Palliative Care Research
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短報
高齢化率が高く医療資源の少ない地域に住む高齢者の希望する最期の療養場所および緩和ケアに関する意識調査
佐々木 里美 武内 晶伊藤 奈央
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2025 年 20 巻 1 号 p. 57-62

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Abstract

目的:高齢化率が高く,医療資源の少ない地域に住む高齢者の希望する最期の療養場所と緩和ケアの認識を明らかにする. 方法:高齢化率が40%を超える地域の病院で緩和ケアチーム(palliative care team: PCT)発足1年半が経過した2022年6月に,通院中の65歳以上の患者を対象に質問紙調査を行った. 結果:475名(36.6%)から有効回答を得た.希望する最期の療養場所は,自宅で過ごしたい患者は317名(66.7%)で,その中で自宅療養が現実的に困難だと思う患者は157名(49.5%)だった.緩和ケアを聞いたことがある患者は277名(58.3%),PCTを知らない患者は437名(92.0%)だった. 結論:高齢化率が高く医療資源の少ない地域に住む高齢者の希望する最期の療養場所と緩和ケアの認識が明らかになった.今後は住民への緩和ケア提供に関する周知と地域の医療介護職員の連携した体制づくりが課題である.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to clarify the preferred place for end-of-life care and the perceptions of palliative care among elderly people living in areas with a high aging rate and limited healthcare resources. Methods: A questionnaire survey was conducted in June 2022, one and a half years after the palliative care team (PCT) was established, in a community with an aging population of over 40%. Results: Among 1,298 patients aged 65 years or older, 475 (36.6%) provided valid responses. Of these, 317 (66.7%) expressed a preference to spend as much time as possible at home for end-of-life care, and 157 (49.5%) indicated that it would be difficult to spend their final days at home. In addition, 277 (58.3%) of respondents had heard about palliative care, and 437 (92.0%) had never heard of PCT at the hospital. Conclusion: Our findings revealed the preferred place for end-of-life care and awareness of palliative care among elderly people living in areas with a highly aging population and limited healthcare resources. It is necessary to promote palliative care in hospitals and develop a collaborative system with community healthcare providers.

緒言

厚生労働省は2025年を目途に高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもと地域包括ケアシステムを構築した1.また高齢化を背景にがんによる死亡率は年々増加しており2,第4期がん対策推進基本計画3では,がん患者が望んだ場所で過ごすことができるよう「在宅を含めた地域における緩和ケア提供体制の整備」を推進するとしている.しかし,専門的緩和ケアを担う組織には地域差4がある.

八幡平市は岩手県の北西部に位置5し,がん診療連携拠点病院のある盛岡市と二つの隣県に接している.また高齢化率6,7は,43.5%(全国29.1%,岩手35.2%)である.八幡平市の緩和ケア提供体制としては,2020年に活動を開始した緩和ケアチーム(palliative care team: PCT)を有する八幡平市立病院と連携する診療所が中心となり地域医療を支えているが,訪問看護ステーションや緩和ケア病棟がなく8,終末期ケアを支える資源が十分ではない.

日本人の終末期ケアの選好に関する先行研究において,がん治療における望ましい死good death9として,「身体的・心理的な快適さ」「好きな場所で死ぬこと」「医療スタッフと良好な関係を気づくこと」など18の領域が特定されている.また国民を対象にした調査10では,最期を迎えたい場所として,43.8%が自宅を選択している.このように日本人全体の終末期ケアの選好に関する意識調査はあるが,高齢化率が高く医療資源の少ない地域住民の選好は明らかではない.

本研究の目的は,高齢化率が高く医療資源の少ない地域である八幡平市に住む高齢者の希望する最期の療養場所および緩和ケアの認識を明らかにすることである.

方法

1. 調査方法と対象

調査対象は,2022年6月1日から6月30日までに八幡平市立病院に通院する65歳以上の患者とし,自記式の質問紙調査を実施した.医療ニードのある地域住民の代表性のある集団として今回の対象は通院中の患者とした.繰り返し調査が実施されないよう患者のカルテに目印をつけ管理した.

2. 調査内容

1)残された時間が少ないとき,大切に思うことについて

もしあなたが治る見込みのない病気にかかり残された時間が少ない状況の場合,大切だと思うことについて,日本人のgood deathを構造化にした10項目9を参考に質問した.

