2024 年 19 巻 2 号 p. 109-113
院内病棟型の緩和ケア病棟を持つ当院は,完全独立型の旧病院同様,正面玄関からの死亡退院を案内しているが,それが与える遺族感情への影響を,独立型・病棟型の違いで比較・検討した.患者が退院する際に抵抗感や違和感を感じた遺族は独立型13%,病棟型23%と病棟型で多かった.他患者の退院に遭遇した際の違和感は独立型52%,病棟型28%と病棟型で少なかった.記述意見として正面退院への肯定的な意見は多く挙げられたが,一般病院での気兼ねない退院実施には医療側の十分な配慮が必要であることも示唆された.現在は配慮・工夫の徹底に加え,要望に応じた退院口(正面玄関以外の選択)を導入するに至っている.
Our former independent palliative care center has become a palliative care ward in our new general hospital, and deceased patients continue to be discharged through the building’s main entrance. We compared the impact of this change on the discharge experience of bereaved families. As a result, the number of bereaved families who felt uneasy when their relatives were discharged from the hospital increased from 13% to 23%. On the other hand, the number of bereaved families who had a feeling of uneasiness when encountering the discharge of other deceased patients decreased from 52% to 28%. Although positive feedback was received for discharge using the main entrance, our findings emphasize the need for thorough consideration by medical staff of the manner of discharge in general hospitals. In response to bereaved families’ requests, our hospital has introduced a discharge system that allows families to choose whether to leave through the main entrance or through other entrances, aiming to improve the discharge experience.
病院で亡くなられた患者の死亡診断から退院するまでの医療者による家族対応(退院時ケア)は,患者と死別後最初の遺族ケアになる.死亡退院に際しては,家族にとって最適な退院となるよう,安置室や退院口まで配慮と工夫をすることが望ましいとされている 1).独立型の緩和ケア病院は自宅に近い環境で,患者家族にとって家庭的な療養生活を送ることが可能とされている 2).そして,その特性を生かし,死亡退院を正面玄関からお見送りすることが多い.聖ヨハネ病院(以下,当院)も1999年に完全独立型緩和ケア病院として開院以降,死亡退院の際は,故人の顔を隠すことなく,正面玄関からお見送りを行ってきた.実際に退院形式についての職員アンケートを実施すると,「自宅療養と同様に」「入院された玄関から」「明るくお見送りをしたい」という職員の心情が挙げられた.そのため当院は2020年に新病院に移転し,他病棟(地域包括ケア病棟)も併せ持つ院内病棟型の緩和ケア病棟となったが,旧病院の考えを継承し,正面玄関からの死亡退院を継続している.しかし,一般外来も併せ持つため,一般の病院利用者や外来待合者が増え,正面玄関からの死亡退院が遺族に与える心理的影響が懸念された.これまで報告されている遺族アンケート調査では,遺族が正面玄関からの死亡退院について,どのような感情を抱いているか,という内容の調査例はみられない.今回,退院形式についての遺族アンケートを旧病院(独立型)・新病院(病棟型)の緩和ケア病棟利用者に実施し,正面玄関からの死亡退院が与える遺族感情への影響を比較・検討した.
2017~2018年(独立型)と2020年(病棟型)にがん終末期の緩和ケア目的に緩和ケア病棟に入院し,死亡退院されたすべての患者の遺族を対象とした.独立型でのアンケートは2019年12月に実施し,病棟型でのアンケートは2021年12月に実施した.
定義代表遺族は,入院利用時に家族代表者として手続きをされた家族を代表遺族と設定した.遺族が感じ得る陰性感情を「心情的な抵抗感や違和感」と表現して質問した.
調査方法独自に作成した質問紙を用いた.患者の代表遺族に郵送にて,調査の主旨,協力の自由性,調査票の保管,個人情報保護など説明し,回答返信をもって同意とした.
倫理的配慮無記名記述式アンケートとした.聖ヨハネ病院倫理委員会の承認を得て実施した.
調査内容 1. 対象者・患者背景回答者年齢,性別,患者との家族関係,患者年齢(入院時),入院日数
2. 質問項目選択式項目についての統計はEZR(Saitama Medical Center, Jichi Medical University)を使用し,Mann-Whitny U test,Fisher’s exact testを用いた.記述式項目は記述内容をカテゴリーとして肯定的な意見と否定的な意見に分類し,サブカテゴリーとして「家族心情」,「患者視点」,「他者への配慮」に分類し,類似内容の回答を集約した.
対象者は独立型では294名,病棟型は201名であった.全対象者にアンケートを送付し,回答を得たのは,独立型では151名(回収率51.3%),そのうち有効な回答が144名(有効回答率49.0%),病棟型では94名(回収率46.8%),有効な回答が89名(有効回答率44.3%)であった.無効となった回答の内容はすべて選択式回答の一部未記入であった.患者背景として,病棟型で患者年齢が有意に高かったが,在院日数,回答者年齢,回答者続柄に差はなかった.
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患者が正面玄関から退院した際に陰性感情を感じた,と回答した遺族は病棟型で有意に多かった.当院利用中に,他患者の死亡退院に院内で遭遇したという遺族は,両群3割前後認めたが,そのうち他患者の死亡退院に遭遇した際に陰性感情を感じた,と回答した遺族は病棟型で少なかった.
