Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
20 巻, 1 号
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原著
  • 大日方 裕紀, 富樫 慎太郎
    2025 年20 巻1 号 p. 71-79
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/12
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    電子付録

    目的:本研究の目的は,北海道における専門的緩和ケア提供施設の患者カバー率を含む地理的アクセシビリティを検討することである.方法:データは人口動態統計と国土数値情報を用いた.北海道の死亡統計からMurtaghらの報告を用いて,がん患者および非がんを含む緩和ケアの必要な患者を推計し,専門的緩和ケア提供施設における16 km範囲のカバー率や施設までの距離および時間を分析した.結果:16 km範囲における専門的緩和ケアを提供する病院を支点としたがん患者のカバー率は77.2%であった.在宅緩和ケア施設を支点とした非がんを含む患者のカバー率は83.2%であった.専門的緩和ケアを提供する最寄りの病院に,がん患者が到達する時間の平均は9.7分から197.0分と地域差があった.考察:本研究により専門的緩和ケアの地理的アクセシビリティを明らかにした.今後は専門的緩和ケアの提供の均てん化のために,医療施設の最適配置や連携の必要性が示唆された.

  • 竹内 信道, 黒澤 彩子, 小池 久美子, 吉田 園美
    2025 年20 巻1 号 p. 49-55
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/27
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    背景:がん患者の家族は,患者の介護,通院の支援,社会的活動の補助など身体的,精神的,経済的負担がかかっているにもかかわらず,その生活の質(quality of life: QOL)に関する研究は進んでいない.目的:がん化学療法を受ける患者の家族のQOLを測定し患者の治療経過との関連性について検討する.方法:2016–2024年に当科で化学療法を施行した切除不能・再発固形がん症例の1次治療前と2次治療前のEORTC-QLQ-C30を用いて測定した患者と家族のQOLを治療の期間および治療効果を後方視的に比較検討した.結果:45例が抽出され,家族は治療前後とも倦怠感,疼痛,睡眠障害,経済的困難感を多くが訴えており,情緒機能と認知機能が患者と同等に低下していて,その後も回復がなく治療早期では社会機能が低下していた.治療効果は家族のQOLに影響がなかった.考察:自己記入式調査票によるがん患者の家族のQOL調査により,一貫した家族の精神的支援と,治療早期の社会的支援の必要性が判明した.

  • 名古屋 祐子, 余谷 暢之, 長 祐子, 横須賀 とも子, 清水 麻理子, 鈴木 彩, 池田 有美, 大隅 朋生
    2025 年20 巻1 号 p. 29-36
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/13
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    本研究は,終末期を見据えた小児がん患者の退院調整の特徴と工夫を明らかにすることを目的に,退院調整に関わった経験を有するスタッフにインタビュー調査を行った.フォーカスグループインタビューを医療ソーシャルワーカー6名,看護師5名の計11名に実施し(応諾率84.6%),質的帰納的分析を行った.終末期を見据えた小児がん患者の退院調整の特徴として【受け入れ可能な在宅医・訪問看護が少ない】,【症例が少なく経験が積み重ならない】など7カテゴリ,工夫として,在宅医・訪問看護との調整,子どもと家族との調整,病院内の調整の三つの調整場面において,【地域とつながりを持ち続ける】など7カテゴリが抽出された.終末期を自宅で過ごす子どもが増えており,今後,地域の情報集約や好事例の共有など小児がん拠点病院の役割拡大を含めて検討が必要だと考える.

  • 高尾 鮎美, 田村 沙織, 青木 美和, 山本 瀬奈, 木澤 義之, 荒尾 晴惠
    2025 年20 巻1 号 p. 9-21
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/01/29
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    【目的】緩和ケアの専門家の地域偏在化が問題となっている日本では,専門家がいない環境で質の高い緩和ケアを提供できる体制づくりが求められている.本研究は,専門家がいない環境で質の高い緩和ケアを提供する方略を概観することを目的とした.【方法】Arksey and O’Malleyの方法論的枠組みでMEDLINE, CINAHL, Cochrane Libraryを用い,英論文のスコーピングレビューを行った.【結果】9文献が選定,四つの《方略》が明らかになった.《ケアの適時性を高めるためのビデオ相談システムの構築》《ジェネラリストの実践を支援するための専門家によるオンライン共診》《切れ目のない緩和ケア提供プロセスをマネジメントできる看護師の育成とその実践に対する支援》《専門家から非専門家への知識や情報の教授》であった.【結論】これらを参考に日本の緩和ケアニーズに合う体制を作り,その効果を明らかにする必要がある.