2)希望する最期の療養場所について

もしあなたの命があと数カ月だとしたら,どこで過ごしたいですかの問いに,「できるだけ自宅で療養し、最期は病院で療養したい」「近くの病院で療養したい」「最期まで自宅で療養したい」「遠くても緩和ケア病棟のある病院で療養したい」「その他」の選択回答とし,自宅療養を選択した患者には,自宅療養が現実的に「可能だと思う」「難しい」「どちらともいえない」の選択回答を求めた.また自宅療養が難しい理由について,当てはまるものすべての選択回答を求めた.

3)回答者の背景(緩和ケアの認識を含む)

性別,年齢11,同居家族の有無,仕事の有無・内容,趣味や生きがいの有無,心配事を相談できる人の有無・内訳および緩和ケアを聞いたことがあるかを尋ね,「ある」と回答した患者に緩和ケアの意味を知っているかを尋ねた.緩和ケアのイメージについて、当てはまるものすべての選択回答(複数回答可)を求めた.また八幡平市立病院で緩和ケアを提供していること,PCTがあることを知っているかを尋ねた.

2),3)の質問項目は,先行研究9,12を参考に緩和ケアの専門家を含む研究者間で検討し,独自に作成した.

3. 分析方法

調査項目は単純集計を行い,残された時間が少ないとき大切に思うことの10項目は,「非常にそう思う」「そう思う」「ややそう思う」の回答を示した.希望する最期の療養場所と自宅療養の認識は選択した回答を示し,自宅療養困難理由は複数選択可能として示した.大切に思うこと,自宅療養の認識および自宅療養の困難理由は実態の詳細を把握するために性別および年代別に記述統計を算出した.また,希望する最期の療養場所と回答者の背景との関連を知るために,療養場所の自宅は「できるだけ自宅で最期は病院」と「最期まで自宅」,病院は「近くの病院」と「緩和ケア病棟」で示し,希望する最期の療養場所と回答者背景との関連をFisherの直接確率検定により比較した.解析はJMP Pro16を用い,有意水準はp<0.05とした.

4. 倫理的配慮

本研究は岩手県看護協会倫理審査委員会の承認を受けて実施した.

結果

対象者1,298名のうち,475名から有効回答を得た.(有効回答率36.6%)また回答者の背景を表1に示す.

表1 回答者の背景(N=475)

n (%)
性別
男性 209 (44.0)
女性 264 (55.6)
年齢
65~69歳 92 (19.4)
70~74歳 140 (29.5)
75~79歳 89 (18.7)
80~84歳 89 (18.7)
85~89歳 42 (8.8)
90歳以上 22 (4.6)
同居者
いる 389 (81.9)
いない 84 (0.4)
仕事
している 205 (43.2)
していない 269 (56.6)
趣味・生きがい
ある 326 (68.6)
ない 146 (30.7)
相談できる人
いる 381 (80.2)
家族 293 (76.9)
医師 111 (29.1)
友人 40 (10.5)
ケアマネジャー 23 (6.0)
看護師 11 (2.9)
いない 64 (13.5)
心配事はない 29 (6.1)
緩和ケアについて
聞いたことがある 277 (58.3)
緩和ケアの意味を知っている 159 (57.4)
緩和ケアの意味を知らない 115 (41.5)
聞いたことがない 196 (41.3)
緩和ケアのイメージ
体と心の痛みを和らげる 235 (49.5)
イメージできない 160 (33.7)
その人らしく過ごす 147 (30.9)
自宅や施設でも受けられる 113 (23.8)
どんな人でも受けられる 85 (17.9)
緩和ケア病棟で受けられる 66 (13.9)
死が近い人のみ受けられる 56 (11.8)
がんの人のみ受けられる 30 (6.3)
八幡平市立病院の緩和ケアについて
知っている 41 (9.0)
知らない 429 (90.0)
八幡平市立病院の緩和ケアチームについて
知っている 31 (6.5)
知らない 437 (92.0)
最期の療養場所の希望
できるだけ自宅,最期は病院で療養したい 246 (51.8)
近くの病院で療養したい 86(18.1)
最期まで自宅で療養したい 71(14.9)
遠くても緩和ケア病棟療養したい 23(4.8)
その他 4(0.8)

1. 残された時間が少ないとき大切に思うこと(表2)

残された時間が少ないとき大切に思うことは,「医師や看護師を信頼できる」が354名(74.5%)で各年代,性別で最も高く,次いで「人に迷惑をかけない」が337名(70.9%),「落ち着いた環境で過ごせる」が323名(68.0%)だった.

