2024 年 19 巻 1 号 p. 13-22
遺族調査のアウトカムに対するさまざまな患者背景,遺族背景の寄与度を明らかにすることを目的とし,2014年,2016年,2018年に実施された全国遺族調査のデータの二次解析を行った.ケアの構造・プロセスの評価(CES),望ましい死の達成度(GDI),複雑性悲嘆(BGQ),抑うつ(PHQ-9)で評価した.大規模なデータで網羅的な遺族調査のアウトカムへの分析を行ったことで,今後の分析に際して交絡変数の調整の必要性やどの変数で調整すべきかが明らかになった.全体としてCES(Adj-R2=0.014)や全般満足度(Adj-R2=0.055)に今回検討した背景要因の寄与度は低かった.GDI(Adj-R2=0.105)に関しては相対的にやや高く,PHQ-9(Max-rescaled R2=0.200)やBGQ(Max-rescaled R2=0.207)に関しては無視できない程度と考えられた.
A secondary analysis of data from national bereavement surveys conducted in 2014, 2016, and 2018 was conducted with the aim of identifying the contribution of various patient and bereavement backgrounds to the outcomes of the Bereavement Survey. The data were evaluated in terms of structure and process of care (CES), achievement of a desirable death (GDI), complexity grief (BGQ), and depression (PHQ-9). The large data set and comprehensive analysis of bereavement survey outcomes clarified the need for adjustment of confounding variables and which variables should be adjusted for in future analyses. Overall, the contribution of the background factors examined in this study to the CES (Adj-R2=0.014) and overall satisfaction (Adj-R2=0.055) was low. The contribution of the GDI (Adj-R2=0.105) was relatively high, and that of the PHQ-9 (Max-rescaled R2=0.200) and BGQ (Max-rescaled R2=0.207) was non-negligible.
わが国では,専門的緩和ケアの質の評価と維持・向上を目的とし,日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団研究事業「遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関する研究(J-HOPE研究)」をはじめとした全国的な遺族調査が継続的に実施されてきた1–4).J-HOPE研究では緩和ケアの構造・プロセス評価尺度:Care Evaluation Scale(CES)5),遺族代理評価による望ましい死の達成の評価:Good Death Inventory(GDI)6),全般的満足度の評価,複雑性悲嘆の評価: Brief Grief Questionnaire(BGQ)7),抑うつの評価:Patient Health Questionnaire 9(PHQ-9)8)の五つのアウトカムについて評価が行われている.これら五つの関連要因についても先行研究で明らかにされてきた.Miyashitaら9)は,望ましい死の達成度には「身体的および精神的な健康状態」,「個人として尊重されること」,「患者・遺族の年齢およびその他人口統計学的要因」が有意に関連していることを明らかにした.また,Aoyamaら10)は,複雑性悲嘆・抑うつには「肉体の死後も魂は生き残るという信念」「身体的・精神的健康状態が悪い」などが有意に関連していることを明らかにした.このように,各々のアウトカムに対する患者・遺族背景の関連要因がいくつか明らかになっている.しかし,CES・GDI・全般的満足度・複雑性悲嘆・抑うつに関してそれらの関連要因を網羅的に示している研究はまだない.遺族の背景要因にはさまざまな性質がある.「性別」「年齢」「原発部位」などの患者属性は個々の患者が持っている固有の特性であり,ケアによって変えることはできない.遺族の「続柄」「学歴」などの遺族属性も同様である.複雑性悲嘆や抑うつは,遺族の依存性,故人に対する愛着度・親密度や,遺族の気質などの遺族属性が本質的要因となり,これもケアによって変えることはできない.遺族の死亡前状況とは「こころの健康状態」「周囲の人が心配事や困りごとに耳を傾けてくれるか」など患者が亡くなる前の遺族の精神状態,生活状況,支援の実態を指すが,これらは適切な介入によって変化しうるものである.CESや全般的満足度などのケアの質評価は医療者に対する評価であり,回答する遺族の背景,つまり遺族属性によって本来変わるものではないが,実際にはそれらによる違いがあるため,分析の際にはそれらの要因によって調整した分析が行われることが多い.一方,複雑性悲嘆や抑うつは遺族の続柄などの属性が本質的な要因になりうるため,これもまた分析の際には調整した分析が行われることが多く,実際にはこのような調整はAd-hocに行われることが多い.このように,遺族調査のアウトカムには交絡要因として考慮しなくてはならない変数が様々ある.これらを網羅的に調べることにより,今後,遺族調査を企画する際に交絡因子として取得しておくべき変数が明らかになり,また,交絡の可能性を考慮し,事前に分析計画を立てることができる.
