Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
小児神経疾患に関わる医師と看護師の緩和ケアに対する認知—単施設質問紙調査より—
野崎 章仁 吉田 真衣春山 瑳依子
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2026 年 21 巻 2 号 p. 107-114

詳細
Abstract

【目的】小児神経疾患に関わる医師と看護師の緩和ケアに対する認知の程度は明らかではない.小児神経疾患に関わる医師と看護師の緩和ケアに対する認知の程度を調査した.【方法】小児神経科医15名と看護師92名を対象に質問紙調査を行い,量的検討を行った.【結果】107名中80名(75%)が回答した.言葉の認知は知っているが95%も,定義の認知は知らないが57%であった.定義の認知では,経験年数および人生会議参加において統計学的有意差を認めた(P<0.05).緩和ケアの対象および緩和ケアについての質問項目に対し「そう思う」の回答は,48%~79%であった.【結論】緩和ケアに対する言葉の認知と定義認知に乖離があり,緩和ケアの定義は知らないが多かった.適切な緩和ケアを行うためにも,小児神経疾患に関わる医師と看護師は緩和ケアの定義を含めた緩和ケアの認知を高める必要がある.

Translated Abstract

Objective: Little is known about understanding of palliative care (PC) among doctors and nurses involved in pediatric neurological disorders. This study aimed to investigate understanding of PC among doctors and nurses involved in pediatric neurological disorders. Methods: A questionnaire survey was administered to 15 pediatric neurologists and 92 nurses, and then a quantitative analysis was conducted. Results: Eighty (75%) of the 107 participants responded, 95% of whom indicated that they were “knowing” of the word of PC. However, 57% of these respondents indicated that they were “unknowing” of the definition of PC. Statistically significant differences in years of experience and participation in advance care planning (both P<0.05) were found in the perception of definition. The percentage of those who responded “strongly agree” to questions about the targets of PC and contents of PC ranged from 48% to 79%. Conclusions: There was a gap of the understanding between the word of PC and the definition of PC. And its definition was not well recognized. These findings suggest that to provide appropriate PC, doctors and nurses involved in pediatric neurological disorders need to increase their understanding of PC, including its definition.

緒言

緩和ケアとは,生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のquality of life(QOL)を,痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで,苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである 1.緩和ケアは腫瘍疾患だけでなく,心疾患,腎疾患および筋ジストロフィーを含む神経疾患などの非がん疾患も対象となる 2.小児も緩和ケアの対象であり,小児に対する緩和ケアがpediatric palliative care(小児緩和ケア)である 2,3.そして近年は小児を含む神経疾患おいて,neuropalliative careが提唱されている 4

本邦の小児緩和ケアの普及は2009年から始まるも,小児がんを中心として発展している 5.一方,年少児や非がん疾患に対する専門的緩和ケアは十分に行われておらず,小児緩和ケアの教育も不十分である 5,6.小児緩和ケアの標準化や均てん化に向けて,本邦の小児緩和ケアに対する知見が求められている 5,6.小児における緩和ケアの対象となる生命を脅かす病態には,小児特有の稀な疾患が多く,小児がんは2割以下で,先天性疾患や神経疾患など小児神経疾患が約75%を占める 3.小児神経疾患では,早期の死が起こりえる 7ため,小児神経疾患は緩和ケアの対象である 3,5,8.しかし,本邦の小児緩和ケアは小児がんが中心のため 3,5,9,小児神経疾患に関わる医師と看護師の緩和ケアに対する認知の程度は明らかではない.本研究の目的は,小児神経疾患に関わる医師と看護師の緩和ケアに対する認知の程度を明らかにすることである.

方法

用語の定義

緩和ケア:緩和ケアとは,生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを,痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで,苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである 1

対象

2024年1月~2024年3月に滋賀県立総合病院こども医療センター(以下,当院)で勤務し,小児神経疾患の診療に関わった小児神経科医15名および看護師92名に無記名自記式質問紙調査を実施した当院は滋賀県内唯一の小児専門病院である.リハビリテーションなど小児の専門的対応が可能であり,本調査の対象である小児神経科医および看護師を含め,当院の全職員が小児神経疾患患者の診療に関わっている.なお,当院では小児がん診療を行っていない.

