2024 年 19 巻 1 号 p. 47-51
【目的】日本の病院では死亡した患者に対して,退院までの間に医療スタッフが哀悼の意を表する慣習がみられる.全国での見送りの実態を知る予備調査として,死亡確認から退院までの流れを調査した.【方法】全国の病院に勤務する医療者を対象に,インターネットを利用した質問紙調査を実施した.【結果】アクセス数345, 有効回答数101.夜間・休日の看取りは87%が当直・当番医だった.搬送業者のお迎えは77%が病室まで来ていた.葬送儀礼を行っていたのは13%であった.退院経路は正面玄関8%,裏玄関82%,救急出入口5%,ご遺体専用出口5%であった.葬送儀礼を行うことに肯定的な意見が23%,否定的な意見が19%あった.【考察】見送りのときに葬送儀礼を行っている病院は13%と少数だった.
Purpose: In Japanese hospitals, it is customary for medical staff to offer condolences to patients who have died before they are discharged. We conducted a preliminary survey to learn the actual status of sending off patients nationwide, we investigated the process from confirmation of death to discharge from the hospital. Methods: An Internet-based questionnaire survey was conducted on medical staff in hospitals nationwide. Results: The number of accesses was 345, and the number of valid responses was 101. Deaths were confirmed by the doctor on duty at night or on holidays in 87% of all hospitals. The carrier came to the patient’s room in 77%. Ceremonies were performed in 13%. The discharge route was the main entrance (8%), back entrance (82%), emergency exit (5%), and dedicated exit (5%). The percentage of positive and negative opinions about holding a ceremony was 23% and 19%. Discussion: A small number (13%) of hospitals offered ceremonies at the time of the send-off.
病院で死亡した患者に対して,退院までの間に医療スタッフが哀悼の意を表する慣習が日本の病院ではみられる1)(以下,一連の行動を「見送り」とする).波平は,日本では死者供養のための儀礼は,数多くの仏教国の中でも,最も発達している2)と述べている.亡くなられた患者を丁寧に見送る行為は死者儀礼であると同時に,メディカルスタッフや遺族にとってのグリーフケア3)の一部と考えられる.富山赤十字病院では,看護手順に則り遺体を葬儀社に渡す際に霊安室で焼香してお参り(以下,焼香)を行うことになっているが,時間的制約もあり,実際すべての患者を丁寧に見送ることは難しい4).われわれは,2019年に富山赤十字病院における逝去時のケアとしての霊安室での焼香に関する意識および実態調査を行った4).亡くなられた患者をどう見送るかは重要だが,施設により対応が異なっている5,6).逝去時のケアとして,見送り方に関する報告はなく,見送りの場所に関する報告が散見される程度である7–11).本研究では,全国の病院における見送りの実態を明らかにするために,全国の病院に勤務する医療者を対象に,インターネットを利用した調査を実施した.
調査期間は,2019年11月1日から2020年6月30日までの8カ月間で,全国の病院に勤務する医療者を対象に,死亡確認から退院までの流れについて,インターネットを利用した質問紙調査を実施した.ここでは,焼香や献花などを行って見送る行為を葬送儀礼と定義した.アンケートサイトは,Questant™有料版(株式会社マクロミル)を用いた.アンケートの依頼は,学会場でのビラ配り(日本緩和医療学会東海・北陸支部学術大会,死の臨床研究会年次大会)およびFacebook™(メタ日本法人)への投稿にて行った.個人情報保護法に則り,個人は特定されず,回答は任意であり,回答をもって同意したものとした.本調査は,富山赤十字病院倫理委員会の承認のもとに実施した(受付番号第273番).
病院の事情夜間・休日に看取り(死亡確認)を行う医師,業者のお迎え場所,葬送儀礼の実施・場所・内容,退院経路の4項目について回答を求めた.
回答者の意見葬送儀礼の実施状況,葬送儀礼を行うことについての回答者の意見を求めた.
総アクセス数は345件で,うち有効な回答は101件であった.回答者の職種は,医師37名,看護師59名,作業療法士2名,薬剤師1名,医療福祉士1名,臨床宗教師1名であった.所属機関は,大学病院8名,公立・公的病院54名,民間病院35名,その他4名であった.また所属部署は,緩和ケア病床36名,一般病床37名,療養病床5名,その他23名であった.所属機関の地域は,北海道地区5名,東北地区4名,関東・甲信越地区35名,東海・北陸地区33名,関西地区16名,中国・四国地区3名,九州地区5名であった.
病院の事情夜間・休日の看取りは78%が当直医であった.葬儀社や搬送業者のお迎えは77%が病室まで来ていた.見送り時に葬送儀礼を行っている病院は13%であった.退院経路は裏玄関が82%で最も多かった(表1).
葬送儀礼を行っている施設でも,ほとんど行っているのは50%であった.葬送儀礼を行うことについての回答者の意見は,「行うほうがよい」が23%であった(表1).また,「行うほうがよい」理由は,「患者の冥福を祈りたい」が78%と最も多かった.一方,「行わないほうがよい」理由は,「病院で宗教的なことを行うことは望ましくない」が42%と最も多かった.宗教が様々であり葬送儀礼にも色々あるため廃止した病院もあった(表2).
最初に,本研究は全国の病院の葬送儀礼に関する初めての調査研究で,予備調査ではあるが,病院に従事する医療者の見送りに関する意識と実態の一端が明らかとなった.
本研究においては,見送り時に葬送儀礼を行っている病院は13%と少数であった.葬送儀礼の意義は,遺族の悲しみを癒し,新生活への移行をスムーズにする「死の受容」が重要なポイントであるが,今後葬送儀礼のような社会的儀礼は割愛されていく方向にある12)と考えられている.しかし,葬送儀礼を行っていない病院の医療者を含めても,肯定的な意見が存在することが明らかになった.葬送儀礼は遺族にとって,また故人に関わった医療者にとって,生前の深い関係性を解消するための手続きであり13),グリーフワークとしても重要である14)と考えられている.2019年にわれわれは,逝去時のケアとしての霊安室での焼香に関する意識調査を行った4).「行うほうがよい」という意見は,医師で13%,看護師では45%であった.手を合わせる(合掌する),お辞儀をする(礼拝する),花を手向ける(献花する)などの習俗的な行為であっても,この儀式を経験することこそ,「死の受容」を容易にさせる6)のではないかと考える.
本研究は,(1)回答者が施設を代表していないこと,(2)回答者の宗教的背景を考慮していないこと,(3)振り返りバイアスが存在することの限界がある.本研究の結果を踏まえて,(1)全国のホスピス・緩和ケア病棟で焼香や献花などの葬送儀礼がどの程度の施設で行われているのか,また,この調査は見送る側の医療者の意識調査であり,(2)遺族が退院の際の葬送儀礼をどう評価しているのか,について明らかにするのが今後の課題である.
全国の病院の見送りの実態を明らかにするための予備調査として,全国の病院に勤務する医療者を対象に,インターネットを利用した調査を実施した.葬儀社や搬送業者のお迎えは77%が病室まで来ていた.逝去時のケアとしての見送りのときに葬送儀礼を行っている病院は13%と少数だった.退院経路は裏玄関が82%と最も多かった.
本研究は,第26回日本緩和医療学会学術大会で発表したものに加筆・修正を加えたものである.
本研究は,2021年度公益社団法人富山県医師会医学研究助成費の補助を受け実施した.
すべての著者の申告すべき利益相反なし
小林は研究の構想およびデザイン,研究データの収集・分析,データの解釈,原稿の起草に貢献した.村上はインターネット調査およびデータの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.