以上のことから,本研究では(1)過去のJ-HOPE研究のデータを用いてCES・GDI・全般的満足度・複雑性悲嘆・抑うつと背景要因の関連を網羅的に分析し,今後,調整変数として検討が必要な因子を明らかにすること,(2)CES・GDI・全般的満足度・複雑性悲嘆・抑うつに関してそれらの背景要因がどれほど寄与するのかを明らかにすることを目的とした.
郵送法による自記式質問紙調査である「遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関する研究(以下,J-HOPE研究)」のうち2014年に実施されたJ-HOPE3研究および,2016年に実施されたJ-HOPE2016研究,2018年に実施されたJ-HOPE4研究の3研究のデータを統合し,二次解析を行った.過去に行われた5回のJ-HOPE研究のうちこの3回のデータを用いた理由は,今回検討するすべてのアウトカムが収集されていることと,背景要因として共通して取得されているものが多いからである(表1).
J-HOPE3研究・J-HOPE2016研究・J-HOPE4研究の調査対象は以下である.日本ホスピス緩和ケア協会会員施設のホスピス緩和ケア病棟のうち,J-HOPE3研究の参加に同意した133施設,J-HOPE2016研究の参加に同意した71施設,J-HOPE4研究の参加に同意した187施設,合計391施設分のデータを分析した.J-HOPE3研究では参加を同意した遺族の中で2011年11月1日~2014年1月31日に死亡した患者のうち後述する選択基準を満たす1施設80名を連続後向きに同定し対象とした.期間内の適格基準を満たす死亡者数が80名以下の場合は全例を対象とした.J-HOPE2016研究では参加を同意した遺族の中で2013年11月1日~2016年1月31日の間に死亡した患者のうち後述する選択基準を満たす1施設80名を連続後向きに同定し対象とした.期間内の適格基準を満たす死亡者数が80名に満たない場合は全例を対象とした.J-HOPE4研究では参加を同意した遺族の中で2014年2月1日~2018年1月31日の間に死亡した患者のうち後述する選択基準を満たす1施設80名を連続後向きに同定し対象とした.期間内の適格基準を満たす死亡者数が80名に満たない場合は全例を対象とした.なお,J-HOPE4研究の一部はEASED研究と連結して実施されたため,EASED研究参加施設では80例を超えて送付を行った施設がある4).
3研究ともに適格基準は,①当該施設でがんのために死亡した患者の遺族(成人患者のキーパーソン,または身元引受人),②死亡時の患者および遺族の年齢が20歳以上,③患者の入院から死亡までの期間が3日以上の者とした.除外基準は,①遺族(キーパーソン,または身元引受人)の同定ができないもの,②退院時および現在の状況から遺族が認知症,精神障害,視覚障害などのために調査用紙に記入できないと担当医が判断したもの,③退院時および現在の状況から精神的に著しく不安定なために研究の施行が望ましくないと担当医が判断したもの,④家族にがんの告知がされていないもの,とした.
調査項目 1. ケアの構造とプロセスの評価ケアに対する評価尺度(CES 2.0)5)の短縮版を用いた.患者が亡くなる前1カ月以内に受けた医療についての遺族の評価であり,10項目合計60点満点を100点換算にして得点計算を行った.点数が高いほど受けた医療に肯定的な評価をしていることを示す.
2. ケアのアウトカムの評価患者の終末期におけるQuality of Life(QOL)の評価尺度(GDI)6)の短縮版を用いた.GDI短縮版は「からだや心のつらさが和らげられていること」,「望んだ場所で過ごすこと」など多くの人が共通して重要だと考える10の概念(コアドメイン)に加えて,「できるだけの治療を受けること」,「自然なかたちで過ごせること」など人によっては異なるが重要であると考える8の概念(オプショナルドメイン)からなる.それぞれの項目に関して,「全くそう思わない」から「非常にそう思う」の7段階で評価し,18項目の合計点を算出する.点数が高いほど肯定的な評価であることを示す.
3. 全般的満足度「全般的にホスピス緩和ケア病棟に入院中に受けられた医療は満足でしたか」という質問をし,「1. 非常に不満足」~「6. 非常に満足」の6段階で評価した.
4. 複雑性悲嘆複雑性悲嘆のスクリーニング尺度としてBGQ7)日本語版を用いた.5項目について3段階で回答する信頼性・妥当性が検証されている尺度である.合計点が高ければ高いほど,悲嘆の程度は強く,8点以上で複雑性悲嘆の可能性が高い,5~7点で可能性あり,1~4点で可能性が低いと定義されている.
