2026 年 21 巻 2 号 p. 115-123
【目的】診断後8週間以内の進行膵臓がん患者に,早期から看護師主導の専門的緩和ケアプログラムを導入し,実装可能性の評価と介入効果を探索的に検討することを目的とした.【方法】プログラムの適切性や受容性などを看護師へのアンケート調査や,医師・看護師へのインタビュー調査で評価し,介入効果を患者のquality of life(QOL)変化や緩和ケアの質に関するアンケート調査で評価した.【結果】12人の患者にプログラムを実施し,看護師28人,医師2人が評価した.看護師の受容性の中央値は,1病棟において開始1カ月後に比較して開始9カ月後で低下した.患者のQOL(Functional Assessment of Cancer Therapy–General: FACT-G)の中央値は,プログラム開始時(62点)と比較して1カ月後(71.05点)に数値が上昇し,3カ月後(65点)に低下した.プログラム終了時のアンケート結果では,患者の満足度は高く負担感は少なかった.【結論】プログラムの継続性や対象の拡大が今後の課題である.
Objective: The purpose of this study was to introduce a nurse-led specialized palliative care program early on for patients with advanced pancreatic cancer within 8 weeks of diagnosis, and to evaluate the feasibility and exploratory study of the intervention effects. Methods: A nurse-led specialized palliative care program was introduced for patients with advanced pancreatic cancer, and the appropriateness and acceptability of the program were evaluated through a questionnaire survey of nurses and interviews with doctors and nurses. The effects of the intervention were evaluated through a questionnaire survey on changes in patients’ quality of life (QOL) and the quality of palliative care. Results: The program was implemented on 12 patients and evaluated by 28 nurses and 2 doctors. The median acceptability of nurses in one ward decreased 9 months after the program compared to 1 month after the program started. The median patient QOL (Functional Assessment of Cancer Therapy–General: FACT-G) score increased 1 month after the program (71.05 points) compared to the start of the program (62 points), and then decreased 3 months later (65 points). Survey results at the end of the program showed high patient satisfaction and little sense of burden. Conclusion: Ensuring program continuity and expanding the target population are future challenges.
切除不能の進行膵臓がん患者は,診断の初期段階で78%~82%に腹痛が生じているといわれ1),診断時から抑うつリスクが高いこと2)や,切除可能な患者に比較して,情報,コミュニケーション,心理的サポートのニーズを抱えている3)と報告されている.このような背景から,切除不能の進行膵臓がん患者には,診断時から症状緩和やquality of life(QOL)向上を目指した多職種アプローチが望まれる4).しかし,進行膵臓がん患者の治療は,多くが通院治療となり,がん治療に対する患者の思いを汲み取ったり,治療選択に関する意思決定支援が十分に行われない場合,最期まで積極的治療やその副作用にとらわれながら死を迎えることも多いとも指摘されている5).
がん診療連携拠点病院を中心に,がん患者の苦痛を見過ごすことなく必要に応じて専門家につなげられるように苦痛のスクリーニングなどが行われているが,汲み上げられた患者の苦痛に対して,主治医から緩和ケアチーム(palliative care team: PCT)へとつなぐ体制が機能していないことが報告されている6).また,がん治療医からは,「緩和ケア」という単語を出すことの患者への心理的負担への懸念,時間的制約などが専門的緩和ケア介入のバリアになると報告されている7,8).
がん診療連携拠点病院である対象施設のPCTは,担当医からの依頼での介入が多く,2018年度対象施設で診断された膵臓がんステージIII・IVの患者82人に対してPCTが介入していた人数は,26人(26/82,31.7%)であり,26人のうち18人(18/26,69.2%)が終末期の状態からの介入であった.PCTが診断時や治療中から介入していた人数は,82人のうち8人(8/82,9.8%)であった.これらの状況から対象施設において,切除不能の進行膵臓がん患者への診断早期からの専門的緩和ケアが不十分であると考えられる.
Temelらは,肺がん患者への早期からの専門的緩和ケアの導入によりQOLのみならず生存率が向上した9)という研究結果を発表し,Bakitasらは,高度実践看護師による早期からの緩和ケアによる生存期間延長の効果を示している10).本研究では,切除不能進行膵臓がん患者に対して診断早期から看護師主導の専門的緩和ケアプログラムを実装し,実装可能性の評価と介入効果を探索的に検討することを目的とした.
