Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
在宅輸血療法を受けた患者の緩和ケアの質評価~遺族アンケートから~
山田 真弓 石山 美枝大橋 晃太
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2025 年 20 巻 3 号 p. 157-166

詳細
Abstract

在宅輸血療法を受けた患者の遺族を対象にアンケート調査を実施し,在宅輸血を受けた患者の緩和ケアの質や終末期のQOLを評価した.訪問診療および在宅輸血を行い,死亡を転帰とした患者の遺族44名から得た回答を分析した.緩和ケアの質の評価にはCare Evaluation Scale 2を用い,合計平均点は80.1±10.0であった.終末期のQOLにはGood Death Inventoryを用い,合計平均点は54.7±7.5であった.全般的満足度では97.7%が満足と回答した.ケアの質の関連要因は「疾患」で,「血液疾患患者」より「固形疾患患者」の方が有意に高かった(p=0.05).そしてQOLの関連要因は「療養中の遺族の健康状態」で,遺族の健康状態が「悪い」より「よい」方が有意に高かった(p<0.03).今後は対象者数を拡大し,多施設研究による検証が望ましい.

Translated Abstract

Background: A questionnaire survey was conducted among the bereaved families of patients who received home blood transfusion therapy to evaluate the quality of palliative care. Methods: The questionnaire consisted of the Care Evaluation Scale 2 to assess the quality of palliative care, the Good Death Inventory to assess quality of life at the end of life, and overall satisfaction. Data from 44 bereaved families were analysed. Results: The total mean score of the Care Evaluation Scale 2 was 80.1±10.0 and the total mean score of the Good Death Inventory was 54.7±7.5. In terms of overall satisfaction, 97.7% of respondents were satisfied. Factors related to quality of care were disease, which was significantly higher for “solid disease patients” than for “hematological disease patients” (p=0.05). And the factor related to quality of life was “health of the bereaved family during treatment”, which was significantly higher for “good” than “poor” health of the bereaved family (p<0.03). Conclusion: The quality of palliative care, quality of life, and overall satisfaction were all highly evaluated. Further multicenter research should be conducted in the future.

緒言

日本では高齢化に伴い,がん患者数が増加の一途をたどっている.厚生労働省実施の調査によると,末期がんや治る見込みのない病気を想定した場合,一般国民の約5割は自宅や施設での療養を希望している1.実際,近年の訪問診療や看取り件数は増加傾向にあり2,今後在宅療養を希望する終末期がん患者は増加することが予測される.がんの中でも血液腫瘍の患者は,継続的な輸血療法が必要となることが多く,在宅療養移行時には,自宅での輸血療法環境の整備が重要となる3

近年,在宅輸血療法(病院外で,患者の自宅または入所施設で実施する赤血球製剤,血小板製剤,もしくは新鮮凍結血漿の輸血療法.以下,在宅輸血)を提供する医療機関が増加している4,5.在宅輸血については,これまでに在宅赤血球輸血ガイドが策定され6,その安全性について報告されている7,8.しかし,在宅輸血の有用性や,在宅輸血が患者や家族にどのような影響を及ぼすかは明らかにされていない.

在宅輸血を受けた患者の緩和ケアの質の評価を行うことは,今後さらに増加が見込まれる輸血依存の在宅療養患者の生活の質(QOL)を維持・向上するために不可欠である.終末期がん患者へのケアの質やQOL評価は,実際の受け手である患者による直接評価が難しく,遺族による評価が標準的な方法の一つとされている9.そこで,在宅輸血がどのように患者・家族のケアに貢献しているのかを探索するため,在宅輸血を受けた患者の遺族を対象にアンケート調査を実施し,患者の受けたケアの質および終末期のQOL,遺族が感じた全般的満足度を評価した.さらに,それらの評価と患者・遺族の背景要因との関連を探索した.加えて,在宅輸血のよかった点・困った点に関する自由記述を分析した.

方法

研究実施施設における在宅輸血実施手順

研究実施施設は単施設で,機能強化型在宅療養支援診療所であり,訪問看護のみなし指定を受けている.在宅輸血を施行する際の手順は以下の通りである.