5. 抑うつの評価抑うつのスクリーニング尺度としてPHQ-912)日本語版を用いた.9項目4件法の尺度であり,合計点が高ければ高いほど抑うつの程度が強く,0~4点は症状なし,5~9点は軽度,10~14点は中等度,15~19点は中等度~重度,20点以上で重度の症状と定義されている.
6. 患者背景・遺族属性・遺族の死亡前状況患者背景・遺族属性・遺族の死亡前状況について,各々の質問項目を表1に示した.患者背景とは,「性別」「年齢」「原発部位」など個々の患者が持っている固有の特性が含まれる.遺族属性も同様に,「続柄」「学歴」など遺族の特性を示す.遺族の死亡前状況とは「こころの健康状態」「周囲の人が心配事や困りごとに耳を傾けてくれるか」など患者が亡くなる前の遺族の生活状況や支援の実態のことを指す.
分析方法CES・GDI・全般的満足度については,患者・遺族背景との関連要因について,単変量解析をt検定または一元配置分散分析により行った.加えて,Spearmanの相関係数を用いて傾向性の検定を行った.また,関連の程度を示すために効果量としてCohen’s d統計量を算出した.d統計量は,0.8以上を大きな差,0.5以上を中程度の差,0.2以上を小さな差と解釈できる11).多変量解析としてCES・GDI・全般的満足度を目的変数とし,3研究すべての調査で共通して尋ねた項目のみを説明変数として重回帰分析を行った.その際,背景要因を「患者背景」「遺族背景」「遺族の死亡前状況」の三つにカテゴリー化し,説明変数を「患者背景」のみとした場合,「患者背景」「遺族背景」の場合,「患者背景」「遺族背景」「遺族の死亡前状況」の場合でそれぞれ重回帰分析を行い,寄与率(R2)を比較した.ここで,寄与率(R2)とは,説明変数群がどれだけの割合で目的変数の値を説明しているかの指標である.また,R2には説明変数の数が多ければ多いほど値が高くなるという性質があるため,説明変数の数に応じて決定係数が小さく補正されるようにした自由度調整済み決定係数(Adj-R2)も算出した.
複雑性悲嘆については,複雑性悲嘆の可能性が高いと判断される基準であるBGQ合計得点8点以上を複雑性悲嘆あり,8点以下として複雑性悲嘆なしの2値に分類した.抑うつについて,大うつ病性障害が疑われる中等度以上の抑うつありと判断されるPHQ-9合計得点10点以上を基準としてうつあり,0点以下をうつなしの2値に分類した.複雑性悲嘆と抑うつの2値データを取るアウトカムについては,患者・遺族背景との関連要因について,単変量解析としてカイ2乗検定を行った.加えて,Cochran-Armitage検定を用いて傾向性の検定を行った.また,関連の程度の大きさを示すためにCramer’s V統計量を算出した.V統計量は,0.5以上を大きな差,0.3以上を中程度の差,0.1以上を小さな差と解釈できる12).多変量解析として複雑性悲嘆あり・なし,うつあり・なしを目的変数とし,3研究すべての調査で共通して尋ねた項目のみを説明変数としてロジスティック回帰分析を行った.ロジスティック回帰分析も重回帰分析と同様に,背景要因を三つにカテゴリー化し,説明変数の組み合わせ別に寄与率(R2)を算出した.
ロジスティック回帰分析では,R2を理論上の最大値に合わせて調整したMax-rescaled R2を算出した.
有意水準は0.05未満とし,統計解析はSAS® OnDemand for Academicsを使用した.
倫理的配慮本研究は東北大学および研究参加施設の倫理委員会の承認のもとに実施した.(承認番号:2015-1-436/2016-1-015/2018-2-290)
本研究の回収状況について図1に示す.対象者37,160名(J-HOPE3: 12,231名,J-HOPE2016: 6,981名,J-HOPE4: 17,948名)のうち適格基準を満たす対象者は31,615名(J-HOPE3: 10,796名,J-HOPE2016: 5,673名,J-HOPE4: 15,146名)だった.そのうち宛先不明を除く31,226名(J-HOPE3: 10,630名,J-HOPE2016: 5,638名,J-HOPE4: 14,958名)に質問紙を送付し,21,589名(J-HOPE3: 8,036名,J-HOPE2016: 4,093名,J-HOPE4: 9,460名)から返信があった.回答拒否2,815名(J-HOPE3: 747名,J-HOPE2016: 547名,J-HOPE4: 1,521名)を除外する18,774名(J-HOPE3: 7,289名,J-HOPE2016: 3,546名,J-HOPE4: 7,939名)を本研究の解析対象とした.