本研究は,対象施設で診断後8週間以内の進行膵臓がん患者にevidence-based intervention(EBI)に基づく早期からの看護師主導の専門的緩和ケアプログラムを行い,実装可能性の評価と介入効果を探索的に検討する観察研究とした.Proctorの概念枠組み11)を基に作成した,本研究の概念枠組みを付録1に示す.
プログラム内容進行がん患者へ看護師主体で早期からの専門的緩和ケア介入を行った,Vanbutseleらのプロトコール12,13)では,PCT看護師が緩和ケア面談を行い,多職種に紹介する,治療診療科との定期的な会議へ参加する,という内容が含まれていた.対象施設のPCTには,がん看護専門看護師2人,緩和ケア認定看護師1人が配置されており(研究実施時点),PCT看護師がPCT介入の初診問診をとり,多職種につなげる役割を担っている.また,PCTと治療診療科とのカンファレンスの実施が課題となっていた.そこで,対象施設での課題解決にもつながると考え,Vanbutseleらのプロトコールを本プログラムに取り入れることとした.プログラムの主要な要素は,①進行膵臓がん患者に診断後8週間以内にPCT看護師が関わる,②ツールを用いた継続的な症状評価,③アセスメントシートの要素を取り入れたPCT看護師による面談,④定期的に消化器内科医師や看護師とPCT看護師がカンファレンスを行う,⑤消化器内科医師による消化器内科医師,病棟・化学療法室看護師,PCT等への膵臓がん治療に関する勉強会の実施,とした.プログラム内容詳細を付録2,3に示す.本プログラムでは,PCT看護師が入院中に関わりを開始し,その後外来通院中を含めて,約3カ月間プログラムを実施することとした.
また,本プログラムを中心で行う看護師は,PCTのメンバーでもあり,通常のPCT看護師としての関わりに加えて本プログラム内容に沿った関わりを行った.
実装方略対象施設の消化器内科医師,PCT看護師を中心とした実装チームを形成し,プログラム開始の準備,実施を行った.プログラム開始2~3カ月ごとをQIサイクル(quality improvement cycle: QICy)の1サイクルとして,実装チームでプログラムの評価改善を行った.本プログラムのQICyを,付録4に示す.
本研究における用語の操作的定義進行膵臓がん患者:診断時点で根治切除不能な膵臓がん患者(ステージIII・IV).
専門的緩和ケア:緩和ケア認定看護師やがん看護専門看護師,PCT等による緩和ケア.
研究対象者患者側の対象者は,以下の要件を満たしたものとした.①20歳以上,②日本語の読み,書きができる,③診断時に切除不能膵臓がん患者,④診断後8週間以内,⑤対象施設の消化器内科で点滴抗がん剤治療を継続予定の入院患者,⑥研究参加の同意が得られている患者,とした.
医療者側の対象者は,すべて研究参加の同意が得られた医療者とし,看護師は,看護師経験2年目以上で対象施設消化器内科病棟に勤務している看護師と,化学療法室経験1年以上かつ看護師経験2年目以上で対象施設化学療法室に勤務している看護師とした.研究開始が6月からであり看護師経験1年目の看護師は基本的看護技術習得の段階で研究参加は困難な時期と考え,看護師経験2年目以上の看護師を対象とした.医師は,消化器内科で膵臓がん治療に関わり,対象施設消化器内科に常勤で勤務している医師とした.
なお,本研究では,PCTメンバーは研究実施者側であっため,評価対象とはしていない.
リクルート手順 1. 患者側適格基準を満たす患者に対して消化器内科担当医から,PCT看護師が関わること,プログラム参加について説明し,その後研究責任者がプログラムについて文書と口頭で説明し,プログラム参加の同意を得た.
2. 医療者側適格基準を満たした看護師,医師に対して,プログラムの説明を文書と口頭で行い,プログラム参加の同意を得た.
データ収集 1. 実装アウトカム ①調査項目忠実度は,PCT看護師の面談回数(実数,中央値),カンファレンス実施回数(実数,中央値),問診票による症状評価実施率を調査した.
適切性・受容性を評価するアンケート項目は,PCT看護師との情報共有,カンファレンス実施,PCT看護師の協働的関わり,問診票聴取の負担,プログラムの継続性,現場に合っているか,参加して良かったか,を「1:思わない」から「4:そう思う」の4段階で評価する内容とした.点数は,問診票聴取負担は低いほうがよい結果を示し,他の項目は高いほうがよい結果を示す.プログラムに参加した看護師からのプログラム参加への満足度は,「1:大変不満」から「5:大変満足」の5段階評価とした.