表2 残された時間が少ないとき大切に思うこと,自宅療養に対する認識(年代別)

全体

(N=475)

65~74歳(n=232) 75~84歳(n=178) 85歳以上(n=64)

男性

(n=114)

女性

(n=118)

男性

(n=69)

女性

(n=109)

男性

(n=26)

女性

(n=38)

[大切に思うこと] n (%) n (%) n (%) n (%) n (%) n (%) n (%)
医師や看護師を信頼できる 354 (74.5) 83 (72.8) 97 (82.2) 49 (71.0) 79 (72.5) 16 (61.5) 30 (78.9)
人に迷惑をかけない 337 (70.9) 76 (66.7) 96 (81.4) 47 (68.1) 74 (67.9) 15 (57.7) 29 (76.3)
落ち着いた環境で過ごせる 323 (68.0) 76 (66.7) 91 (77.1) 43 (62.3) 68 (62.4) 15 (57.7) 30 (78.9)
人として大切にされる 313 (65.9) 68 (59.6) 90 (76.3) 40 (58.0) 70 (64.2) 16 (61.5) 29 (76.3)
身の回りのことを自分でできる 308 (64.8) 72 (63.2) 95 (80.5) 44 (63.8) 65 (59.6) 11 (42.3) 21 (55.3)
からだの苦痛が少なく過ごせる 306 (64.4) 70 (61.4) 93 (78.8) 38 (55.1) 67 (61.5) 11 (42.3) 27 (71.1)
人生をまっとうしたと感じる 304 (64.0) 72 (63.2) 76 (64.4) 39 (56.5) 74 (67.9) 16 (61.5) 27 (71.1)
自分が望んだ場所で過ごせる 288 (60.6) 67 (58.8) 83 (70.3) 41 (59.4) 64 (58.7) 9 (34.6) 24 (63.2)
家族や友人と十分な時間を過ごせる 288 (60.6) 64 (56.1) 80 (67.8) 41 (59.4) 63 (57.8) 13 (50.0) 27 (71.1)
楽しみなことがある 251 (52.8) 62 (54.4) 74 (62.7) 32 (46.4) 57 (52.3) 7 (26.9) 19 (50.0)
[自宅療養に対する認識] n (%) n (%) n (%) n (%) n (%) n (%) n (%)
自宅療養は現実的に難しい 157 (49.5) 39 (34.2) 45 (38.1) 17 (24.6) 35 (32.1) 9 (34.6) 12 (31.6)
どちらともいえない 128 (40.4) 30 (26.3) 31 (26.3) 16 (23.2) 33 (30.3) 6 (23.1) 12 (31.6)
自宅療養は現実的に可能である 32 (10.1) 11 (9.6) 8 (6.8) 7 (10.1) 4 (3.7) 0 (0) 2 (5.3)
[自宅療養は現実的に難しいと回答した理由] n (%) n (%) n (%) n (%) n (%) n (%) n (%)
介護する家族に負担がかかる 112 (71.3) 24 (61.5) 32 (71.1) 12 (70.6) 29 (82.9) 7 (77.8) 8 (66.7)
具合悪くなったとき自分も家族も不安 76 (48.4) 13 (33.3) 22 (48.9) 6 (35.3) 22 (62.9) 4 (44.4) 9 (75.0)
介護してくれる家族がいない 62 (39.5) 15 (38.5) 23 (51.1) 6 (35.3) 13 (37.1) 2 (22.2) 3 (25.0)
具合が悪くなった時入院できるか不安 58 (36.9) 12 (30.8) 21 (46.7) 5 (29.4) 11 (31.4) 3 (33.3) 6 (50.0)
経済的に負担が大きい 56 (35.7) 17 (43.6) 16 (35.6) 4 (23.5) 12 (34.3) 4 (44.4) 3 (25.0)
訪問してくれる医師がいない 51 (32.5) 12 (30.8) 14 (31.1) 7 (41.2) 15 (42.9) 0 (0) 3 (25.0)
具合悪くなった時の対応が不安 50 (31.8) 4 (10.3) 20 (44.4) 9 (52.9) 11 (31.4) 2 (22.2) 4 (33.3)
訪問してくれる看護師がいない 48 (30.6) 12 (30.8) 13 (28.9) 6 (35.3) 16 (45.7) 0 (0) 1 (8.3)
居住環境が整っていない 35 (22.3) 4 (10.3) 14 (31.1) 3 (17.6) 10 (28.6) 2 (22.2) 2 (16.7)
24時間相談にのるところがない 31 (19.7) 5 (12.8) 11 (24.4) 3 (17.6) 9 (25.7) 0 (0) 3 (25.0)
訪問してくれるヘルパーがいない 19 (12.1) 4 (10.3) 6 (13.3) 2 (11.8) 7 (20.0) 0 (0) 0 (0)