調査項目

質問紙調査内容を表1に示す.対象者背景として既報告 10を参考に立場と診療経験年数,および小児神経疾患のこどもの人生会議(以下,人生会議)参加有無を尋ねた.立場は,小児神経科医・外来看護師・high care unit(以下,HCU)看護師・一般病棟看護師のように尋ねた.診療経験年数は,1~10年・11~20年・21~30年・31年以上のように尋ねた.人生会議参加有無は,はい・いいえのように尋ねた.なお当院において,外来看護師は日常生活支援,HCU看護師は急性期の入院管理および一般病棟看護師はそれ以外の入院管理やレスパイトケアを担っている.緩和ケアの認知は,「緩和ケア」の言葉の理解,WHOの緩和ケア定義の理解,緩和ケアの対象の理解,緩和ケアのケア内容の理解を尋ねた.「緩和ケア」の言葉の理解は,既報告を参考に「まったく知らない:1」~「よく知っている:4」の4段階数字評価スケールで尋ねた 10.WHOの緩和ケア定義の理解も,既報告を参考に「まったく知らない:1」~「よく知っている:4」の4段階数字評価スケールで尋ねた 10.なお,既報告 10と同様に医師と看護師の緩和ケアに対する認識を統一させる目的も踏まえ,WHOの緩和ケア定義を日本語で質問紙に記載した.緩和ケアの対象の理解は,がん・非がん・小児・小児神経疾患に対して他の既報告 11,12を参考に「そう思わない:1」~「そう思う:5」の5段階数字評価スケールで尋ねた.緩和ケアのケア内容の理解も,日本緩和医療学会で提示されている緩和ケア 1に関し,「そう思わない:1」~「そう思う:5」の5段階数字評価スケールで尋ねた.

表1 質問項目内容

質問内容 回答項目
職種 小児神経科医・外来看護師・HCU看護師・一般病棟看護師
診療経験年数 1~10年・11~20年・21~30年・31年以上
小児神経疾患の人生会議に参加されたことはありますか? はい・いいえ
緩和ケアの認知に関する質問(数字に丸をしてください)
「緩和ケア」の言葉を知っていますか? まったく知らない:1 
あまり知らない:2 
少し知っている:3 
よく知っている:4
緩和ケアの定義(WHO 2002年)について知っていますか?
がんは,緩和ケアの対象となる そう思わない:1 
あまりそう思わない:2 
どちらでもない:3 
ややそう思う:4 
そう思う:5
非がん疾患(神経疾患,心疾患,腎疾患など)は,緩和ケアの対象となる
小児は,緩和ケアの対象となる
小児神経疾患は,緩和ケアの対象となる
痛みやその他のつらい症状を和らげる そう思わない:1 
あまりそう思わない:2 
どちらでもない:3 
ややそう思う:4 
そう思う:5
生命を肯定し,死にゆくことを自然な過程と捉える
死を早めようとしたり遅らせようとしたりするものではない
心理的およびスピリチュアルなケアを含む
患者が最期までできる限り能動的に生きられるように支援する体制を提供する
患者の病の間も死別後も,家族が対処していけるように支援する体制を提供する
患者と家族のニーズに応えるためにチームアプローチを活用し,必要に応じて死別後のカウンセリングも行う
QOLを高める.さらに,病の経過にも良い影響を及ぼす可能性がある
病の早い時期から生存期間の延長を意図して行われる治療と組み合わせて適応でき,つらい合併症をよりよく理解し対処するための精査も含む

HCU: high care unit, QOL: quality of life

分析方法

質問項目の回答において全体および立場4群・診療経験年数4群・人生会議参加有無2群に対する量的検討を行った.立場4群・診療経験年数4群・人生会議参加有無2群で回答に差があるかに対しては検定を行った.2群ではMann–Whitney U検定を行った.3群以上ではKruskal–Wallis検定を行い,有意差を認めた場合は,どの群間に有意差があるのか判断をするためにBonferroniの多重比較を行った.また立場4群で人生会議参加有無が異なるのかを評価するためにFisherの正確検定を行い,有意差を認めた場合はどの群間に有意差があるのかBonferroniの多重比較を行った.なお属性については独立して検討を行った.統計解析にはEZR(version 1.68)を使用した.EZRはRおよびRコマンダーの機能を拡張した統計ソフトウェアであり,自治医科大学附属さいたま医療センターのホームページで無償配布されている 13.有意水準はP<0.05とした.