対象者背景を表2に示す.患者背景については,年齢の平均±SDが74.7±11.5歳であった.性別は,男56.1%であった.がん原発部位は,肺21.9%,続いて胃11.0%,膵10.8%,結腸8.0%であった.遺族背景については,年齢の平均±SDが62.3±12.1歳であった.性別は,男性33.5%であった.続柄は,配偶者44.7%,続いて子38.6%であった.遺族の死亡前状況については,からだの健康状態が,「まあまあだった」53.4%,続いて「よかった」25.3%であった.こころの健康状態は,「まあまあだった」46.0%,続いて「よくなかった」32.3%であった.患者が亡くなる前に付き添った日数は,「毎日」67.4%,続いて「4~6日」14.4%であった.
2変量解析の結果から,各アウトカムと患者背景・遺族背景・遺族の死亡前状況について関連が認められた項目を表3に示す.すべての変数の結果には資料性があるため付録表で示す(付録表1~12).本研究は対象数が多いため,統計学的有意な項目が多かった.したがって,これらの結果を表3と付録表1~12で表した.表3では統計学的有意であった項目について「*」を用いて示し,有意な項目がどのカテゴリーにどの程度分布しているのかなど,全体像を視覚的に把握できるようにした.また,表3で示した有意な項目について,さらに付録表を用いて,効果量等を含めたより詳細な結果を確認することを意図した.
重回帰分析の結果を表4に示す.重回帰分析の結果,説明変数を患者背景のみとした場合,BGQ(R2=0.032, Max-rescaled R2=0.059),PHQ(R2=0.029, Max-rescaled R2=0.049)で寄与度が高かった.説明変数を患者背景・遺族背景とした場合では,BGQ(R2=0.057, Max-rescaled R2=0.104),PHQ(R2=0.051, Max-rescaled R2=0.086)で寄与度が高かった.説明変数を患者背景・遺族背景・遺族の死亡前状況のすべての項目とした場合では,GDI(R2=0.108, Adj-R2=0.105),BGQ(R2=0.112, Max-rescaled R2=0.207),PHQ(R2=0.118, Max-rescaled R2=0.200)で寄与度が大きく,背景要因との関連が大きいことが認められた.
本研究により,BGQ, PHQは対象者背景の寄与度が高く,相対的にGDI,全般的満足度は寄与度が低く,CESでほとんど寄与しなかったことが明らかになった.加えて,本調査で,各アウトカムに対する背景要因ひとつひとつの関連の程度が明らかになった.このような遺族調査のアウトカムの関連の程度や寄与度を網羅的に調べた先行研究はほとんどなく,この点は本研究の新規性を持った研究と考えられる.
複雑性悲嘆,抑うつは患者背景のみでも寄与度が5%程度あり,遺族背景を追加すると10%程度,遺族の死亡前状況を追加すると20%程度であった.この理由として,複雑性悲嘆や抑うつは,患者の年齢が若いほど悲嘆が強い傾向があるという患者要因や,遺族では配偶者の悲嘆が強いなど遺族要因が本質的に関わるからということが考えられる10).したがって,今後,遺族ケアの評価など,何らかの要因によるアウトカムの比較として悲嘆や抑うつを用いる場合は,対象者の背景を揃えるための調整が必須であると考える.さらに,遺族の死亡前状況を加えると寄与度が10%程度上がり,アウトカムへの影響が大きいことが認められた.しかし,遺族の死亡前状況については,ある要因を比較する場合にその中間変数となる可能性がある.例えば,患者の生前の家族ケアの悲嘆への影響を比較する場合に,家族ケアにより,患者が療養中の家族のこころの健康状態がよくなり,悲嘆が軽減するというように,遺族の死亡前状況が因果の流れの中間に位置付けられる場合がある.したがって,死亡前状況が因果関係のどの位置に存在するのかを考慮したうえで,調整が必要か否かを判断する必要性があると考える.