各質問に対して,「非常にそう思う」「そう思う」「ややそう思う」と回答したものを示している.

「自宅療養は現実的に難しいと思う理由」については,複数回答可としている.

2. 希望する最期の療養場所(表1~2)

希望する最期の療養場所は,「できるだけ自宅で最期は病院」が246名(51.8%),「最期まで自宅」が71名(14.9%)だった(表1).そのうち,自宅療養が「現実的に難しい」と思う患者が157名(49.5%)で,自宅療養が難しい理由に,「介護する家族に負担がかかる」が112名(71.3%)で多く,次いで「具合が悪くなったとき自分も家族も不安」が76名(48.4%)だった(表2).

3. 希望する最期の療養場所と回答者背景との関連(表3)

仕事および趣味や生きがいがある患者は,希望する最期の療養場所を病院より自宅と選択する患者が有意に多かった(p<0.05, p<0.01).また緩和ケアを聞いたことがある患者は277名(58.3%),八幡平市立病院のPCTを知る患者は31名(6.5%)で,90%以上の患者が八幡平市立病院の緩和ケア提供を知らなかった.

表3 希望する最期の療養場所と背景との関連(N=475)

全体

n (%)

自宅

n (%)

病院

n (%)

p値
全体 317 (66.7) 113 (23.8)
性別 男性 209 (44.0) 135 (64.6) 47 (22.5) 1.000
女性 264 (55.6) 182 (68.9) 65 (24.6)
年齢(歳) 65–74 232 (48.8) 162 (69.8) 52 (22.4) 0.529
75–84 178 (37.5) 113 (63.5) 47 (26.4)
85– 64 (13.5) 42 (65.6) 14 (21.9)
同居者 あり 389 (81.9) 265 (68.1) 88 (22.6) 0.200
なし 84 (17.7) 52 (61.9) 25 (29.8)
現在の仕事 している 205 (43.2) 145 (70.7) 37 (18.0) 0.020*
していない 269 (56.6) 171 (63.6) 76 (28.3)
趣味や生きがい ある 326 (68.6) 231 (70.9) 67 (20.6) 0.009**
ない 146 (30.7) 85 (58.2) 46 (31.5)
心配事を相談できる人 いる 381 (80.2) 260 (68.2) 85 (22.3) 0.150
いない 64 (13.5) 38 (59.4) 22 (34.4)
心配事はない 29 (6.1) 19 (65.5) 6 (20.7)
緩和ケアについて 聞いたことがある 277 (58.3) 189 (68.2) 66 (23.8) 0.820
聞いたことがない 196 (41.3) 127 (64.8) 47 (24.0)
八幡平市立病院の緩和ケア 知っている 41 (8.6) 27 (65.9) 7 (17.1) 0.540
知らない 429 (90.3) 290 (67.6) 106 (24.7)
八幡平市立病院の緩和ケアチーム 知っている 31 (6.5) 18 (58.1) 6 (19.4) 1.000
知らない 437 (92.0) 298 (68.2) 106 (24.3)

自宅は「できるだけ自宅で最期は病院」「最期まで自宅」,病院は「近くの病院」「緩和ケア病棟」の回答を示す.Fisherの直接確率検定(*p<0.05, **p<0.01)

考察

本調査において高齢化率が高く医療資源の少ない地域に住む高齢患者の希望する最期の療養場所は,60%以上が自宅を希望しているが,家族への負担感や体調不良時の対応の不安により,自宅療養は難しいと感じていた.残された時間が少ないとき最も大切に思うことは,「医師や看護師を信頼すること」だが,心配事を医療者に相談できている患者は少なく,90%以上の高齢患者は八幡平市立病院での緩和ケア提供を知らなかった.今後は,住民への緩和ケア提供の周知と地域の医療介護職員が連携する体制構築が課題である.

