Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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原著
一般病院の看護師による非がん疾患患者へのエンドオブライフケアの実践の自己評価に関連する要因
芥田 ゆみ 谷本 真理子池崎 澄江
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2024 年 19 巻 2 号 p. 99-107

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Abstract

【目的】一般病院の看護師が経験した非がん疾患患者へのエンドオブライフケア(EOLC)の実践の自己評価に関連する要因を明らかにする.【方法】一般病院の看護師1,161名を対象とした質問紙調査.【結果】がん648例,非がん306例の看取り事例を比較すると,非がんは,EOLC実践の自己評価(10段階)が低く,意向・希望の聴取,EOLCに関するチームでの話し合いの実施も少なかった(p<0.001).疾患別には,肺炎,心疾患で評価が低かった.EOLC実践の自己評価には,がん・非がんとも,意向・希望の聴取(がんβ=0.21, 非がんβ=0.16),チームでの話し合い(がんβ=0.25, 非がんβ=0.35)が関連していた.【結論】一般病院看護師による非がんのEOLC実践の自己評価はがんに比べ低く,患者の意向や希望を聞く技術の向上や,チームでの話し合いを実施するケア体制の整備を強化する必要がある.

Translated Abstract

Purpose: To elucidate the factors associated with self-evaluations of end-of-life care (EOLC) practices for non-cancer patients experienced by nurses in general hospitals. Methods: A questionnaire survey was conducted involving 1161 nurses from general hospitals. Results: Comparing the realities of 648 cancer cases with those of 306 non-cancer cases in terms of end-of-life care practices, it was found that significantly lower EOLC self-evaluation scores (on a 10-point scale), fewer instances of eliciting patients’ intentions or wishes, and fewer team discussions related to EOLC practices were observed in the non-cancer cases. (p<0.001). For each disease, pneumonia and heart disease tended to be lower. Self-evaluation of EOLC practices was consistently associated with eliciting patients’ intentions and wishes (β=0.21 for cancer, β=0.16 for non-cancer), and team discussions (β=0.25 for cancer, β=0.35 for non-cancer) for both cancer and non-cancer cases. Conclusion: General hospital nurses’ self-evaluations of EOLC practices for non-cancer patients were lower compared to those for cancer patients. It is necessary to enhance their skills in eliciting patients’ intentions and wishes and to implement a system of care for team discussion.

緒言

高齢者の多死社会が迫る現在,がん,非がん疾患(以下,非がん)患者ともに病院で亡くなる(68.3%)割合が高い 1.中でも,一般病院には急性期から終末期まで多様な患者が入院し,在院日数の短縮化 2によりめまぐるしく入退院が行われており,緩和ケアの専門家やサービス体制が不十分な 3環境下で,看護師はエンドオブライフケア(EOLC)の実践の機会が増えている.がん患者へのEOLCに関しては,一般病棟における看護師の困難4, 5や,やりがい 6を明らかにした研究が複数存在する一方,非がん患者を多数看取る一般病院での看護に焦点を当てたものは限定される.現在までに,熟練看護師の実践知を明らかにした調査から,患者の意向が状態悪化に伴いわかりにくくなる,職種によって患者のよい状態の判断が異なる,施設の体制や価値の相違によってケア継続がされにくい,生命維持療法を選択しない患者の増強していく苦痛対応策がないことへの困難さ7に対応していることが示されている.また,遺族に対する全国調査 8では,がんと非がんの終末期におけるからだの苦痛は同様だが,がん患者のほうが医療者の対応は速やかであり,療養場所の希望に関する話し合いも行われていると報告されている.これらの調査は,熟練看護師と遺族によるものであり,一般病院の看護師にとって非がん患者のEOLCは,対応がより難しいことが推察され,非がん患者のEOLCの質改善に向けた具体的な検討が必要である.

ケアの質を高めるためには,看護師のリフレクションが重要といわれている 9.さらに,EOLCの質向上においては,患者とケアする側が相互に支え合うという成長の姿勢が重視され10,リフレクションプログラムにより緩和ケアの知識や困難感が改善する 11という.非がんのうち,とくに臓器不全は最期まで何らかの治療を必要とし,予後予測が不確かで多様な状態を呈しており,患者個々の状況も多様で極めて個別性が高い 12.このように複雑で状況依存的な全体統合能力を要する看護実践について,看護師自身が「よいケアができたか」と総体としての自己の実践の程度を把握することはケアの実態を把握する一つの指標となり13,さらにはその自己評価を高めていくことがケアの質向上につながると考えた.