  • ①輸血の実施が決まったら,血液製剤(原則赤血球製剤は1回2単位,血小板製剤10単位)を取り寄せる.赤血球の場合はクロスマッチ検査のため採血検査を実施し,検体をセグメントチューブとともに外部検査会社に提出する.
  • ②輸血実施日に,研究実施施設の看護師が患者宅を訪問し,輸血開始前に,末梢静脈路の確保および前投薬(ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム100 mgおよびヒドロキシジン塩酸塩25 mg)を投与する.
  • ③輸血開始にあわせて医師が患者宅を訪問し,開始後15分間のバイタルサインの測定・状態観察を行う.赤血球製剤2単位あたりの投与時間は2時間,血小板製剤10単位は1時間とするが,輸血開始15分間は緩徐に投与する.
  • ④医師は有害事象が出現していないことを確認し,患者宅から退出する.同席する医療従事者は,医師から訪問看護師に交代し,輸血終了までの状態観察を行い,輸血終了後はバイタルサイン測定および抜針を行う.訪問看護師の確保が困難な場合には,研究実施施設の医師または看護師が付き添う.さらに家族等に,医療従事者以外の成人として,輸血開始時から輸血後数時間まで観察のため同席を求める.

調査対象

対象は,在宅療養支援診療所1施設で訪問診療を受けた患者のうち,在宅輸血を実施し,死亡または終診を転帰とした患者の遺族を対象とした.対象者は,転帰後2カ月以上経過している遺族とし,未成年者は除外した.

対象者の診療期間は開院時の2016年7月から2024年6月までで,最終的な対象者数は122名であった.

調査手順

研究参加依頼は郵送で,自記式質問紙調査を実施した.調査期間は2024年9月から10月である.対象者に研究説明文書と質問紙を送付し,返信用封筒を用いた返送を依頼した.回答が得られた対象者について,質問紙と診療録から取得した情報を用いて,後方視的解析を実施した.

調査項目

  • ①患者および遺族の背景は,診療録から以下の情報を収集した.患者の年齢,性別,疾患名,在宅輸血療法施行回数および血液製剤ごとの回数,初診日,転帰日,死亡場所(自宅・施設・病院)である.

    • 遺族には,遺族の年齢,性別,患者との続柄,在宅療養中の遺族の健康状態(“非常によい”“よい”“普通”“悪い”“非常に悪い”の5件法)を尋ねた.

  • ②緩和ケアの質の評価

    • 緩和ケアの質の評価には,Care Evaluation Scale 210(CES)を用いた.CESは,構造・プロセス・アウトカムの三つの要素からなる計10ドメイン合計28項目で構成された,遺族の視点から緩和ケアの構造・プロセスを評価することができる尺度で10,本研究では代表10項目からなる短縮版を用いた.各項目,“非常にそう思う”から“該当しない”までの7段階評価で,合計点を0~100点に換算した9.点数が高いほど肯定的な評価をしていることを示す.

  • ③終末期のQOLの評価

    • QOLの評価には,Good Death Inventory11(GDI)を用いた.GDIはがん患者の望ましい死の達成度を遺族により評価する尺度で,コア10ドメインとオプショナル8ドメインの計18ドメイン合計54項目から構成されている.本研究では,コアドメイン10項目からなる短縮版を使用した.各項目,“全くそう思わない”から“非常にそう思う”の7段階で評価した.点数が高いほど肯定的な評価であることを示す.

  • ④全般的満足度の評価

    • 全般的満足度10は,「全般的に患者さまがなくなられた場所で受けられた医療は満足でしたか」という質問で,“非常に不満足”から“非常に満足”の6段階で評価した.

  • ⑤在宅輸血の満足度

    • 在宅輸血の満足度については,“とても満足”“満足”“どちらでもない”“満足していない”“まったく満足していない”の5件法で,そして在宅輸血のよかった点および困った点について自由記述形式で尋ねた.

解析方法

対象者属性は,記述統計量を算出した.CESとGDIは,回答者全体の合計得点の平均を算出した.さらに,CESとGDIは“ややそう思う”“そう思う”“非常にそう思う”の回答を「そう思う」として,全体的満足度は“非常に満足”“満足”“やや満足”を「満足」として集計し,回答割合を算出した.

在宅輸血の満足度は,“とても満足”“満足”を「満足」として集計し,回答割合を算出した.

さらに,緩和ケアの質の関連要因を探索するため,CES合計得点,GDI合計得点,全般的満足度と対象者背景を,t検定を用いて単変量解析を行った(有意水準5%).対象者背景の各項目は,中央値に近い値で2変数に変換した.統計解析にはEZR ver1.68(自治医科大学附属さいたま医療センター,さいたま市)を使用した.