倫理的配慮

調査に対して,回答を行うかどうかについては任意であり,行わなくても不利益がないこと,および答えたくない質問には答えなくてよいことを説明した.また無記名自記式であり,名前や連絡先を含む個人情報は収集しないことも説明した.その上で,質問紙への回答をもって調査への同意とした.なお,本研究は滋賀県立総合病院こども医療センター倫理委員会での承認を得て行った(審査番号 R5-13号).

結果

①参加者の内訳(表2)

質問紙への回答を107名中,80名(75%)から得た.内訳は,小児神経科医13名(回収率87%,うち小児神経専門医は8名),外来看護師24名(回収率100%),HCU看護師17名(回収率100%)および一般病棟看護師26名(回収率51%)であった.診療経験年数は,1~10年が26名,11~20年が24名,21~30年が13名および31年以上が17名であった.小児神経疾患の人生会議参加有りは39名(49%),無しは41名(51%)であった.立場別の人生会議参加有りは小児神経科医54%,外来看護師71%,HCU看護師47%,一般病棟看護師49%(P=0.019)で,外来看護師および一般病棟看護師のみで有意差を認めた(P=0.025).

表2 参加者の内訳人数(名)

立場 小児神経科医 外来看護師 High care unit看護師 一般病棟看護師 全体人数(N)
13 (16%) 24 (30%) 17 (21%) 26 (33%) 80
診療経験年数
1~10年 2 (15%) 3 (12.5%) 7 (41%) 14 (54%) 26 (33%)
11~20年 8 (62%) 6 (25%) 4 (24%) 6 (23%) 24 (30%)
21~30年 1 (8%) 3 (12.5%) 5 (29%) 4 (15%) 13 (16%)
31年以上 2 (15%) 12 (50%) 1 (6%) 2 (8%) 17 (21%)
小児神経疾患の人生会議参加有無
有り 7 (54%) 17 (71%) 8 (47%) 7 (27%) 39 (49%)
無し 6 (46%) 7 (29%) 9 (53%) 19 (73%) 41 (51%)

②「緩和ケア」の言葉およびWHOの緩和ケア定義の理解(表3)

回答者全体80名において,緩和ケアの言葉の理解では,知っている(「少し知っている」・「よく知っている」)との回答が95%であった.一方,定義の理解では知っているとの回答が43%で,「あまり知らない」との回答が49%と最も多かった.「緩和ケア」の言葉の理解は,立場別では小児神経科医92%,外来看護師96%,HCU看護師100%,一般病棟看護師92%(P=0.348),診療経験年数別では1~10年92%,11~20年91%,21~30年100%,31年以上100%(P=0.091),人生会議の参加経験別では無し98%,有り93%(P=0.266)であった.定義の理解において,立場別では小児神経科医61%,外来看護師58%,HCU看護師41%,一般病棟看護師23%(P=0.025)も,Bonferroniの多重比較では各々P>0.05のため特定群間において統計学的な有意差を認めなかった.診療経験年数別では1~10年35%,11~20年29%,21~30年38%,31年以上83%(P=0.003)で,Bonferroniの多重比較では31年以上のみが各経験年数群間と有意差を認めた(各々P<0.05).人生会議の参加経験別では無し36%,有り51%(P=0.041)であった.