1. 残された時間が少ないとき大切に思うこと

日本人全体の選好は,「苦痛がなく過ごせる」「望んだ場所で最期を迎える」「医療関係者との関係」の順であるが,八幡平市の高齢患者は,「医師や看護師を信頼する」ことが最も大切だと感じていた.しかし,病気に関する心配事を家族に相談している患者は多いが,医療者へ相談できている患者は少なかった.医療者と患者のよりよい信頼関係構築のためには患者のquality of life向上や維持するための目的の共有13が必要であり,医療資源が少ない地域において,医療者だけでなく介護職も含めた医療介護職員が元気な頃から患者が大切にしていることや気がかかり等についても尋ねることで,療養場所の選択などに関する意思決定支援14にもつながると考える.

2. 希望する最期の療養場所と緩和ケアの認識

希望する最期の療養場所を自宅と選択した高齢患者は317名(66.7%)で,全国の意識調査10における余命1年と考えた場合での自宅希望は43.8%(末期がん32.2%,認知症14.7%,末期心不全29.6%)との結果より高かった.また半数が自宅療養を難しいと感じており,報告1517されているように,本調査でも家族への負担感や体調不良時の対応への不安が影響していた.PCTがある病院として,体調不良時の電話相談や緊急またはレスパイト入院の体制がある.PCTの看護師18が,担当医や外来看護師,地域の医療介護職員と協働や連携を図り,病院体制や緩和ケアに関する情報を患者や家族に提供することで,患者の不安や家族への負担感軽減につながると考える.さらに最期の療養場所における高齢者の意思を尊重するため,病院の医療者だけでなく地域の医療介護職員も含めた多職種で連携した体制構築が不可欠19,20である.そこでPCTが中心となり,地域の医療介護職員を対象に緩和ケアに関する勉強会を開催し実践につなげることで,医療と介護の切れ目のない緩和ケア21が提供でき,医療資源が少ない地域でも,高齢者が安心して最期まで希望する場所で過ごすことができると考える.

また,緩和ケアを聞いたことがない患者は196名(41.3%)だった.在宅緩和ケアにおける先行研究16で,緩和ケアを「聞いたことがない」人が8%である結果と比較すると,八幡平市の高齢患者の緩和ケアの認識は不足していると考える.また先行研究22と同様に,PCTを知らない患者が90%以上だったが,本調査の実施時期はPCT発足2年目の調査であり,患者への普及活動が不十分である要因と考える.PCTが中心となり専門的緩和ケアの提供を外来に掲示する他,高齢者が目を通しやすい市の広報に掲載すること23で,PCTを認識し緩和ケアを知ることにつながると考える.

3. 本研究の限界と課題

本研究の限界として,単一施設での調査であるため高齢化率が高く在宅療養を支える医療資源が十分確保されていない地域を代表するものではない点である.また対象は質問用紙に自己記入できる患者としているが,家族等の介護者が通院に付き添った場合もあり,介護者の意見が反映されている可能性がある.さらに,対象者の背景に疾患や日常生活動作などは調査しておらず,調査結果と分析には限界がある.

結論

本研究の対象とする高齢化率が高く医療資源の少ない地域に住む高齢者の希望する最期の療養場所として,60%以上が自宅での療養を望んでいたが,家族への負担感や体調不良時の対応の不安により自宅療養に困難さを感じていた.八幡平市立病院の緩和ケア提供を知る患者は少なく,住民へのPCT活動を含めた緩和ケア提供の周知と地域の医療介護職員が連携する体制構築が課題である.

謝辞

本研究にご協力いただいた対象者,および対象施設管理者,職員に心より感謝申し上げます.

付記

本論文は,第28回日本緩和医療学会学術大会で発表した内容を一部加筆修正した.

利益相反

著者の申請すべき利益相反なし

著者貢献

佐々木は,研究の構想,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.武内は,研究の構想,研究データの収集,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な遂行に貢献した.伊藤は,研究データの分析,解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な遂行に貢献した.すべての著者は投稿論文の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2025 日本緩和医療学会

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