Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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短報
緩和ケア病棟におけるキーパーソンという言葉の使用実態に関する横断的調査
鳥崎 哲平 森永 潤鍾 宜錚門岡 康弘
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2026 年 21 巻 2 号 p. 87-91

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Abstract

【目的】緩和ケア病棟におけるキーパーソンという言葉の使用実態と,代理意思決定との関連についての看護師の認識を明らかにする.【方法】国内25施設の緩和ケア病棟に勤務する看護師を対象にWeb調査を実施した.【結果】137件の回答を得た.99.2%が同語を使用していたが,運用ルールが「統一されていない」「分からない」との回答が約3割を占めた.依頼する役割は意思決定関連が最多で,キーパーソンは「必要な情報の把握」「患者の意向の理解」「事前意思の尊重」「最善の利益の考慮」という代理意思決定に関する要件を「常に」または「ときどき」満たしていると約9割の看護師が認識していた.【結論】本用語は運用基準が曖昧なまま頻用されている.緩和ケア従事者は多義的な言葉に依拠せず,依頼する内容ごとに最適な人物を個別に検討し,意図が明確な呼称を用いて情報共有することが望ましいと考えられる.

Translated Abstract

Objective: To clarify the actual usage of the term “key person” in palliative care units and nurses’ perceptions regarding the requirements for involvement in surrogate decision-making. Methods: A web-based questionnaire survey was conducted targeting nurses working in palliative care units at 25 domestic facilities. Results: 137 responses were received. While 99.2% reported using the term “frequently” or “sometimes,” approximately 30% reported that operational rules were “not standardized” or “unknown.” Decision-making-related matters were the most frequently assigned. Furthermore, approximately 90% of nurses perceived that the key person “always” or “sometimes” fulfilled requirements for surrogate decision-making, including “understanding necessary information,” “comprehending the patient’s wishes,” “respecting advance directives,” and “considering the patient’s best interests.” Conclusion: The term “key person” is frequently used despite its ambiguous definition and operational standards. It is desirable for palliative care providers to avoid relying on ambiguous terms, to carefully consider the most appropriate person for each specific request, and to share information using clear, unambiguous terminology.

緒言

がん患者は病状の進行に伴って自律的な意思決定や諸手続きが困難となり,家族や家族以外の支援者による代行を要する場面が頻繁に生じる 13.とくに緩和ケア病棟では,代理意思決定や死後の手続きなど心理的・経済的負担の大きい役割を家族等に依頼する場合も多いため,誰に何を依頼するのか医療者間で正確に共有することは重要である 4

臨床現場,とくに看護業務においては,患者の支援に主に関わる人物が誰かを示す「キーパーソン」という言葉が慣習的に用いられてきた 5.この言葉は医療者間での認識を揃え,連携を円滑にする意図で用いられるが,その指し示す範囲は,緊急連絡先 6,主たる介護者 7,退院支援の中心的存在 8,9など多岐にわたる.このように用語が多義的である場合には,医療者間での認識の不一致を招かないよう注意する必要がある.

また緩和ケア病棟では患者の病状悪化に伴い代理意思決定を要する場面が多いが,もしキーパーソンが担う役割に代理意思決定も含まれるとすれば,その人物が患者の意思や利益を尊重した判断が行えるかどうか慎重に確認する必要がある.したがって本研究は,緩和ケア病棟の看護師を対象に,キーパーソンという言葉の使用実態と,代理意思決定に関連する認識を明らかにすることを目的とする.本研究の結果は,終末期における適切な役割分担や意思決定支援の質を検討するうえでの基礎資料となると考えられる.

方法

対象者およびデータ収集方法

本研究は,2023年2~3月にWebベースの自記式質問票調査を実施した.対象は日本国内の緩和ケア病棟に勤務する看護師である.調査施設は,日本ホスピス緩和ケア協会が公開する「緩和ケア病棟入院料届出受理施設一覧」 10に掲載された463施設のうち,無作為に抽出した25施設である.各施設の緩和ケア病棟師長宛てに20部ずつ,計500部の回答依頼書を送付し,自施設の緩和ケア病棟看護師への配布を依頼した.Web上で回答フォームに入力する方式とし,未回答項目が生じないよう全問必答とした.