自由記述形式の回答は,内容分析手法12を参考に,記載内容から質問に対応する内容を意味単位として抽出し,コード化した.抽出したコードは類似性に基づいて分類し,サブカテゴリー,カテゴリーへ抽象度を上げる帰納的アプローチによる分析を行い,表に集計した.内容の妥当性を確認するため,元の文脈に戻り検証する作業を,在宅療養支援診療所に勤務する医師(O.K.)およびソーシャルワーカー(I.M., Y.M.)と意見が一致するまで行った.

倫理的配慮

質問紙に研究説明文書を同封し,研究の目的や意義,調査協力は強制ではなくいつでも中止できること,中止したことによる不利益を被らないこと,また得られたデータは研究目的でのみ使用し,発表の際には個人が特定されないよう十分配慮することを明記し,返送をもって同意を得た.本研究は,トータス研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号24-3).

結果

応諾状況

対象者122名のうち,住所不明などの理由で返送された25名を除き,有効対象者は97名であった.このうち45名から回答を得た(回収率46.4%).分析にあたり,在宅輸血満足度に関する項目に未回答の1名を除いた44名を分析対象とした(有効回答率45.4%).

対象者背景(表1)

患者背景は,70歳代と80歳代がそれぞれ34.1%(15名)で最も多く,70歳未満は13.6%(6名)であった.性別は,男性が59.1%(26名)であった.疾患は,血液疾患が65.9%,血液疾患以外が34.1%であった.血液疾患は,骨髄異形成症候群が29.5%(13名)と最も多く,血液疾患以外では,子宮頸がん・卵巣がん,肺がん・悪性中皮腫,胃がん・大腸がんおよび膀胱がん・前立腺がんがそれぞれ6.8%(3名)であった.在宅療養期間は,121日以上が45.5%(20名)で最も多く,死亡場所は自宅が75.0%(33名)であった.1人あたりの輸血実施回数は11回以上が40.9%(18名)と最も多く,1回および2回がそれぞれ15.9%(7名)で,血液製剤別の実施回数は,赤血球が58.9%(478回),血小板が40.9%(332回),FFPが0.2%(2回)であった.遺族背景は,70歳代が29.5%(13名)で最も多く,性別は女性が68.2%(30名)であった.続柄は,子どもが50.0%(22名),次いで配偶者が38.6%(17名)であった.療養中の遺族の健康状態は,“普通”が40.9%(18名)と最も多く,“よい”が27.3%(12名)であった.

表1 対象者背景 (n=44)

患者 年齢 n % 遺族 年齢 n %
50歳未満 3 6.8% 50歳未満 6 13.6%
50~59歳 1 2.3% 50~59歳 8 18.2%
60~69歳 2 4.5% 60~69歳 9 20.5%
70~79歳 15 34.1% 70~79歳 13 29.5%
80~89歳 15 34.1% 80~89歳 8 18.2%
90歳以上 8 18.2% 性別
性別 男性 14 31.8%
男性 26 59.1% 女性 30 68.2%
女性 18 40.9% 続柄
疾患 配偶者 17 38.6%
血液疾患 29 65.9% 子ども 22 50.0%
骨髄異形成症候群 13 29.5% 父母 2 4.5%
急性骨髄性白血病 7 15.9% その他 3 6.8%
悪性リンパ腫 3 6.8% 在宅療養中の遺族の健康状態
急性リンパ性白血病 1 2.3% 非常によい 5 11.4%
急性前骨髄球性白血病 1 2.3% よい 12 27.3%
多発性骨髄腫 1 2.3% 普通 18 40.9%
本態性血小板増加症 1 2.3% 悪い 5 11.4%
慢性骨髄単球性白血病 1 2.3% 非常に悪い 3 6.8%
再生不良性貧血 1 2.3%
血液疾患以外 15 34.1%
子宮頸がん・卵巣がん 3 6.8%
肺がん・悪性中皮腫 3 6.8%
胃がん・大腸がん 3 6.8%
膀胱がん・前立腺がん 3 6.8%
膵がん 2 4.5%
腎臓がん 1 2.3%
在宅療養期間
30日以内 9 20.5%
31~60日 7 15.9%
61~120日 9 20.5%
121日以上 20 45.5%
死亡場所
自宅 33 75.0%
施設 3 6.8%
病院 8 18.2%
在宅輸血実施回数(1人あたり)
1回 7 15.9%
2回 7 15.9%
3~5回 5 11.4%
6~10回 7 15.9%
11回以上 18 40.9%
在宅輸血実施回数(血液製剤別)
赤血球 478 58.9%
血小板 332 40.9%
FFP 2 0.2%