表3 「緩和ケア」の言葉およびWHOの緩和ケア定義の理解

人数 「緩和ケア」の言葉を知っていますか? 緩和ケアの定義(WHO 2002年)について知っていますか?
まったく知らない:1 あまり知らない:2 少し知っている:3 よく知っている:4 まったく知らない:1 あまり知らない:2 少し知っている:3 よく知っている:4
N N(%) N(%) N(%) N(%) P値 N(%) N(%) N(%) N(%) P値 Bonferroni補正後P値
回答者全体 80 0 (0) 4 (5) 48 (60) 28 (35) 6 (8) 39 (49) 30 (37) 5 (6)
立場4群 立場4群 小児神経科医 外来看護師 HCU看護師
小児神経科医 13 0 (0) 1 (8) 5 (38) 7 (54) 0.348 1 (8) 4 (31) 5 (38) 3 (23) 0.025 小児神経科医
外来看護師 24 0 (0) 1 (4) 14 (58) 9 (38) 1 (8) 9 (38) 12 (50) 2 (8) 外来看護師 1.000
HCU看護師 17 0 (0) 0 (0) 11 (65) 6 (35) 1 (6) 9 (53) 7 (41) 0 (0) HCU看護師 1.000 1.000
一般病棟看護師 26 0 (0) 2 (8) 18 (69) 6 (23) 3 (12) 17 (65) 6 (23) 0 (0) 一般病棟看護師 0.117 0.057 1.000
診療経験年数4群 診療経験年数4群 1~10年 11~20年 21~30年
1~10年 26 0 (0) 2 (8) 18 (69) 6 (23) 0.091 2 (8) 15 (58) 9 (35) 0 (0) 0.003 1~10年
11~20年 24 0 (0) 2 (8) 14 (58) 8 (33) 3 (12) 14 (58) 5 (21) 2 (8) 11~20年 1.000
21~30年 13 0 (0) 0 (0) 9 (69) 4 (31) 1 (8) 7 (54) 5 (38) 0 (0) 21~30年 1.000 1.000
31年以上 17 0 (0) 0 (0) 7 (41) 10 (59) 0 (0) 3 (18) 11 (65) 3 (18) 31年以上 0.005 0.012 0.049
小児神経疾患の人生会議参加有無2群
無し 41 0 (0) 1 (2) 29 (71) 11 (27) 0.266 6 (15) 20 (49) 14 (34) 1 (2) 0.041
有り 39 0 (0) 3 (8) 19 (49) 17 (44) 0 (0) 19 (49) 16 (41) 4 (10)

属性については独立して検討を行った.Bonferroni補正では,2群の差があるかの検定を行ったのち,比較する回数をP値にかけて調整P値で評価を行っている.

HCU: high care unit

③緩和ケアの対象の理解

回答者全体80名(図1)において,緩和ケアの対象の認知では,思う(「そう思う」・「ややそう思う」)との回答が91%~96%であった.小児神経疾患は緩和ケアの対象への回答が最も低率であった.属性(背景因子)の各群間で,有意差を認めなかった(すべてP>0.05).

図1 緩和ケアの対象の理解:回答者全体80名

「そう思う」の回答が高いものから順に記載

④緩和ケアのケア内容の理解

回答者全体80名(図2)において,緩和ケアについての認知では,思うとの回答が92%~99%であった.早期から緩和ケアに対して思うとの回答が81%と最も低率であった.「どちらでもない」の回答は早期から緩和ケアのみ15%で,他の質問項目(0%~6%)より高かった.属性(背景因子)の各群間で,有意差を認めなかった(すべてP>0.05).

図2 緩和ケアのケア内容の理解:回答者全体80名

「そう思う」の回答が高いものから順に記載

考察

本研究の目的は,小児神経疾患に関わる医師と看護師の緩和ケアに対する認知の程度を明らかにすることである.単施設の検討ではあるが,小児神経疾患に関わる医師と看護師への調査は本邦にこれまでない.