インタビュー内容は,プログラムに参加して良かった点,悪かった点,プログラム前後での変化,プログラムの負担感,継続性などとした.
②調査方法忠実度は,対象患者の診療記録・看護記録から調査した.適切性・受容性は,看護師に対するアンケート調査,医師・看護師に対するインタビュー調査で評価した.アンケートは,プログラム開始後QICyごとに配布した.インタビュー調査は,同意の得られた看護師,医師に対してインタビューフォームを用いて半構造化面接を行い,1人1回,プログラム終了時に行った.
到達度は,調査期間中に,対象施設外来化学療法室初回利用の切除不能膵臓がん患者のうち,プログラム実施患者数・割合,プログラムの対象とはならなかったがPCT看護師が関わっている患者数・割合,PCT看護師が全く関わっていない患者数・割合をQICyごとに算出した.本プログラムは,進行がん診断早期から,点滴抗がん剤治療中継続して関わるプログラムであったため,対象施設外来化学療法室初回利用患者を到達度の分母とした.
2. クリニカルアウトカム ①調査項目QOLは,FACT-G(Functional Assessment of Cancer Therapy–General)を用いて評価した.FACT-Gは,数値が高いほどQOLが良好であることを示している.研究使用にあたり,開発元14)より使用許諾を得た.
緩和ケアの質は,「患者による緩和ケアの構造・プロセスの評価尺度(Care Evaluation Scale–Patient version: CES-P)」15)の23項目を,作成者より許諾を得て9項目を抜粋し評価票を作成し,ケアの満足度とプログラム負担感を5段階評価で聴取した.
②調査方法FACT-Gは,プログラム開始時,1カ月後,3カ月後に患者に配布し回答を依頼した.
緩和ケアの質は,プログラム開始3カ月後に患者に配布し回答を依頼した.
データ分析方法 1. 実装アウトカム医療者へのアンケート調査は,満足度以外の項目は4段階リッカート尺度,満足度は5段階リッカート尺度とし,項目ごとに中央値を算出し,QICyごとに比較した.
インタビュー調査結果は,インタビュー対象者から語られた内容を質的帰納的内容分析の手法を用いて分析した.インタビュー内容から分析対象とする文脈を決定し,文脈を意味内容の類似性に従って分類し,サブカテゴリ化したものを抽象化し,カテゴリ化した.
2. クリニカルアウトカムQOLの変化は,プログラム開始時(T0とする),プログラム開始約1カ月後(T1とする),プログラム開始約3カ月後(T2とする)で中央値・範囲を算出し,各時点間(T0–T1,T0–T2,T1–T2)で比較した.緩和ケアの質は,中央値・範囲を算出した.
データ収集期間・リクルート期間データ収集期間は,2021年6月~2022年6月とした.
患者のリクルートは,2021年6月~2022年3月末とした.
倫理的配慮研究参加者には,研究参加は自由意思であり参加しない場合でも不利益は受けないこと,途中中止も可能であること,個人情報の保護およびデータの管理方法,匿名性の厳守,結果の公表について文書と口頭で説明し署名による同意を得た.本研究は,聖路加国際大学倫理委員会,研究実施施設の病院倫理委員会の承諾を得て行った(聖路加国際大学倫理委員会 番号20-A085,順天堂大学医学部医学系研究等倫理委員会 承認番号H21-0005).
プログラムの対象患者は合計12人,男性7人,女性5人であった.プログラム対象患者背景を,表1に示す.10人(83.3%)がステージIVであった.病理結果で膵臓がんが確定した日を0日目とすると,PCT看護師は確定診断後中央値2日で関わりを開始していた.
| 人数(割合%) | 平均 | 中央値 | 範囲 | |
|---|---|---|---|---|
| 性別 | ||||
| 男性 | 7人(58.3) | |||
| 女性 | 5人(41.7) | |||
| 年齢(歳) | 63.75歳 | 65歳 | 48–76歳 | |
| 診断から関わり開始までの日数 | 7.7日 | 2日 | −4–52日 | |
| ステージIII | 2人(16.6) | |||
| IV | 10人(83.3) | |||
| オピオイド使用の有無 | ||||
| あり | 5人(41.7) | |||
| なし | 7人(58.3) | |||
| 初回の治療内容 | ||||
| GEM+Nab-PAC | 3人(25) | |||
| FOLFIRINOX | 9人(75) | |||
| 合計 | 12人 | |||
調査対象看護師は,28人(A病棟10人,B病棟9人,化学療法室[以下C外来とする]9人)であった.看護師の経験年数中央値(範囲)は,中央値9年(4–28)であり,A病棟が9年(4–20),B病棟が5年(3–15),C外来が9年(4–28)であった.
