Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
終末期がん患者における繰り返すケア移行と望ましい死との関連に関する探索的研究:横断的質問紙調査
永島 彩佳 田上 恵太小田切 拓也釆野 優
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML
電子付録

2026 年 21 巻 3 号 p. 135-143

詳細
Abstract

【目的】終末期がん患者のケア移行推移,およびケア移行回数と望ましい死の達成との関連を調べた.【方法】がん患者遺族を対象に質問紙調査を行った.望ましい死の達成はGood Death Inventory(GDI)で評価した.【結果】遺族1789名から回答があり,ケア移行を経験した654名を解析した.がん治療終了後の最初の移行先は,緩和ケア病棟(palliative care units: PCU)以外の病院・病棟が55.6%,PCUが24.3%,自宅・その他が20.2%であった.最初にPCUへ移行すると82%はPCUで亡くなる等,最初の移行先が死亡場所に影響することが示唆された.移行回数が1回,2回,3回以上群でGDIの有意差は検出できなかった.【結語】がん終末期に移行を繰り返すことと望ましい死との関連は示されなかった.移行の複雑性や患者意向との一致,ケアの連続性等も考慮する必要がある.

Translated Abstract

Objective: We investigated the patterns of care transitions and the association between the number of care transitions and the achievement of a good death among terminal cancer patients. Methods: We conducted a self-administered questionnaire survey for the bereaved family members of cancer patients. The achievement of a good death was assessed using Good Death Inventory (GDI). Results: Of the 1789 bereaved family members who responded, we analyzed the 654 who had experienced care transitions. Following the completion of cancer treatment, 55.6% of patients were initially transferred to a hospital or ward other than a palliative care unit (PCU), 24.3% to a PCU, and 20.2% to their home or another care setting. Notably, 82% of patients initially transferred to a PCU died there, suggesting that the initial transfer destination may influence the place of death. No significant differences in GDI scores were observed among groups with one, two, or three or more care transitions. Conclusion: The number of care transitions in terminal cancer patients was not significantly associated with the achievement of a good death. Factors such as the complexity of transitions, concordance with patient preferences, and continuity of care should be considered to support the achievement of a good death in patients with terminal cancer who experience multiple care transitions.

緒言

本邦において,がんによる死亡患者は増加傾向にあり1,がん治療から終末期ケアまでを切れ目なく提供するための,医療機関同士の密な連携が重要視されている2.一方で,がん治療を終えたがん患者の経験に関する課題として,治療を担当した主治医からの見捨てられ感や不十分な診療情報の共有など,ケア移行の過程における患者や家族のさまざまな負担や困難感が報告されている38

その中でも,がん治療を終えた後のケアの場の選択は,患者・家族にとって大きなイベントであり,重要な意思決定の場面となる.現在本邦において終末期がん患者のケアの場として,緩和ケア病棟(palliative care units: PCU)や在宅,一般病棟など,さまざまな選択肢がある.一方,ケア移行の際,医療機関ごとの治療情報や患者,家族と医療者の関係性に一貫性がない場合,ケアへの困難や患者,家族の負担が大きくなり,ケア体験に悪影響を及ぼすというデータがある9.例として,患者の希望によりがん治療病院からの自宅退院や,自宅での日常生活動作(activities of daily living: ADL)の低下に伴うPCU入院が実現した場合に,望んだ場所で過ごせたことで死の質が上がる一方,ケア移行により主治医,担当看護師が変更となり,今までのケア方針が引き継がれなかったり,慣れない医療者や環境への適応を余儀なくされることで,死の質が下がる可能性もある.とくに頻回な移行では,情報や関係性の連続性がより保ちにくく,環境変化への不安や身体的負担も生じ,望ましい死を迎える上での障壁となりうる.米国の包括的緩和ケアプログラムにおける終末期患者(約90%ががん患者)を対象とした調査では,28%はケア移行を経験せず,40%以上が1回のケア移行を経験し,6.3%の患者は5回以上のケア移行を経験していたとの報告がある10.しかし,終末期がん患者のケア移行先や移行頻度と,望ましい死との関連は,未だ十分に明らかではない.

本研究の目的は,同患者におけるケア移行の実態を明らかにし,ケア移行回数と望ましい死との関連を探索することである.

方法

本研究は,ウェブ上の自記式調査票を用いた横断的研究であり,2023年1月から2月までの間に実施した.本研究は「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(令和3年文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示第1号)」に基づき,「京都大学大学院医学研究科・医学部および医学部附属病院 医の倫理委員会」での審査・承認を得た上で実施された(承認番号:R3811).