質問票の内容

キーパーソンという言葉の使用実態,代理意思決定に関与する要件,対象者属性の3点を尋ねた.

キーパーソンという言葉の使用実態では,「キーパーソンという言葉を使うことがあるか」を4段階リッカート尺度(「頻繁にある」「ときどきある」「あまりない」「全くない」)で尋ねた.また「部署内でキーパーソンの定義や運用に関するルールは統一されているか」(「明確に統一されている」「慣習的に概ね統一されている」「統一されていない」「統一されているかわからない」から単一選択),「キーパーソンに最も多く依頼する事柄は何か」(「意思決定の支援・代理意思決定」「介護・療養支援」「契約等の代行」「経済的支援」「死亡時の対応」「精神的支援」「その他」から単一選択)も尋ねた.

代理意思決定に関与する要件については,「キーパーソンは意思決定を行うために必要な情報を知らされているか」「キーパーソンは患者の意思や価値観を十分に理解しているか」「キーパーソンは事前に表明された患者の意思や価値観を尊重できるか」「キーパーソンは患者本人にとっての最善を考慮して意思決定できるか」の4項目をいずれも4段階リッカート(「常にそうである」「ときどきそうである」「あまりそうではない」「全くそうではない」)で尋ねた.これらの質問項目は,終末期における意思決定に関する議論や関連ガイドライン 11を参考に,研究者間で協議のうえ作成した.

また対象者属性として年齢,性別,看護師経験年数,緩和ケア病棟勤務年数,緩和ケアに関する認定資格の有無を尋ねた.

解析

回答結果はいずれも記述統計を算出した.

倫理的配慮

本研究は,熊本大学大学院倫理委員会の承認(承認番号2675号)を受けて実施した.「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」に準拠し,研究内容を提示したうえで,同意した者のみが回答画面に進む形式とし,回答者の自発性を保障した.

結果

有効回答数は137件で,回答率は27.4%であった.対象者属性については,回答者の年齢の中央値は44歳で,女性が94.2%であった.看護師の経験年数は中央値16年,緩和ケア病棟での勤務年数は中央値4年で,緩和ケアあるいはがん性疼痛緩和に関する認定看護師の資格を有する者の割合は8.0%であった(表1).

表1 対象者属性 n=137

項目 カテゴリ n(%)または中央値[範囲]
性別 男性 7 (5.1)
女性 129 (94.2)
年齢(歳) 44 [23–63]
看護師経験年数(年) 16 [1–43]
緩和ケア病棟勤務年数(年) 4 [1–17]
認定看護師資格 あり 11 (8.0)
なし 126 (92.0)

※四捨五入により合計が100%にならない場合がある.

使用実態に関して,「キーパーソンという言葉を使うことがあるか」に対しては「頻繁にある」が68.6%,「ときどきある」が30.7%であった.「部署内でキーパーソンの定義や運用に関するルールは統一されているか」では,「明確に統一されている」が5.1%,「慣習的に概ね統一されている」が62.0%,「統一されていない」が13.1%,「統一されているかわからない」が19.7%だった.また,「キーパーソンとされる人物に依頼することが最も多い事柄」については,「意思決定支援・代理意思決定」(50.4%),「介護・療養の支援」(13.1%),「精神的支援」(11.7%),「死亡時の対応」(10.2%)の順であった(表2).

表2 キーパーソンという言葉の使用実態 n=137

n(%)
キーパーソンという言葉を使うことがあるか
頻繫にある 94 (68.6)
ときどきある 42 (30.7)
あまりない 1 (0.7)
全くない 0 (0.0)
部署内でキーパーソンの定義や運用ルールは統一されているか
明確に統一されている 7 (5.1)
慣習的に概ね統一されている 85 (62.0)
統一されていない 18 (13.1)
統一されているかわからない 27 (19.7)
キーパーソンに最も多く依頼する事柄は何か
意思決定支援・代理意思決定 69 (50.4)
介護・療養の支援 18 (13.1)
精神的支援 16 (11.7)
死亡時の対応 14 (10.2)
契約等の代行 12 (8.8)
経済的支援 5 (3.6)
その他 3 (2.2)

※四捨五入により合計が100%にならない場合がある.