  • 尾形 由貴子, 林 直子
    2025 年20 巻1 号 p. 1-8
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/01/16
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    電子付録

    【目的】本研究は既存の患者,医療者間のコミュニケーションツールを用いたadvance care planning(ACP)プログラムを臨床で実装し,介入の効果を調査した.【方法】がん診療連携拠点病院1施設2部署に入院するがん患者,医師,看護師を対象に通常ケア(対照)群9人と使用手順書等を用いたACPプログラムによる介入群9人を設定し,実装状況の6項目とACPの効果について分析した.【結果】ACPプログラムの実装ではACPプログラムの実施率は42%(T1,1カ月後),0%(T2),33%(T3)であった.ACPの効果では,医療者と患者や家族との話し合い(P=0.003)と患者の目標に沿ったケア(P=0.003)が介入群で有意に高かった.【結論】ACPプログラムとして具体的な行動指標を示したことで患者や医療者双方のACPの一般的な行動のきっかけとなった.

症例報告
  • 上田 響子, 大岩 彩乃, 中村 瑞道, 八反丸 善康, 田村 美宝, 酒寄 葉, 仲野 彩, 中條 聡美, 松本 啓, 倉田 二郎, 矢野 ...
    2025 年20 巻1 号 p. 43-48
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/18
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    緒言:カルシフィラキシスは極めて強い疼痛を伴う難治性皮膚潰瘍を生じる疾患である.標準治療は確立されておらず,疼痛に対する治療法も明らかになっていない.今回,透析患者に発症し難治性疼痛を認めた近位型カルシフィラキシスの症例に対して腰部交感神経節ブロックを施行し,奏功を得た症例を経験したので報告する.症例:40歳,女性.慢性腎不全に対して人工透析導入7年後に発症.チオ硫酸ナトリウムの治療を継続したが,両側下肢,臀部に潰瘍が拡大し,オピオイド不応の強い疼痛を認めた.慎重に適応を検討したうえで腰部交感神経節ブロックを施行したところ,潰瘍病変の上皮化と疼痛の軽減が得られた.結論:カルシフィラキシスの症例に対する腰部交感神経節ブロックは,適応を慎重に検討する必要があるが,治療選択肢の一つとなりうると考える.

  • 森山 悠, 坂下 美彦, 吉村 晶子, 笹沼 宏年, 田口 奈津子, 藤里 正視
    2025 年20 巻1 号 p. 23-27
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/10
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    【緒言】頭頸部悪性腫瘍は稀に頸動脈洞症候群を合併するが,がん終末期の頸動脈洞症候群では効果的な治療がないことが多い.われわれは病態説明や生活指導を行い,失神発作を減少させた症例を経験した.【症例】73歳男性,中咽頭がん,両側頸部多発リンパ節転移.頸動脈洞症候群によりめまいや失神を生じた.緩和医療科の外来に紹介され,患者と妻に病態説明と誘発因子の回避,前駆症状出現時の失神回避法などの生活指導を行った.その後に失神の頻度が減少し日課の散歩を再開できていた.しかし介入から7カ月後には誘発因子なく失神が出現するようになった.自宅療養していたが体動困難のため入院し翌日永眠した.【考察】誘発因子や前駆症状を伴う失神であったため,病態説明や生活指導は有効であった.生活指導などの介入は患者のquality of lifeの向上や自宅での療養継続につながった.