欠損のため100%にならない項目あり

緩和ケアの質,終末期のQOLおよび満足度(表2)

ケアの質の評価として,CESでは,「ご家族が健康を維持できるような配慮があった」と「必要なときに待たずに入院できた」の項目において,「そう思う」と回答した割合が全体の70~80%に留まったが,その他8項目では90%を超えた.とくに「医師や看護師など医療者どうしの連携はよかった」の項目では,100%が肯定的に回答した.

表2 ケアの質,終末期のQOLおよび遺族の満足度(n=44)

CES
平均±SD 信頼区間
合計点 80.1±10.0 81.07–87.18
「そう思う」(“非常にそう思う”“そう思う”“ややそう思う”)の合計割合
n %
医師は,患者さまのからだの苦痛をやわらげるように努めていた 43 97.7%
看護師は,患者さまのからだの苦痛をやわらげるように努めていた 42 95.5%
患者さまの不安や心配をやわらげるように,医師,看護師,スタッフは勤めていた 42 95.5%
医師の患者さまへの病状や治療内容の説明は十分だった 41 93.2%
医師のご家族への病状や治療内容の説明は十分だった 42 95.5%
自宅は生活しやすく,快適だった 43 97.7%
ご家族が健康を維持できるような配慮があった 33 75.0%
支払った費用の金額は妥当だった 42 95.5%
必要なときに待たずに利用できた 31 70.5%
医師や看護師など医療者どうしの連携はよかった 44 100.0%
GDI
平均±SD 信頼区間
合計点 54.7±7.5 52.42–56.98
「そう思う」(“非常にそう思う”“そう思う”“ややそう思う”)の合計割合
n %
からだの苦痛が少なく過ごせた 35 79.5%
望んだ場所で過ごせた 41 93.2%
楽しみになるようなことがあった 27 61.4%
医師を信頼していた 42 95.5%
人に迷惑をかけてつらいと感じていた 19 43.2%
ご家族やご友人と十分に時間を過ごせた 40 90.9%
身の回りのことはたいてい自分でできた 18 40.9%
落ち着いた環境で過ごせた 41 93.2%
ひととして大切にされていた 42 95.5%
人生をまっとうしたと感じていた 34 77.3%
全般的満足度
「満足」(“非常に満足”“満足”“やや満足”)の合計割合
n %
全体的に患者さまが亡くなられた場所で受けられた医療は満足でしたか 43 97.7%
在宅輸血満足度
「満足」(“とても満足”“満足”)の合計割合
n %
 在宅輸血満足度 44 100.0

終末期のQOLの評価では,GDIにおいて,「そう思う」と回答した割合が最も高かった項目は「医師を信頼していた」と「ひととして大切にされていた」で,95.5%であった.次いで,「望んだ場所で過ごせた」と「落ち着いた環境で過ごせた」が93.2%であった.一方肯定的な回答割合が最も低い項目は,「身の回りのことはたいてい自分でできた」で40.9%,次いで「人に迷惑をかけてつらいと感じていた」で43.2%であった.

全般的満足度については,「満足」と回答した割合が全体の97.7%であった.

また,在宅輸血の満足度については100%が「満足」と回答した.

CES,GDI,全般的満足度に関連する要因の探索(表3)

対象者背景とCES,GDI,全般的満足度の間で関連する要因を探索した結果,CESは輸血実施回数が「11回以上」より「10回以下」の方が有意に高く(p<0.01),疾患が「血液疾患」より「血液疾患以外」の方が有意に高かった(p=0.05).またGDIは,「在宅療養中の遺族の健康状態」が「悪い」より「よい」の方が高かった(p=0.03).全般的満足度は,輸血実施回数が「11回以上」より「10回以下」の方が有意に高く(p=0.04),疾患が「血液疾患」より「血液疾患以外」の方が有意に高かった(p=0.02).