代理意思決定に関与する要件についての設問で,「常にそうである」もしくは「ときどきそうである」と回答した割合の合計は,「代理意思決定を行うために必要な情報を知らされている」が96.4%,「患者の意思や価値観を十分に理解している」では91.9%,「事前に表明された患者の意思を尊重できる」は92.7%,「患者の最善の利益を考慮して意思決定できる」は86.9%であった(図1).

図1 キーパーソンによる代理意思決定に関する看護師の認識

いずれの設問においても「全くそうではない」の回答数は0であった.

考察

本研究では,緩和ケア病棟で「キーパーソン」という用語が99%以上の看護師によって使用されている一方,その定義や運用が統一されていない,あるいは統一されているか分からないまま使用している割合が約3割に達するという実態が示された.言葉の定義や運用ルールが統一されていないか不明確な状態では,場合によっては指し示す人物や依頼する事柄に齟齬が生じ,医療者間のコミュニケーションエラーにつながる可能性がある.

キーパーソンに最も多く依頼する役割は「意思決定支援・代理意思決定」であったが,これは看護師がキーパーソンと代理意思決定者を同義だと認識していると意味するものではない.実臨床では,意思決定以外にも介護や事務手続きなど複数の事柄がキーパーソンという一語に集約されている可能性が高い.先行研究 5と比べて意思決定に関連する事柄を依頼することが多かった理由としては,緩和ケア病棟の患者は自律的な意思決定が困難になる場合が多いことや,近年のadvance care planning(ACP)の普及やガイドライン 11の整備により,家族等が意思決定に関わる重要性がより認識されるようになったことが考えられる.

また看護師の多くが,キーパーソンが代理意思決定に関与する要件を「常に」または「ときどき」満たしていると認識していたが,これはキーパーソンが当然に代理意思決定者となることを正当化するものではない.定義や運用が統一されていない場合もあるため,個人の認識が必ずしも妥当でない可能性もある.代理意思決定に関与する者は,キーパーソンであるか否かにかかわらず,患者の意思や利益を尊重できるかという観点から,個別に,かつ慎重に選定される必要がある.

これらを踏まえ,緩和ケア従事者はキーパーソンという言葉の多義性を認識し,臨床での使用について見直す必要がある.具体的には,緊急連絡先,主介護者,代理意思決定者といった役割に応じた呼称を用い,役割に適した人物が誰であるかをその都度アセスメントして選定することが,ケアの質を担保するうえで不可欠なアプローチと考えられる.

本研究の限界は,回答率が27.4%と低く,本用語を頻用している集団の見解に偏っている可能性がある.また,回答者が所属する施設の規模や特徴は把握しておらず,それらが用語の定義や運用に与える影響は検討できていない.さらに本調査では意図的にキーパーソンの定義を設けなかったが,言葉のイメージや部署内での定義・ルールの内容まで確認できていないため,想起された臨床状況(患者の病状や家族構成)の違い等が回答に影響している可能性がある.今後は,職種や施設間における用語認識の差異や,合意形成の過程を含めた検討が求められる.

結論

本研究は,緩和ケア病棟においてキーパーソンという言葉が日常的に使用されている一方で,その定義や運用方法が必ずしも統一されていないという実態を示した.緩和ケア病棟の看護師はキーパーソンに意思決定に関する事柄を依頼する割合が最も多く,キーパーソンは代理意思決定に関わる要件をしばしば満たしていると認識していたが,キーパーソンと代理意思決定者が同義とは言えない.

医療者はキーパーソンという多義的な言葉に依拠して患者の家族や関係者に関するアセスメントを簡略化せず,意思決定,介護などの目的ごとに最適な人物を個別に検討し,具体的な呼称を用いて情報を共有することが望まれる.

謝辞

国立がん研究センター東病院の川崎唯史氏に,本研究の草案作成へのご協力に感謝申し上げる.また,アンケート調査に協力いただいた皆様に深く御礼申し上げる.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

鳥崎・森永・門岡が本研究のデザインを行った.研究データ収集・分析および原稿の起草は鳥崎が担当した.鍾は原稿の構成整理および表現の精緻化に貢献した.すべての著者がデータの解釈および原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献し,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2026 日本緩和医療学会

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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