そこで,本研究では多くの看護師が非がん患者の看取りに遭遇している一般病院に着目し,がんと比較することによって,非がん患者のEOLCの実践について看護師の自己評価に関連する要因を明らかにすることを目的とした.本研究の意義として,一般病院の看護師がやりがいをもってEOLCを提供するための,体制・教育・支援への示唆を得るための基礎資料となると考える.

方法

地域中核病院4カ所(関東地方)に勤務する看護師(産科と小児科病棟勤務,看護師長,卒後1年以内の新人は除外)を対象とした.

調査方法

無記名の自記式質問紙法とし,2016年8~9月に実施した.各病棟の看護師長(または責任者)に選定基準に該当する看護師への調査票の配布を依頼し,郵送による個別返送もしくは施設内に設置する回収箱への投函にて回収した.

質問項目

看護師の属性は,年齢,性別,資格,現在の部署,勤務形態,緩和ケア病棟の勤務経験,看護の経験年数,EOLCに関する学習の経験を尋ねた.

終末期療養中から院内で看取りまでを担当した患者について,2事例の回答を求めた.事例はできるだけ直近の,可能な範囲でがんと非がんの両方とした.調査項目は,「主疾患」(がん,非がん:心疾患,肺炎,脳血管疾患,老衰,COPD,その他.本邦の死因順位14と病みの軌跡モデル 12を参考にし研究者間で決めた),「年齢」,「最期の入院の入院期間(以下,最期の入院期間)」について選択肢を提示した.EOLCの実践は,ガイドライン 15を参考に,「患者の意向・希望の聴取(聞かなかった,ある程度聞いた,十分に聞いた,既にいえる状態でなかった)」,「痛み・苦痛症状の緩和(痛み・苦痛症状がなかった,ほとんど緩和できなかった,ある程度は緩和できた,十分に緩和できた)」,「チームでのEOLCの話し合い(なかった,1度あった,複数回あった)」について尋ねた.そして,看護師によるEOLC実践の自己評価には,「自身が実践した終末期ケアについて,10点満点(最低1点)で評価した場合の点数」を,各事例について回答するよう求めた.2事例の評価を併記することでがんと非がんの患者の看取り経験を比較しながら回答でき,10段階の簡易な評価により総体としての看取り経験の程度を把握する方法は,回答者にとって負担が少ないと考えた.

分析方法

回答者の属性を単純集計で整理し,事例について各項目を集計した.非がんのデータは各疾患を合算し,がんとの差についてχ2検定で分析した.「EOLC自己評価」は,正規分布に従わないことを確認(シャピロ-ウィルク検定)後,疾患ごとに中央値と四分位範囲を算出し,がんと非がんをウィルコクソンの順位和検定,がんと非がんの疾患ごとに多重比較(Bonfferoni法)を行った.

次に,「EOLC実践の自己評価」に影響する要因について,がんと非がん群に分け,看護師の属性には「看護師経験年数」,「緩和ケア病棟の勤務経験」,「看取りの経験人数」,「EOLCに関する学習経験」を,看取り事例については「患者の年齢」,「最期の入院期間」,「患者に意向・希望を聞いたか」,「痛み・苦痛症状の有無」「EOLCに関するチームでの話し合いの有無」との関連を2変量で確認し,有意な変数を用いて重回帰分析を行った.変数間の多重共線性は,variance inflation factor(VIF)が全変数で1.92を下回っていることを確認した.すべての分析において,統計ソフトはIBM SPSS ver.29を用い,有意水準は5%未満とした.

倫理的配慮

東京医療保健大学ヒトに関する研究倫理委員会および研究参加施設の倫理委員会または施設長の承認を得て実施した(承認番号:教28-3).データは無記名とし,調査目的,調査参加の拒否により不利益を受けないことなどを明記した説明文書を同封し,調査票への回答によって参加の同意をしたものとみなした.

結果

調査対象の4病院1,306名に質問紙を配布し,660件を有効回答とした(有効回答率56.8%).そのうち,看取りまでを担当した患者の事例について完全な記載があった525名,記載された看取り事例954例を分析対象とした.