GDIに関しては遺族の死亡前状況の影響を考慮した解析の必要性が推察された.GDIは,遺族が患者の療養生活を振り返り,終末期におけるがん患者のQOLを評価するものである6).したがって,本来は患者背景が最も影響するべきであり,遺族の背景によって評価が変動してはいけないものである.しかし,本研究では,GDIと背景要因の寄与度について,患者背景が1.5%程度,遺族背景を加えた場合は3%程度と寄与度が小さかったが,遺族の死亡前状況を加えると10%程度に上昇した.また,2変量解析でGDIと遺族の死亡前状況との関連が中程度以上認められた項目として,「こころの健康状態」の「よくなかった」(d=0.66)と「非常によくなかった」(d=0.79)が認められた.家族の精神状態が悪かったときの患者の療養生活を振り返ることには,当時の出来事を悲観的に捉える心理的なバイアスが生じると推察される.それが,GDIの評価に影響を与えている可能性が考えられる.今後,GDIを正しく評価するために,遺族の死亡前状況による調整も必要であるが,それ以前に遺族の死亡前状況による心理的なバイアスに影響されるという,測定上の限界に留意して研究計画を立てることや,結果を解釈することが重要であると考える.
全般的満足度とCESに関しては対象者背景による影響をほとんど受けないことが明らかになった.全般的満足度とCESは,患者背景のみの寄与度はそれぞれ1%,0.3%,遺族背景を加えても1.1%,0.9%とほとんど寄与しない.これは全般的満足度とCESが対象者の背景によらず,行われているケアの質を評価することができていることを示している.また,遺族の死亡前状況を加えてもそれぞれ6%,1%程度の寄与度であり,死亡前状況によって全般的満足度は影響を受けるが,CESはあまり影響を受けないという結果であった.これは,医療者のケアが良ければ,こころの健康状態をはじめとする遺族の死亡前状況も改善し,満足度の向上につながるという相互関係によるものであると考える.したがって,全般的満足度が遺族の死亡前状況にある程度影響を受けることは性質上避けられないことであると考える.
以上より,五つのアウトカムと背景要因には,関連の強さにバラツキはあるものの計学的に有意な関連が認められた.したがって,いずれのアウトカムについても,背景要因で調整することが理想的である.調整の重要性は,複雑性悲嘆と抑うつで高く,GDIは中程度,全般的満足度とCESでは低いことが示唆された.
また,本研究で各アウトカムに対する各背景要因の関連の程度が明らかになった.具体的にどの変数で調整するかに関しては,原則として効果量が大きい順に調整変数として考慮すべきであるが,各研究の目的や関心をもつ説明変数によって異なると思われ,個々の目的に沿って臨床的に検討すべきである.多くの変数で調整する場合には傾向スコア法を用いることなども考えられる.
本調査で用いたJ-HOPE研究以外の遺族調査においても,これらの患者・遺族背景を潜在的な交絡変数として調整することは有用である.また,J-HOPE研究のような大規模調査に限らず,サンプル数が少ない研究においても,対象者の背景要因による交絡を調整することで,より信頼性のある結果が得られると考える.
本研究の限界は以下の5点である.1)今回は既に取得した変数において網羅的な関連の分析を行ったが,遺族調査のアウトカムに関する概念枠組みは提案されておらず,未取得の関連要因が存在する可能性がある.2)三つのJ-HOPE研究の回収率は62.9%から75%であり,未回収者によるバイアスがある可能性がある.3)対象者が専門的緩和ケアを受けたがん患者に限られており,一般的ながん患者や非がん患者にそのまま適用できるかはわからない.4)ケアの質(CES)や望ましい死の達成度(GDI)などの患者に関する評価は,,遺族が当時を振り返って評価しているため,リコールバイアスが生じた可能性があること.5)すべての対象に同じ質問を行うため,調査票の項目数が多くなり,対象の個別性を生かした調査が難しい.
本研究は全国遺族調査により,CES・GDI・全般的満足度・複雑性悲嘆・抑うつに関してそれらの関連要因を網羅的に分析し,調整が必要な交絡因子を明らかにした.これにより,五つのアウトカムと背景要因の関連性は,大小なりとも認められ背景要因による調整の必要性が示唆された.また,関連要因が網羅的に明らかになったことは,今後の緩和ケア研究において,因果関係を正しく評価し研究の信頼性を高めることにつながると考える.
J-HOPE3, J-HOPE2016, J-HOPE4にご協力いただいたご遺族ならびに研究参加施設の方々に心より御礼申し上げます.また,日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団,日本ホスピス緩和ケア協会の皆様のご支援・ご協力に感謝申し上げます.
本研究は日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団研究事業による助成を受けて実施した.
すべての著者の申告すべき利益相反なし
舘脇はデータの解析・解釈,原稿の起草に貢献した.宮下は研究の構想に貢献した.升川は研究の構想,データ収集に貢献した.青山,五十嵐はデータ収集に貢献した.森田,木澤,恒藤,志真は研究データの解釈に貢献した.すべての著者は原稿の批判的推敲,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.