実装アウトカム 1. 忠実度プログラムの忠実度を,付録5に示す.PCT看護師の面談回数は,患者1人あたり中央値10回(範囲5–17),PCT看護師と,部署看護師や医師とのカンファレンスの実施回数は,患者1人あたり中央値3回(範囲1–5)であった.
2. プログラムの適切性,受容性進行膵臓がん患者への看護師主導の早期からの専門的緩和ケアプログラムの適切性,受容性を表2に示す.病棟ごとにプログラム実施した患者数やカンファレンス実施数に違いがあるため,病棟ごとに比較した.
| QICy1(1カ月後) | QICy3(7カ月後) | QICy4(9カ月後) | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| n数 | A病棟 | 9 | 9 | 10 | ||
| B病棟 | — | 7 | 9 | |||
| C外来 | 8 | 8 | 8 | |||
| 適切性 | 共有できていたか | 中央値 | A病棟 | 4 | 4 | 4 |
| B病棟 | — | 4 | 4 | |||
| C外来 | 4 | 4 | 4 | |||
| カンファレンスできていたか | 中央値 | A病棟 | 4 | 4 | 4 | |
| B病棟 | — | 4 | 4 | |||
| C外来 | 4 | 3 | 4 | |||
| 協働できていたか | 中央値 | A病棟 | 4 | 4 | 4 | |
| B病棟 | — | 4 | 4 | |||
| C外来 | 4 | 4 | 4 | |||
| 問診負担 | 中央値 | A病棟 | 1 | 1 | 1 | |
| B病棟 | — | 2 | 2 | |||
| C外来 | 1 | 1 | 1 | |||
| 継続性 | 中央値 | A病棟 | 4 | 4 | 4 | |
| B病棟 | — | 4 | 4 | |||
| C外来 | 4 | 4 | 4 | |||
| 現場にあっているか | 中央値 | A病棟 | 4 | 4 | 4 | |
| B病棟 | — | 4 | 4 | |||
| C外来 | 4 | 4 | 4 | |||
| 受容性 | 参加して良かったか | 中央値 | A病棟 | 4 | 4 | 3 |
| B病棟 | — | 4 | 4 | |||
| C外来 | 4 | 4 | 4 | |||
| 満足度 | 中央値 | A病棟 | 5 | 4 | 4 | |
| B病棟 | — | 4 | 5 | |||
| C外来 | 4 | 4 | 4 |
n=回答した看護師数
A病棟では,受容性を示す「参加して良かったか」の中央値がQICy1(回答数9人)では4であったが,QICy4(回答数10人)時点では3に低下した.また,満足度の中央値がQICy1では5であったが,QICy4時点では4に低下した.その他の項目は,QICy通して中央値の変化はなかった.
3. インタビュー調査結果医師2人,看護師4人(A病棟1人,B病棟1人,C外来2人)の計6人のインタビュー調査を行った.医師,看護師へのインタビュー調査結果を,表3に示す.
| カテゴリー | サブカテゴリー | 内容 |
|---|---|---|
| プログラムの効果 | 早期から関わる効果 | ・症状が悪くなったときの対応がスムーズだった ・患者が準備ができたり,覚悟が早くできたりするメリットがある ・医師に緩和ケアの介入を相談しても『まだそのタイミングではない』と言われて断られることがあったが,プログラムを開始した後はスムーズになった ・病状が進行した時に緩和ケアの話をだすと患者が終末期の印象を受けるため最初に介入してもらったほうが良い |
| 看護師側の意識の変化 | ・カンファレスで膵臓がん患者を意識的に相談するようになった ・緩和ケアが関わっていると,若いスタッフの意識付けになっている ・緩和ケアが関わっていると,患者の受け止めなどをより注意深く最初に聞いたりするようになった |
|
| PCT看護師が関わる効果(医師からの意見) | ・患者さんの(治療に関する)受け入れは良いと思う ・(PCT看護師の記録をみて)医師に話さないことを話してくれていると思う ・薬とか治療検査じゃない部分のアプローチをしてもらえる ・患者と医師の橋渡しになってくれる ・社会的な部分も含めてカバーしてもらえると思う |
|
| 改善点 | PCT看護師との協働 | ・緩和ケアを入れて,頼りすぎてもいけない ・やり方を間違えると全ておまかせになってしまう ・丸投げにならないように,スタッフをまきこんでやれるとよい |
| プログラムの負担感 | 緩和ケア説明の負担感(医師) | 負担感はない 理由は以下 ・専門の看護師と一緒に診ます,チームで診ますと説明している ・PCT看護師をチームの一員と捉えている ・末期でなくとも緩和ケアが必要なときがありトータルでの緩和だから,緩和ケアに驚かないでといつも説明している |
看護師からは,看護師の膵臓がん患者への緩和ケアの意識の向上に効果があるとの意見があった.改善点として,PCT看護師におまかせにならないように,病棟やC外来看護師の主体性を支えるような関わりを求める意見があった.