回答者の属性( 表1

看護師の経験年数は20年以上が32.8%を占めた.配属部署のうち,緩和ケア病棟が25名であった.看取りの経験は20人以上(65.0%),看取った患者の疾患はがんが大半であった(43.2%)とする割合が多かった.EOLCの学習経験は74.1%があり,外部の研修会を挙げたものは172名(32.8%)であった.

表1 回答者の属性(n=525)

看取りまで経験した事例におけるがん患者と非がん患者の比較(表2

事例の主疾患は,がん648件,非がん306件(心疾患75件,肺炎63件,COPD 50件,脳血管疾患47件,老衰35件,その他36件(腎不全5件,敗血症・結核各3件など))であった.

表2 看取り事例におけるがん患者と非がん患者の比較

患者の年齢は,80歳以上が,がん24.7%に対して非がんは51.0%を占めており(p<0.001),中でも,肺炎(80歳以上が76.2%)や老衰(80歳以上が88.6%)を死因とする患者の年齢が高い傾向があった.

最期の入院期間は,1カ月以上ががん46.9%,非がん40.2%であり,がんのほうが入院期間は長かった(p=0.006).非がんのうち,脳血管疾患は40.4%が2週間以内に亡くなった事例であり,1カ月以上の割合が高かったのは,肺炎47.6%,老衰51.4%であった.

患者の意向・希望の聴取について「すでに言える状態ではなかった」のは,がん11.3%,非がん45.1%であった.非がんの疾患別にみてもいずれもがんを上回っており,とくに,脳血管疾患では76.6%がいえない状態とされた.さらに,言える状態であっても「聞かなかった」割合も非がんのほうが高く(21.9%),心疾患(26.7%),肺炎(27.0%)に高い傾向があった.

痛み・苦痛症状の緩和について,「痛み・苦痛症状がなかった」のはがん8.5%,非がん35.3%であった(p<0.001).非がんのうち,脳血管疾患(57.4%),老衰(57.1%)は「痛み・苦痛がない」と評価されていた.一方,COPDの92.0%は苦痛があったとされ,ある程度緩和できた割合(46.0%)と緩和できなかった割合(42.0%)がほぼ同数であった.肺炎は,痛み・苦痛症状があった(n=40)のうち,ほとんど緩和できなかった者が半数を超えた.

EOLCに関するチームでの話し合いについては,がんは「複数回あった(62.5%)」,非がんは「なかった(42.5%)」が最も多かった(p<0.001).非がんのうち,心疾患や老衰では話し合いが少なく,COPDでは複数回の話し合いが50.0%と高く,違いがみられた.

EOLC実践の自己評価の平均(SD)は,がん5.47(2.09),非がん4.85(2.09)であった(p<0.001).さらに非がんの疾患ごとに行った多重比較の結果では,がんと心疾患(p=0.004),がんと肺炎(p=0.009)に有意差があった.そして非がんの中で平均値が最も高いのは老衰5.26(2.15)であった.

看護師のEOLC実践の自己評価に関連する要因

看護師のEOLC実践の自己評価に関連する要因について,2変量解析を行った( 表3).がん,非がんに共通して,看護師の属性では,「看護師経験年数:20年以上」,「看取り経験の人数:20人以上」,「EOLCに関する学習経験:あり」,事例に関する項目では,「患者の意向・希望の聴取:あり」,「EOLCに関するチームでの話し合い:あり」と回答した対象者のほうがEOLC実践の自己評価は高かった(p<0.001~0.041).がんでは,加えて,「緩和ケア病棟の勤務経験:あり」,「痛み・苦痛症状:あり」と回答した対象者のほうが高かった(p<0.001).これらの有意な変数を用いて重回帰分析(ステップワイズ法)を行った( 表4).その結果,がんでは,「緩和ケア病棟の勤務経験」(β=0.139),「看取りの経験人数」(β=0.107),「患者の意向・希望の聴取」(β=0.206),「EOLCに関するチームでの話し合い」(β=0.251)がEOLC実践の自己評価に有意に関連していた.同様に非がんでは,「看護師の経験年数」(β=0.145),「患者の意向・希望の聴取」(β=0.160),「EOLCに関するチームでの話し合い」(β=0.348)が関連していた.がんと非がんに共通して看護師のEOLC実践の自己評価に関連したのは患者の希望聴取とチームでの話し合いであり,EOLCに関する学習経験に有意差はみられなかった.

