講師となった.いのちの授業は,2018年1月~2023年9月30日までに延べ720回(小学校202,中学校88,高校25,大学・専門学校78,その他327),参加者 53,360人の実績であった.
授業後の感想(自由記載)から,キーワードをもとに集約し,授業を通して気づいたことや学んだこと(6項目)と自分と相手に向けた今後のアクション(6項目)にまとめた.
認定講師同士の学び合う場を定期的にオンラインで開催し,プレゼンテーションの練習,フィードバックできる環境を整えた.さらに認定講師が地域とのつながりをもとに他団体との交流も広がり始めている9).
15歳から45歳までの年代では,死因の1位は自殺であり3),自尊感情・自己肯定感を向上させるための教育は喫緊の社会課題である10).いのちに関わる内容を子どもたちに伝える試みは,A.デーケンが,死への準備教育として社会的に知られるようになった11).その後,養護教諭による活動12)助産師によるいのちの授業13),遺族による活動14),などの報告がある.しかし,学校側の体制の課題もあり,いのちの授業は必ずしも広く普及していない.いのちの授業の多くは,1人の講師や教員が個々の工夫で行う内容であり,体系立てて教材を開発し,講師養成を行い,いのちの授業を展開している報告は全国でも少ない.
2018年9月より講師養成ワークショップを開始し,2023年9月末までに189人の認定講師を養成し,いのちの授業を2018年1月~2023年9月30日までに延べ720回(参加者53,360人)開催できた.短期間でこれだけの実績を残すことができたのは,伝えやすい教材,講師認定システムの整備,講師認定後のサポート,依頼された学校と講師とのマッチングなどが充実しているからと思われる.
授業後のアンケートの自由記載内容も,自分の苦しみと向き合い,自分にとっての頑張れる理由(支え)に気づき,困難と向き合う力や困っている誰かを思いやる気持ちを表したものが多かった.子どものケアを専門職だけが行うのではなく,苦しみを抱えた当事者同士が,お互いを気づかい,支え合うことが,コンパッション・コミュニティ形成に寄与する可能性があると思われた.
いのちの授業がさらに広がっていくためには,活動資金の調達,認定講師のフォローアップ,周知方法と認定講師のマッチング,授業後のフォロー,年齢に応じたコンテンツの配慮,受講する生徒の個別の配慮などを挙げることができる.これらの課題に取り組みながら社会課題解決に向けて,活動を広げていきたい.
ホスピス・緩和ケアで培われてきたスピリチュアルケアのエッセンスを,折れない心を育てるいのちの授業として教材開発し,認定講師を養成し,出前授業を行った.自由記載の感想文からは,自己肯定が強まり,他者への思いやりが生まれる内容が多く寄せられた.折れない心を育てるいのちの授業は,コンパッション・コミュニティの実現に寄与する可能性がある.
認定講師養成研修にあたり,全国の協会認定ELCファシリテーターの皆様には,心より厚く御礼申し上げます.
すべての著者の申告すべき利益相反なし
小澤,千田は,研究の構想,データの収集,分析,解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.久保田は,研究の構想,データの収集,分析,解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.濱田は研究の構想,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.