表3 在宅輸血を受けた患者の緩和ケアの質とその関連要因の探索

CES(ver2)10項目合計 GDI10項目合計 全般的満足度
n m ± SD 群間差(信頼区間) p m ± SD 群間差(信頼区間) p m ± SD 群間差(信頼区間) p
患者 年齢 0.72(−5.47–6.90) 0.82 0.65(−5.24–3.93) 0.78 0.14(−0.34–0.61) 0.57
80歳未満 22 84.5 8.7 54.3 ± 7.9 5.4 0.9
80歳以上 22 83.8 11.4 55.0 ± 7.2 5.3 0.7
性別 0.27(−6.03–6.55) 0.93 1.32(−5.97–3.32) 0.57 0.17(−0.31–0.66) 0.47
男性 26 84.2 8.9 55.2 ± 7.3 5.3 0.8
女性 18 84.0 11.8 53.9 ± 7.8 5.4 0.7
在宅療養期間 1.20(−5.08–7.48) 0.70 0.07(−4.59–4.74) 0.97 0.08(−0.57–0.40) 0.74
120日以下 26 84.6 9.0 54.7 ± 7.9 5.3 0.8
120日以上 18 83.4 11.6 54.6 ± 7.0 5.4 0.7
死亡場所 0.67(−8.69–7.34) 0.87 0.41(−5.53–6.36) 0.89 0.42(−1.02–0.19) 0.17
自宅・施設 36 84.2 10.2 55.0 ± 7.5 5.4 0.7
病院 8 83.6 9.9 54.6 ± 7.5 5.0 1.1
輸血実施回数 10.20(4.77–15.63) <0.01 3.93(−0.57–8.43) 0.09 0.48(0.02–0.94) 0.04
10回以下 26 88.3 7.5 56.3 ± 7.3 5.5 0.8
11回以上 18 78.1 10.3 52.3 ± 7.2 5.1 0.7
疾患 6.16(0.01–12.29) 0.05 3.67(−1.25–8.05) 0.15 0.55(0.08–1.01) 0.02
血液疾患以外 16 88.0 8.6 56.8 ± 6.2 5.7 0.8
血液疾患 28 81.9 10.3 53.4 ± 7.9 5.1 0.5
遺族 年齢 0.99(−5.19–7.17) 0.75 2.31(−6.85–2.23) 0.31 0.08(−0.55–0.40) 0.75
70歳未満 23 84.6 9.6 53.5 ± 8.1 5.3 0.7
70歳以上 21 83.6 10.7 55.9 ± 6.7 5.4 0.9
性別 0.69(−5.95–7.32) 0.84 1.48(−6.38–3.43) 0.55 0.17(−0.66–0.31) 0.47
男性 14 84.6 13.2 53.6 ± 6.7 5.3 0.8
女性 30 83.9 8.5 55.1 ± 7.8 5.4 0.7
在宅療養中の健康状態 1.34(−7.57–4.88) 0.67 4.96(−9.33–(−0.59)) 0.03 0.23(−0.71–0.24) 0.33
悪い 25 83.5 10.4 52.5 ± 7.0 5.2 0.8
よい 19 84.9 9.8 57.5 ± 7.2 5.5 0.7

在宅輸血のよかった点と困った点(表4)

在宅輸血のよかった点については68コード(以下,『 』)が抽出され,5カテゴリー(以下,〈 〉),12サブカテゴリー(以下,【 】)に分類された.最も多くコードが分類されたのは,〈本人〉の【心身の負担軽減が図れた】で24コード,次いで,〈自宅環境〉の【自宅で過ごす時間がとれた】の9コードであった.在宅輸血の困った点には9コードが抽出され,4サブカテゴリーに分類された.最も多くコードが分類されたのは【家族負担が大きかった】で4コードであった.