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選択式質問項目に付随して,患者が正面玄関から退院した際の肯定的意見と否定的意見,他患者の死亡退院に遭遇した際の肯定的意見,否定的意見を記述式にて回答を得た.患者の退院についての肯定的意見としては正面玄関から退院できることへの感謝や支持的意見が述べられていた.一方,否定的意見として,正面玄関から退院することへの陰性感情や,周りからの視線を思慮する意見が多く述べられていた.他患者の死亡退院に遭遇した際の肯定的意見は少なく,否定的意見として,他者の死をみることへの陰性感情,また家族として患者自身へ与える心理的影響への懸念などが挙げられた.
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緩和ケア病院の正面玄関から死亡退院することが与える遺族感情への影響を,完全独立型と院内病棟型の病院で比較・検討することで,退院時の陰性感情や退院形式への意見の違いを知ることができた.
患者が正面玄関から死亡退院することについて,独立型で9割近く,病棟型でも7割の遺族は陰性感情を抱くことがなかったことが判明した.遺族は緩和ケア病棟で,家族としてケアを受けながら,患者の闘病に寄り添える過程がある.その間に病状への理解や受容が進み,死別時も遺族から故人にねぎらいの言葉や感謝の言葉をかけるなど,明るい雰囲気でお別れする場面が多い.実際に当院では退院前に故人を囲んで遺族と医療者が一緒に乾杯をしたり,万歳三唱をしたり,記念写真を撮影したりと,故人の尊厳を保ちながら,家族の心情と要望に合わせたお見送りを行っている.このように緩和ケアを通じて,患者の死に対する家族の受容が促されることが,陰性感情の抑制につながっていると考察された.
一方,正面玄関からの死亡退院に陰性感情を抱いた遺族は,独立型でも一定数認めたが,病棟型では有意に多かった.病棟型では緩和ケア以外の利用者も多いことから,周囲への配慮や後ろめたさから陰性感情を抱く遺族が多いことが要因と考えられた.実際には病棟型となり死亡退院の際の周囲への配慮をしていても,3割程度の遺族が他患者の死亡退院に遭遇していたことが判明し,配慮の困難さを示していた.
他患者の死亡退院に遭遇した場合の陰性感情は独立型では半数以上に上った.同じ緩和ケア病棟であっても,独立型では家庭的な雰囲気が強いため 2),個々の患者家族にとって,自分たちの家庭的な空間に他者の死が不意に飛び込むことが,陰性感情につながったのではないかと推測された.
記述式の意見では,正面玄関から闘病を終えた患者を,遺族と医療者が一緒に,明るく,堂々とお見送りすることへの肯定的な意見が挙げられた.しかし他の利用者への配慮を求める意見,精神的影響を懸念する意見も散見された.一般的に医療者が考える「よいこと」が利用者のニーズと合致していない場合,利用者満足度の低下に直結するため,利用者のニーズを見極めることが非常に重要である 3).優先すべきは患者・家族の想いであり,正面玄関から退院していただきたいという,医療者の想いと必ずしも合致しているとは限らないことを再認識した.
今回の結果を受け,当院では退院口として正面玄関のみではなく専用口も可能,とする選択制を導入し,退院前に遺族に要望を伺い,希望に応じるよう対応している.
今回の調査ではいくつか限界が考えられた.1点目に,陰性感情の有無へ寄与する詳細な因子までは分析できていない.対象者・患者背景は,患者年齢に若干の差はあるものの,調査した因子は両群同様であった.また両群とも同じ病院での調査であり,関わる職員やケアの内容も同じであるため,これらの因子の影響は少ないと推測したが,死亡時の家族の立ち合いの有無,死後ケアへの参加の有無,退院時間,退院後からアンケート実施までの期間など,さらなる詳細な因子の解析を行うことで,陰性感情をもたらす要因が判別される可能性はある.2点目に,独立型と病棟型での比較を行ったが,病棟型で調査した2020年は感染対策のため面会制限がかけられていた.独立型での調査期間は面会制限がなかったため,その有無が結果に影響を与えた可能性はあるが定量化できていない.3点目に,本アンケート調査では独立型,病棟型ともに回答の回収率は50%程度であった.緩和ケア利用後の遺族アンケートはその特性から,回答自体が回答者の苦痛につながっていることも報告されている 4).本調査でも,陰性感情が強い遺族は回答を得られていない可能性もあり,回答バイアスの関与も考えられるが,同様の遺族調査でも回答率や有効回答率は50%~60%程度の報告が多く4, 5),本研究でもバイアスは他調査と同程度と考えられた.
完全独立型の緩和ケア病院と,院内病棟型の緩和ケア病棟を有する病院で,正面玄関からの死亡退院が与える遺族感情への影響を比較・検討した.今後,さまざまな条件を揃えたうえでの追加調査や,一般病院での調査を行い,遺族のグリーフケアのさらなる充実につながる退院時ケアを検討していく.
すべての著者の申告すべき利益相反なし
吉村は研究の構想およびデザイン,データ収集・分析・解釈,原稿の起草に貢献した.山口は原稿の重要な知的内容に関わる批判的推敲に貢献した.両著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.