②医師からの評価医師は,早期からPCT看護師が関わることで,患者側の緩和ケアに対する抵抗感が少ないと感じていた.また,医師側がPCTを患者を支えるチームの一員としてとらえていれば導入説明の抵抗感も少なく,結果患者側の抵抗感も少ないとの意見があった.
4. 到達度プログラムの到達度推移について,図1に示す.QICy1, 2では,プログラム実施患者割合が16.6%~33.3%であったが,QICy3,4では,プログラム実施患者割合が44.4%と上昇した.

プログラム実施患者のQOL変化を,表4に示す.QOL合計点,情動面,機能面は,プログラム開始時と比較して1カ月後に向上し3カ月後にわずかに低下していた.
| 開始時(n=8) | 1カ月後(n=12) | 3カ月後(n=11) | ||
|---|---|---|---|---|
| 合計点 | 中央値(範囲) | 62 (48.2–87.6) | 71.05 (46.5–95.6) | 65.00 (53–91.8) |
| 身体面 | 中央値(範囲) | 19.5 (3–27) | 21.55 (10–28) | 24.00 (16–28) |
| 社会面 | 中央値(範囲) | 15.6 (4–22.2) | 18.80 (4.2–28) | 18.86 (5.0–21) |
| 情動面 | 中央値(範囲) | 16.00 (12–23) | 18.50 (8.0–24.0) | 17.00 (10–24) |
| 機能面 | 中央値(範囲) | 13.50 (6–22) | 18.00 (5–27) | 17.00 (5–21) |
FACT-G: Functional Assessment of Cancer Therapy–General.4要素27項目で構成されている.合計点は0~108点,身体面は0~28点,社会面は0~28点,情動面0~24点,機能面0~28点.数値が高いほどQOLが良好であることを示す.
初回のQOL調査が欠損値4人,病状進行のため3カ月後の欠損値1人.
緩和ケアの質に関するアンケート結果を付録6に示す.各患者のプログラム終了時に行った緩和ケアの質に関するアンケートは,改善すべき点についてほとんどの項目で中央値5点(「ほとんどない」)であった.ケアへの満足度は中央値4点(「満足」),プログラムの負担感は中央値5点(「全く負担ではない」)であった.
適切性は,QICy1の段階から多くの項目で中央値4点(「できていると思う」)と良好な数値であった.適切性が向上はしなかったが低下しなかったことは,プログラム内容と現場の状況に大きなずれはなかったと評価できる.受容性は,とくにA病棟では「参加して良かったか」の項目と満足度において低下がみられた.A病棟のプログラム参加者は看護師経験年数中央値9年であり,B病棟の看護師同5年と比較して長い経験年数であった.看護師経験年数9年は,ベナーの看護論では“達人”の段階と考えられ,『達人看護師は膨大な経験を積んでいるので,多くの的外れの診断や対策を検討するという無駄をせず,一つ一つの状況を直観的に把握して正確な問題領域に的を絞る』16)と示されている.そのため,今回のプログラムの関わりがなくても自ら直観的に看護実践を行うことができる看護師が多かったため,プログラムへの満足度が低かった可能性が考えられる.看護師へのインタビュー調査でも,「看護師の主体的な関わりを支えて欲しい」との意見があった.本プログラム実装において,経験年数の高い看護師が主体的に実践することをPCT看護師が支える関わりにより看護師の受容性や満足度が上がる可能性が推察される.