表4 在宅輸血のよかった点と困った点

よかった点 本人 心身の負担軽減が図れた 本人の負担が軽減出来た(5)
通院での体力的な負担がなかった(4)
病院への通院負担が減った(4)
体調よく過ごせた(3)
待ち時間がなく助かった(2)
自宅で行えたのでとても楽だった
気分が落ち着いていた
患者の体力回復につながった
鼻血の出血量が軽減された
ずっとむくんでいた足が浮腫みが取れて,歩くのが楽になった
ひどい貧血状態がなくなり本人が嬉しかったようだった
輸血に対する安心感を得られた リラックスして輸血を受けられた(2)
安心して輸血を受けられた
家族 通院同行の軽減が図れた 付き添う家族の負担が減った(4)
看病している私も輸血の間休めたり家事や仕事ができた
安心して過ごす時間がとれた 家族も安心して過ごすことができた
家族の安心につながる措置だった
本人の希望を尊重できた 本人が自宅療養を望んだ(2)
輸血への選択を本人の意思が尊重されたこと
最期まで希望を持ち続けることができた
医療スタッフ 本人との関係性が強まった 医師と患者の密接度が大きくなった
安心感が得られた 輸血の間そばで見守ってくださる医師・看護師さんがいて安心した
病気について知ること,身近に相談できる医師,看護師さんなどスタッフの方がいることはとても心強いことだった
連携に助けられた 主治医の先生と施設の方々との連携のおかげだと思う
輸血開始日の数日前からチームで準備されていて,順調に輸血が進められた
手配が早くて助かった
自宅環境 自宅で過ごす時間がとれた 自宅で過ごすことができたこと(6)
安心して過ごせた(3)
その他 やりたいことができた 日常と変わらない生活を送れたこと
前向きに過ごすことができた
91歳の誕生日を迎えられたこと
お正月を自宅ですごせた
本人の食べたい物,好きなお酒を飲めたこと
好きな音楽を聴き,友人たちとの連絡,交流が自由にできました
自宅での生活が楽しめました
在宅輸血によって命が助けられた 在宅輸血を受けられなかったら自宅へ戻れなかった(2)
輸血が唯一の延命手段だった(2)
いつも血液を不足なく持ってきてくださった
輸血がなければすぐ亡くなると思っていたので必須条件だった
最期まで治療してもらい命の尊厳を守っていただいた
入院期間の短縮につながった 入院期間を最短にできた
困った点 効果が弱かった 輸血の効果が長続きしなかった
家族負担が大きかった 輸血時間が長かった
点滴を見つめているといつまでこれで生命維持できるのか不安を覚えた
輸血を自宅でやったとき,輸血の終わりのところをお願いされ不安だった
その間ずっと居なければならなかった
自宅環境が悪かった 部屋がきれいではないのでちょっと困ったことがあった
駐車場がないこと
輸血剤のパックを冷蔵庫保存しなければならない
医療者の技術不足があった 訪看さんがあまり慣れていなかった

数値はコード数

考察

本研究では,在宅輸血を受けた患者の遺族を対象にしたアンケート調査によって,在宅輸血を受けた患者の緩和ケアの質,終末期のQOL,全般的満足度を評価し,以下の知見を得た.

在宅輸血を受けた療養患者の緩和ケアの質と終末期のQOLおよび満足度の評価

ケアの質の評価は全体的に高かった.この結果は,本研究の対象者背景が大きく異なるものの,がん患者の遺族を対象に実施された緩和ケアの質に関する大規模調査,J-HOPE4研究の在宅ケア施設14施設13の結果と矛盾しない結果であった.

すべての回答者が肯定的に評価した「医師や看護師など医療者どうしの連携はよかった」ことは,在宅輸血のよかった点においても<医療スタッフ>の【連携に助けられた】が挙がったことで,在宅輸血実施時の訪問看護師やケアマネージャーとの密な連携が,患者のケアの質を高めると推察された.また,「医師の患者への病状や治療内容の説明は十分だった」は肯定的に高く評価された項目の一つで,自由記述にもコードとして『病気について知ること,身近に相談できるスタッフがいることは心強いことだった』が抽出されていた.医療者からの十分な病状説明は,患者・家族が安心した在宅療養生活の要素と思われた.「必要なときに待たずに利用できた」は7割ほどに留まった.在宅療養移行のタイミングは,病院側でも在宅療養移行支援促進の課題の一つである14.われわれの知る限り,在宅輸血を実施する医療機関情報がまとまった媒体はない.よって,輸血を要する患者のスムーズな在宅療養移行を促進するためには,新たに在宅輸血に関する情報資源を作成することが有用かもしれない.

QOL評価においても,ケアの質の評価と同様に,全体的に評価が高い傾向にあった.「医師を信頼していた」「ひととして大切にされていた」では95%を上回り,自由記述内でも『医師と患者の密接度が大きくなった』や〈医療スタッフ〉の【安心感が得られた】とあるように医療者の対応や関係性が評価に影響することが示唆された.

一方,肯定的な評価割合が低い項目の一つとして,「人に迷惑をかけてつらいと感じていた」があった.同様に低い項目に「身の回りのことはたいてい自分でできた」があること,さらに在宅輸血が〈家族〉にとってよかった点として『付き合う家族の負担が減った』や【通院同行の軽減が図れた】が挙がったことから,患者には,一人でできないことによる家族への負担感があると推察される.医療者はこのような負担感に配慮することが求められる.