表3 EOLC実践の自己評価と看護師の属性および看取り事例との関連(2変量解析)
表4 EOLC実践の自己評価と看護師の属性および看取り事例との関連(多変量解析)

考察

一般病院の看護師のEOLC実践の自己評価は,がんに比較して非がんでは低かった.非がんでは,患者の意向や希望を「聞かなかった」,痛みや苦痛は「ない」,EOLCに関するチームでの話し合いは「なかった」とする割合が高いことから,非がん患者にはこれらの実践が行われていないことが背景にあると明らかになった.前述の遺族調査 8においても,非がんでは意向や希望を聴取した割合が低いことが示されている.本研究では,さらに看護師のEOLC実践の自己評価について,疾患ごとの解析も試みた結果,心疾患と肺炎では低く,これらの疾患の場合にはとくにケアの質の向上についても検討する必要性が示された.そこで,看護師による非がんのEOLC実践の自己評価に関連する要因について,看護師の属性,看取り事例の観点からがんとの比較により考察し,さらに看護師のEOLC実践の自己評価が低い疾患におけるケアの課題について以下に述べる.

看護師の属性とEOLCの実践の自己評価の関連

看護師の属性とEOLC実践の自己評価との関連にはがんと非がんとで違いがあった.がん患者では,緩和ケア病棟の勤務経験や看取りの経験人数が関連していた.緩和ケア病棟では,がんの看取りを多く経験し,彼らの全人的な苦痛を緩和しできる限り快適で尊厳ある最期を迎えられるよう支援している.このような場で得た看護師の経験が他病棟においても生かされ,EOLCの実践に影響しているということであろう.そして,非がん患者においては看護師の経験年数がEOLC実践の自己評価に関連していた.臨床経験10年を過ぎると,看護師の能力開発は安定期に入る 16と指摘する研究もあるが,本研究では倍にあたる20年以上の経験のある看護師で非がん患者に対するEOLC実践の自己評価が高い傾向がみられた.このことから非がんでは,10年程度の経験では補いきれないほど,疾患や状態が多様であることが推測される.

看護師の経験年数との関連が認められた一方で,学習経験は多変量解析では関連がないという結果であった.本調査では,学習の時期や内容について明らかにしていない点は限界であるが,一般病院の看護師が現任教育の中でEOLCの質を高めていくためには,経験を意味づける内容や方法について検討する必要がある.島田ら 17は,看取りケア経験の協働的内省が特別養護老人ホーム職員の認識に及ぼす影響として,経験の補完,内省の深化,事例からの普遍化,協働的内省の場の把握がもたらされていたとしている.一般病院では,患者の死についてオープンに話し合うことは多いとはいえず 18,さらに,職種により異なる治療の考え方に起因する倫理的な困難を看護師は感じることがある 19.これらのことから,一般病院においてケアチームによる協働的内省により経験を補完することの意味は大きいといえる.経験を重ねた看護師とともに,内省の深化や事例からの普遍化に至るようなリフレクションの方法を検討することは,看護師のEOLC実践の自己評価の改善,さらにケアの質向上に有用であると考える.

非がんのEOLC実践項目とEOLC自己評価の関連

「意向・希望の聴取」と「EOLCに関するチームでの話し合い」は,がん・非がんのEOLC実践の自己評価に共通して関連があり,とくに非がんでは自己評価の低さに影響していることがわかった.非がん患者の個別の状況は多様であり,「すでに聞ける状態ではない」という場合も含めて,一般病院で実際に終末期を担当する看護師は「意向・希望を聞いていない」と捉えていた.本人の意向を聞けるチャンスが非がんでは実は少なく,それが自己評価の低さにつながっていたことになる.できるだけ早期から繰り返し話し合うことが重要 15とされるACPに取り組み,「患者の思いは揺れ動く」ことを念頭においたうえで,患者の意向・価値観に関する情報を得る必要がある.こうした情報を多職種で共有し,EOLC実践に協働して取り組むことにより,一般病院の看護師はケアのゴールを目指すチームの一員として日常的にEOLCに向き合い,自信をつけ,ケアの質向上につながると考える.