短報
  • 大野 裕美, 小松 弘和, 蒔田 寛子
    2025 年20 巻1 号 p. 63-69
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/27
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    目的:新型コロナウイルス感染症による院内がんピアサポートへの影響を検討する. 方法:がん診療連携拠点病院の相談支援センターを対象に,2023年2月16日~3月17日の期間で,コロナ禍の状況を含む14項目の自記式無記名アンケート調査を実施した.記述統計ならびに質的記述的に分析した. 結果: 451病院のうち,220病院(回収率48%)から回答を得た.コロナ禍は89%の病院が患者サポートを休止し,現在も36%の病院が休止していた.コロナ禍の特徴として,①ピアサポートの停滞,②オンラインの導入,③ハイブリッドな相談活動の構築とオンライン相談対応スキルの獲得の必要性が抽出された.コロナ禍以前は,ピアサポートの運用体制について苦慮していた. 結論:コロナ禍で新たに導入したオンラインの活用も含めて,院内ピアサポートの運用体制を構築していくことの必要性が示唆された.

  • 佐々木 里美, 武内 晶, 伊藤 奈央
    2025 年20 巻1 号 p. 57-62
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/27
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    目的:高齢化率が高く,医療資源の少ない地域に住む高齢者の希望する最期の療養場所と緩和ケアの認識を明らかにする. 方法:高齢化率が40%を超える地域の病院で緩和ケアチーム(palliative care team: PCT)発足1年半が経過した2022年6月に,通院中の65歳以上の患者を対象に質問紙調査を行った. 結果:475名(36.6%)から有効回答を得た.希望する最期の療養場所は,自宅で過ごしたい患者は317名(66.7%)で,その中で自宅療養が現実的に困難だと思う患者は157名(49.5%)だった.緩和ケアを聞いたことがある患者は277名(58.3%),PCTを知らない患者は437名(92.0%)だった. 結論:高齢化率が高く医療資源の少ない地域に住む高齢者の希望する最期の療養場所と緩和ケアの認識が明らかになった.今後は住民への緩和ケア提供に関する周知と地域の医療介護職員の連携した体制づくりが課題である.

  • 伊藤 奈央, 三浦 幸枝, 佐藤 奈美枝, 照井 春樹, 菅野 奈々江, 井上 智美, 中村 真利加
    2025 年20 巻1 号 p. 37-42
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/13
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    目的:わが国は多死社会を迎え,臨死期のケアに関する看護基礎教育は重要である.本研究では看護学生の振り返り記述から,エンゼルメイクを取り入れたエンゼルケア演習の学習成果を明らかにする.方法:2021年6月に岩手医科大学看護学部の「成人看護学演習(終末期の看護:エンゼルケア)」を受講し,研究協力への意思が確認された87名を対象とした.学生はエンゼルケア演習で患者役・家族役・看護師役を経験した後,患者・家族へのケアについて振り返りを行っており,演習シートの記述から,エンゼルケア演習の学習成果に関連した内容を分析した.結果:看護学生に対するエンゼルケア演習の学習成果として,【エンゼルケアにおける大切なことへの気付き】【演習によるエンゼルケアの理解】【看護師としての意欲と懸念】が明らかとなった.結論:講義だけではないエンゼルメイクを取り入れた演習は,対象者の尊厳をまもる態度の習得につながる機会となる.

活動報告
  • 佐藤 綾子, 山﨑 まどか, 佐野 智望, 竹内 恵美, 松岡 豊, 和田 佐保
    2025 年20 巻1 号 p. 81-87
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/17
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    背景:国立がん研究センターで実施している,がん治療病院と地域の連携を促す人材を育成する「地域緩和ケア連携調整員研修(以下,研修)」の効果を検討する.方法:2016年から2021年に研修会に参加した施設にアンケート調査を行った.結果:116施設から回答を得て,回答率は50.2%であった.研修の成果については,「ポジティブな変化があった」に分類される回答が78%であった.一方,「ネガティブな変化」については報告されなかった.「終末期がん患者の病院から在宅への円滑な移行を阻む要因」に関して,上位は「患者の社会的背景(独居や高齢等)により在宅療養へ移行できない(88%)」,「患者の在宅療養に対する不安(83%)」であった.結論:本研修は,ポジティブな変化が78%であったことから,一定の効果が得られているといえる.今後は,地域の特性を活かした課題に取り組めるよう,研修の在り方を検討する予定である.

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