対象施設では通常,PCTが関わる際には担当医からの依頼で介入を開始していたが,このような必要性に応じたPCT介入は,PCTへの紹介が遅くなったり,PCTへの紹介が医師個々の選択に依存するといわれている17,18).プログラム開始後,QICy1ではプログラム実施患者割合が33.3%,QICy2では16.6%であったが,QICy3,4では44.4%とわずかではあるが向上した.実装チームミーティングにおいて,必ずしもプログラムに忠実な関わりでなくても,PCT看護師が全く関われていない患者を少しでも減らすことを目標とすることを共有していった.チームの目標の明確化がチームの成功の最も重要な予測因子である19)ともいわれており,実装チームのなかで目標を明確化,共有していったことが到達度改善の要因の一つであったと考えられる.また,2018年度の対象施設での進行膵臓がん患者へ診断時や治療中からのPCT介入9.8%と比較すると,本プログラム実施により,医療者の進行がん患者への早期からの専門的緩和ケア介入への意識が高まり,膵臓がん治療中からのPCT介入割合が増加したと考える.
クリニカルアウトカムQOLは,プログラム開始時中央値1カ月後は向上したが,1カ月後に比較して3カ月後は低下していた.プログラムの対象者は,継続的に抗がん剤を実施しており,本プログラムだけでは抗がん剤治療継続に伴う苦痛軽減が不十分であった可能性がある.しかし,本プログラムのQOL数値変化は,プログラム対象患者12人のうち,測定可能であった人数だけでの限られた評価であり本研究結果だけでは,QOLへの評価は十分ではない.
本プログラムの実装本プログラムにおいて,実測値のみの変化ではあるがQOLの低下はみられず,患者の負担感は少なく満足度は高い結果であった.看護師や医師からのインタビュー調査結果からも早期からPCT看護師が関わるメリットや効果に対する意見があった.本プログラムのEBI13)以外にも,先行研究で専門の看護師ががん患者に対して早期から継続的に関わった効果の報告が複数行われているが10,20–23),介入方法やアウトカムはさまざまである.本プログラムが,診断早期からのPCT看護師の関わり方の指標の一つになる可能性がある.
しかし,本プログラムは,限られた期間(約3カ月間),限られた場所(対象施設の2病棟,1外来),限られた対象者(進行膵臓がんで点滴抗がん剤治療を行う患者)でのプログラムであり,一般化には限界がある.進行がん患者の診断早期からPCTの介入による効果が複数の先行研究で示されているが,現実的にはマンパワー不足などにより国内外を問わず臨床実装が進んでいないといわれる18).本プログラムでも,対象患者の拡大や,介入期間が長くなると,PCT側が対応できなくなることが推察される.本研究では,実装アウトカムは消化器内科医師,病棟・化学療法室看護師による評価のみであったが,今後,患者とPCTメンバーからの評価を得ること,さらに費用対効果(PCT介入の回数や時間と効果の関係性など)の検証などにより,早期からの専門的緩和ケア介入プログラムのより効果的な関わり方の検討が必要である.
研究の限界本研究は,単施設で限られた人数,部署,治療集団,期間での実施であり,結果の評価には限界がある.本プログラムは進行膵臓がん患者の治療開始約3カ月間での実施であったが,その後のプログラムの継続性は,さらなる追跡調査が必要である.とくにプログラム内容は,対象施設のPCTの体制を基盤にしたプログラムであったため,一般化には限界がある.また,患者による適切性,受容性の評価を含めた実装アウトカムの検討も必要と考える.プログラム実施患者数も限られているため,クリニカルアウトカムの評価には十分ではない.今後,対象集団や期間の拡大に関する検討が必要である.
本研究における進行膵臓がん患者に対する,EBIに基づく診断後早期からの専門的緩和ケアプログラムは,限られた人数の結果ではあるが患者の緩和ケアの満足度が高く負担が少ない結果であった.プログラム実施患者のQOLの実測値は,プログラム開始時と比較して1カ月後は数値が向上し3カ月後は低下していたが,本研究だけではクリニカルアウトカムの評価は十分ではない.プログラムの継続性や対象の拡大が今後の課題である.
本研究の実施にあたり,ご協力頂きました対象者の皆様,順天堂大学医学部附属順天堂医院の皆様に心より感謝申し上げます.とくに,濵道彩看護師,髙﨑祐介医師には,多大なる協力を頂きました.感謝申し上げます.
本論文は2022年度聖路加国際大学博士論文を一部加筆修正したものであり,第28回日本緩和医療学会学術大会において一部発表した.
すべての著者に申告すべき利益相反なし
中野は,研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.林は,研究の構想およびデザイン,解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.