看護師のEOLCの実践の自己評価が低い疾患におけるケアの課題

心疾患では,意向・希望の聴取やチームでの話し合いが十分に行われていないことが示され,看護師のEOLCの実践の自己評価の低さへの影響が考えられた.重症心不全が緩和ケアの対象として認められた 20ものの,一般病院では,患者の意向や希望に沿うケアやチームで話し合ったうえで患者にかかわるなどの十分な緩和ケアの提供が難しい状況が推察された.心不全は治療によって改善する可能性があり,一般病棟は治療の場であることからも治療効果の評価が重視される.一方で,心不全末期状態の治療は緩和ケアの意味を持つ 21ことから,医療ケアチームが目の前の患者の希望や意向を確認し,治療やケアの方向性を一致させていくことにはより難しさが生じる可能性がある.したがって,治療によって病態が改善する可能性がある心不全に代表される非がん疾患の場合,治療と緩和ケアの両立を可能とするケアチームの話し合いを促進するための評価指標や評価ツールの開発といったより臨床の現場に適した評価方法を検討していくことが必要ではないかと考える.

肺炎もまた,がんと比べて有意に看護師のEOLC実践の自己評価が低かった.肺炎は,高齢で入院期間が長いという患者背景や,チームでの話し合いがなかった割合が45%前後と高い点において老衰と共通する項目が多い一方,老衰ではEOLC実践の自己評価が非がんの中で最も高いという差異があった.そして,痛み・苦痛症状が「ほとんど緩和できなかった」割合が肺炎で高く(34.9%),老衰では低い(11.4%)という結果も示された.これらのことから,肺炎に対して老衰は,人間の生涯発達の最終段階を意味する状態であるため,治療ケアのゴールをチームにおいて共通認識しやすく,その結果,看護師のEOLC実践の自己評価が高くなったことが推察される.一方で,認知症高齢者の肺炎の場合,末期に呼吸困難や不快感が最大化し,死亡前数日では,疼痛,不穏・興奮などの複数の苦痛が混在する 22ことが指摘されている.さらに,一般病院における市中肺炎の6割は誤嚥性肺炎であり,繰り返される肺炎では,患者や家族の意思を尊重した治療の差し控えも選択肢として提示すべき 23とされる.これらのことから,一般病院において肺炎で亡くなる患者は高齢者が多く,とくに終末期が近くなると苦痛があることを考慮する必要があるといえる.2022年に「在宅における末期認知症の肺炎の診療と緩和ケアの指針」 24が出されたものの,病院における肺炎の緩和ケアに関する詳細は明らかになっていない.今後は,一般病院で肺炎で亡くなる患者に対するケアについて,患者・家族側の意向,チームの治療ケアの方向性や話し合い,病院のケア体制や指針,連携施設とのケア方針の共有などについてより多角的に調査を行い,EOLCの実践の実態とその背景要因を探索する必要がある.

本研究の限界と課題

本研究ではいくつか限界がある.第1に,2016年に調査した結果であるため,非がんのEOLCに関するガイドラインの普及や多死社会といった社会的な背景が現状とは異なる部分がある.第2に,看護師の記憶に依存する主観的なデータであるため,診療録調査などに比べると実態に迫ることには限界がある.しかし,がんと非がんを比較することで,そのEOLCの違いを意識した回答を得ることができ,具体的に非がんEOLCの質向上に向けた支援について検討できた.第3に,地域中核病院の看護師の結果であるため,他施設での一般化には限界がある.今後は,増加が見込まれる看取りに対応すべく調査対象を拡大し,本結果に基づいて前向き調査による看護師のEOLC自己評価に影響する要因を検討が必要である.

結論

一般病院の看護師による非がん患者のEOLCの実践の自己評価に関連する要因についてがん患者と比較検討した結果,がん・非がんに共通して,患者の意向や希望を聞くこと,チームでの話し合いが影響しており,非がんの場合は実施されていない分,看護師のEOLCの実践の自己評価が低かった.とくに非がん疾患のうち,心疾患と肺炎で評価が低く,EOLCに課題があることが示唆された.非がん患者のEOLCの実践には,経験に基づく学習機会を設けること,患者の意向や希望を引き出す技術の向上,チームでの話し合いを実施するケア体制の構築が必要である.

謝辞

本調査にご協力くださいました病院長ならびに看護部長,看護部の皆様,お忙しい中,回答をいただきました看護師の皆様に深く御礼申しあげます.

研究資金

本研究は,科学研究費助成事業基盤研究(B)「慢性病エンドオブライフ期の望む生き方を支えるコミュニケーションガイド日本版の開発(課題番号25293440)」の助成を受けた.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反はなし

著者貢献

芥田は,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.谷本,池崎は,研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

文献
 
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