まず,「緩和ケア」の言葉およびWHOの緩和ケア定義の認知について,以下の知見が本研究の参加者から得られた.第一に,「緩和ケア」の言葉の認知は95%であったが,緩和ケアの定義に対する認知は43%であり,知らないが57%であった.共に立場4群(小児神経科医・外来看護師・HCU看護師・一般病棟看護師)のどのグループにおいても有意差がないことから,小児神経疾患に関わる医師・看護師は緩和ケアの定義に関する認知が不十分であることが示された.自施設の定義認知(43%)は,村上らの療養病棟介護職(45%) 10および緩和ケア病棟非経験者(39%) 14の回答と近かった.自施設は小児がんを診療していない施設で,緩和ケア病棟も有していない.2012年のがん対策推進基本計画において,小児がん患者に対する緩和ケアの提供が小児がん拠点病院の要件となり,小児緩和ケアの基本的な土台構築へと繋がった 3,9.成人と同様に小児緩和ケアもがん患者を中心に展開しており,本邦の非がん緩和ケア自体の不浸透が影響していると考えられる 3,5,9,15.緩和ケア病棟もないことは緩和ケアが身近な環境とは言えず,緩和ケアに対する知識や教育の不足に影響し,言葉の認知と定義認知の乖離理由に影響した可能性がある 10,14.さらに非がんの緩和ケア診療加算が後天性免疫不全症候群または末期心不全に限定され,小児神経疾患を含む他の非がんは対象外である 15,16ことも緩和ケアが身近な環境とはいえない.緩和ケア病棟経験者など緩和ケアに直接携わる医療者は,頻繁にWHOの緩和ケア定義に触れる機会があり,定義認知は69%~79%である 14.そのため,緩和ケアが身近な環境にないことは,乖離理由になりうると思われた.緩和ケアの言葉の認知と定義認知に乖離がありうることに対して注意が必要である.さらに緩和ケアへ従事している医療者が存在しても,同じ施設内において緩和ケアの認知は十分ではない 14.適切な緩和ケアを行うためにも,言葉のみではなく,定義を含めた認知を小児神経疾患に関わる医師・看護師は高める必要がある.第二に,定義の認知において,経験年数4群で有意差を認めた.診療経験年数が31年以上の回答中央値は「少し知っている:3」であり,他群すべてと比べて有意差を認めた(P<0.05).それ以外の経験年数では有意差を認めなかった.本研究からは31年以上の診療経験年数が,緩和ケアの認知と関わっていたことが得られた.小児神経疾患に対する緩和ケアにおいて,患者と家族を長く知る医療者の関わりは重要である 9.小児神経疾患の軌跡では,入院や通院を繰り返す中で治療方針の決断を何度も迫られる.そのため診療経験年数が長いことは,小児神経疾患に対する緩和ケアに求められる一貫した長期的な視野に立つこと 9と関連した可能性を考えた.一方,成人の検討では経験年数(3年以下・4~10年・11~20年・21年以上)において長い人は短い人よりそれぞれ有意に緩和ケアの認知度が高かった報告や経験年数の長短では差を認めない報告もある 10,14.そのため,一施設の結果のみから診療経験年数が長ければ緩和ケアの認知度が高いとの判断は不適切と考える.今後,診療経験年数と緩和ケアの認知度の関連について多施設共同での検討が必要である.第三に,定義の認知において,人生会議参加有無の2群で有意差を認めた.人生会議参加経験者の回答中央値は「少し知っている:3」であり,未経験者(中央値が「あまり知らない:2」)と比べて人生会議参加経験者は緩和ケアの定義を認知していた.人生会議は緩和ケアの重要な要素である 17.小児神経疾患は,生命が脅かされる疾患も含むため緩和ケアの対象であり,人生会議の実施が推奨されている 17.しかし,本邦の小児神経疾患を含む小児領域において人生会議は十分に行われていない 1820.そのため,患者・家族の緩和ケアに関わることが人生会議の参加につながり,緩和ケアの認知に影響した可能性を考えた.ただし因果の方向性が逆である可能性もある.小児神経疾患に関わる医師と看護師は,患者・家族の緩和ケアのために,人生会議の参加や実施に関わることが重要と思われた.