また本研究では,遺族が感じる在宅輸血の困った点として,輸血同席の負担感だけでなく,輸血後の処理等に関する課題が明らかになった.赤血球輸血実施には輸血付添人として家族の協力が必須であること6などを含めた,医療従事者による十分な事前説明や,家族負担に配慮した個別対応を強化する必要性が感じられた.

とはいえ,全般的満足度が97.7%,さらに在宅輸血に対する患者側の満足度が100%であったことは,ほとんどの遺族にとって,受けたケアが満足のいくものであったといえるだろう.

在宅輸血を受けた患者の緩和ケアの質や終末期QOLおよび満足度に関連する要因

在宅輸血を受けた患者の緩和ケアの質に関連する要因を探索した結果,ケアの評価および全般的満足度に共通して関連する要因として「輸血実施回数」と「疾患」が挙がった.また,QOLの評価に関連する要因として「療養中の遺族の健康状態」が挙がった.輸血を必要とする在宅療養患者についての緩和ケアの質や関連要因を調べた先行研究はこれまでになく,この点において本研究は新規性を持った研究と考えられる.

輸血実施回数は,少ないほどケアの質が高いことが示唆された.とくに血液疾患患者は,在宅でも継続した輸血療法を求める傾向が高く15,患者だけでなく介護者も輸血は不可欠な要素と感じている16.しかし,輸血効果が可視化されないものである場合には,通院の代わりに家族と過ごす時間に充てたいという介護者の報告もある16.輸血効果を感じる輸血回数が緩和ケアの質に影響する可能性が考えられた.

また,固形疾患患者の方が血液疾患患者よりも,受けたケアの質が高いことが示唆された.在宅固形腫瘍患者は血液腫瘍患者よりオピオイド使用頻度が有意に高く17,血液腫瘍患者にとって痛みは主要な問題ではないと報告されている18.CESは医師による身体的苦痛の対応,看護師による身体的苦痛の緩和が構成ドメインの一部があることから疾患における有意差が認められた可能性が考えられる.しかし,療養中の身体的苦痛の詳細は聴取しておらず,今後検証する課題の一つと思われた.

さらに,遺族の健康状態は患者の終末期のQOLの評価に関連していた.健康状態が「悪い」と「よい」におけるGDI合計平均点の群間差はGDI合計平均点の10%弱に相当する4.96点であり小さな差とは言いがたい.しかし本問は,遺族の主観的な評価に基づくこと,さらに本研究では研究対象者の診療期間を制限していないことによる想起バイアスの影響を否定できない.今後はこのようなバイアスを考慮した対象者設定や遺族向けの既存の評価尺度を用いた研究実施が望ましい.

本研究にはいくつかの限界が存在する.第一に,研究実施施設が対象患者の診療および質問紙回収まで行ったため,回答者が施設に好印象を持つ遺族に偏ったり,回答がより高評価に偏った可能性が十分ある.第二に,単施設研究であること,さらに質問紙の回収率が約5割であったことから,結果の一般化は難しい.今後は対象者数拡大のため,多施設研究実施が期待される.さらに第三者機関による質問紙回収や回答催促の実施,QRコードを作成する等,研究実施方法を工夫する必要がある.最後に,本研究で得られた評価は遺族の主観的な回答に基づくことから,患者本人の評価と一致しない可能性がある.患者の研究協力には一定の侵襲性が伴うが,担当医との十分な協議から実現に向けて研究実施を検討する余地がある.

結論

本研究では,在宅輸血を受けた患者の遺族を対象にアンケート調査を実施し,在宅輸血を受けた患者の緩和ケアの質,終末期のQOL,および全般的満足度を調査した.在宅輸血を受けた患者の緩和ケアの質,QOLは全体的に高く,また満足度も高かった.ケアの質および全般的満足度に共通する関連要因に輸血実施回数と疾患が,QOLに関連する要因に遺族の健康状態が挙げられた.今後は多施設研究で対象者数を拡大し,さらに検証することが期待される.

謝辞

本研究実施にあたり調査にご協力くださった患者様のご遺族の皆様,および執筆にあたり助言くださった先生方に深く感謝いたします.

研究資金

すべての著者において該当なし

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

山田は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献;石山は研究データの分析,解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;大橋は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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