次に,緩和ケアの対象について,以下の知見が本研究の参加者から得られた.小児神経疾患に関わる医師と看護師は属性(背景因子)の各群間にかかわらず,がん・非がん・小児・小児神経疾患は緩和ケアの対象であると考えていることが得られた.小児緩和ケアの対象疾患において,海外では先天性疾患や神経疾患など小児神経疾患が約75%を占め,小児がんは2割程度と考えられている 3,21.一方,本邦での正確な疫学データはない 6,21が,0~19歳の死亡数(3,931人)からは小児神経疾患である先天奇形等(618人)・呼吸障害等(232人)・出血性障害等(51人)の合計が901人(23%)と最も多い 7.次いで,自殺が759人(19%),不慮の事故が362人(9%)で,がん疾患は356人(9%)である 7.海外と同様に,本邦の小児緩和ケアの対象もがん疾患より小児神経疾患の方が多い 3と考えられる.そのため小児神経疾患に関わる医師と看護師は,日常診療の中で緩和ケアを必要としうる患者・家族に関わる機会が多い可能性がある.がん・非がん・小児・小児神経疾患は緩和ケアの対象であるとの質問に対する思うの回答(91%~96%)に影響したと推察した.緩和ケアは,本来,がんのみならず,あらゆる重い病とともに生きる人々に対して提供されるべき医療である 22.しかし,本邦では緩和ケアの保険診療上の適応が狭く,非がんに対する緩和ケアは不十分である 15,22.2025年9月には「腎不全患者のための緩和ケアガイダンス」が発表され,がん以外の疾患に対する緩和ケアの普及と質向上が求められている 22.がん・非がん・小児・小児神経疾患に対する緩和ケアの普及が重要である.

そして,緩和ケアについて,以下の知見が本研究の参加者から得られた.第一に,小児神経疾患に関わる医師と看護師は属性(背景因子)の各群間にかかわらず,緩和ケアに関する質問に対する思うの回答は91%~96%であった.緩和ケアの対象での考察と同様に,小児神経疾患に関わる医師と看護師は,日常診療の中で緩和ケアを必要としうる患者・家族に関わる機会が多いことが影響している可能性がある.一方,属性(背景因子)の各群間にかかわらず,早期から緩和ケアに対する思うの回答(81%)が最も低かった.小児緩和ケアは早期や診断時から行う必要がある 17,23とされているが,今回の結果から小児緩和ケアの開始時期に対する医師および看護師の認識不足が示唆された.第二に,緩和ケアの質問項目の「そう思う」の回答は48%~78%であり,一定ではなかった.本研究参加者の57%が緩和ケアの定義を知らないと回答しており,定義の認識不足が影響したと考えた.より適切に緩和ケアを行うためにも,小児神経疾患に関わる医師と看護師は,緩和ケア定義を理解し,緩和ケアの内容を早期に実践していく必要がある.

われわれは本研究についていくつかの限界があることを認識している.一つ目は,今回行なった調査が自施設のみで検討した点である.他施設でも同様の結果が得られるかは不明である.また,自施設では人生会議や緩和ケアに関わる論文報告を複数し,施設内で人生会議や緩和ケアの研修も行っている.そのため,質問項目に対する回答が高く出ている可能性は否定できない.今後,多施設において小児神経疾患の緩和ケアに関する認知調査が必要である.二つ目は,調査対象者を医師・外来看護師・HCU看護師・一般病棟看護師とした点である.小児神経疾患では,多職種の医療者や院外関係者の関わりもある 8.そのため,本調査からは医師・看護師以外がどのように回答するかについては不明である.今後,院内関係者すべておよび院外関係者にも同内容について質問紙調査を検討している.三つ目は,緩和ケアの認知に影響する可能性のある背景要因として卒後教育や緩和ケアに関する研究会への参加なども考えられるが,十分な検討ができていない.今後背景要因の検討も一施設でなく,多施設共同での取り組みが必要である.

結論

小児神経疾患に関わる本研究参加者(医師・看護師)において,緩和ケアに対する認知は高かったが,緩和ケアの定義は知らないが多かった.適切な緩和ケアを行うためにも,小児神経疾患に関わる医師と看護師は緩和ケアの定義を含めた緩和ケアの認知を高める必要がある.

謝辞

本研究に当たって,質問紙調査に協力をいただいた小児神経科医・看護師の皆様に深謝します.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

野崎,吉田は研究の構想およびデザイン,研究データの収集・分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.春山は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2026 日本緩和医療学会

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
feedback
Top