対象者

民間のウェブ調査会社である株式会社マクロミルに登録されているがん患者の遺族のうち,ウェブ上の自記式調査票に回答できる人を対象とし,18歳未満の患者の遺族は除外とした.

用語の定義

1. がん治療終了

化学療法など,腫瘍縮小を目的とした抗がん治療を終了すること.

2. がん治療病院

化学療法など,腫瘍縮小を目的とした抗がん治療を行った医療機関.

3. 移行

医療機関や主科が変更となること.例として,がん治療病院である大学病院から地域の総合病院にケア移行し,主治医を在宅医に変更して自宅療養を行い,PCUにケア移行して亡くなった場合,移行回数は3回となる.過去に通院していた医療機関に再度かかる場合も,新たな移動として回数に含める.放射線や陽子線など,特定の治療やセカンドオピニオンのみ別の病院で行った場合は含まない.

質問紙の調査項目

1. 患者・遺族の人口統計学的因子として,以下の項目を調査した.

患者:がん種,死亡年齢,性別,がん治療病院での診療期間,がん治療病院から移行後に亡くなるまでの期間.

遺族:年齢,性別,続柄,同居者の有無,患者の死亡から回答までの期間.

2. ケア移行に関して,次の項目を調査した.

がん治療病院から亡くなるまでの移行回数,がん治療病院の種類(大学病院,がんセンター,総合病院,その他),抗がん治療終了後の最初のケアの場(PCU以外の病院・病棟,PCU,自宅,その他),死亡場所(PCU以外の病院・病棟,PCU,自宅,その他).

3. Good Death Inventory(GDI)

GDIは,がん患者の遺族を対象に開発された評価尺度で,終末期医療の質を測るための妥当性・信頼性の確立した指標である1113.10のコアドメインから構成され,30の項目で評価され,7件法(1=全くそう思わない ~ 7=とてもそう思う)で行い,得点が高いほど「望ましい死の達成度」が高いと評価される.信頼性に関しては,コア10ドメインの内的一貫性はクロンバックのα係数で0.92である.コアドメインのうち「家族や他人の負担にならない」は逆転項目であるため,逆転後の点数を用いた.GDIの合計点は,各コアドメインの点数を合算した.すべての項目に欠損値はなかった.

解析

ケア移行があった群を,移行回数が1回,2回,3回以上の3群に分けた.3群の背景を,カテゴリー変数はχ二乗検定,連続変数は分散分析を用いて,単変量解析の比較を行った.統計的有意水準をp<0.05と定義した.

主目的である,ケア移行回数と望ましい死の達成度との関連を評価するため,移行回数ごとのGDIの各項目の点数を目的変数,患者と遺族の背景因子を説明変数として,重回帰分析を行った14.調整した説明変数は,患者の死亡年齢,がん種,性別,がん治療病院,最初の移行場所,死亡病院,同居者の有無,遺族の年齢,性別,患者との関係,患者の死亡から回答までの期間である.GDIの各項目の点数,および合計点の調整済み平均値を算出し,95%信頼区間を定めた.移行回数間の差は,共分散分析を用いて分析し,臨床的な差の大きさを分析するため,effect size(以下,ES:効果量)としてη2を算出した.η2の解釈の目安は,0.01が小さな差,0.06が中程度の差,0.14が大きな差である15

副次的目的の解析として,がん治療病院から他医療機関への最初の移行先,および死亡時の移行先の推移について記述統計を図として描出した.欠損値はなかった.統計解析はJMP 18.2.2(SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を用いて行った.

結果

ウェブ上で回答のあった遺族1789名のうち,ケア移行があった人は654名(36.6%)であった.そのうち,移行回数が1回(412名),2回(165名),3回以上(77名)であった(図1).3回以上の内訳は3回(53名),4回(8名),5回(16名)で,移行回数の分布は中央値1,四分位範囲1,最大値5である.

図1 参加者の流れ

移行回数ごとの群で背景を比較した(表1).回数を問わずケア移行を経験した654名は,患者の平均年齢は69.8歳,女性が38.2%,肺がん,上下部消化管がん,肝胆膵がんが多く,遺族の平均年齢は50.8歳であった.移行回数が多くなるに従い,患者および遺族の平均年齢が低く,治療期間が長く,移行後死亡までの期間が長く,患者死亡からアンケート回答までの期間が長かった.がんセンター・大学病院でがん治療を受けていた場合,総合病院と比較して,ケア移行の回数が2回以上の割合が高かった.また,最初の移行先が自宅・その他の場合は,移行回数が多い傾向にあり,PCUの場合は移行回数が少ない傾向にあった.

表1 移行回数別の患者・回答者の背景

患者と回答者(遺族)の特徴
移行回数
移行あり(n=654)移行1回(n=412)移行2回(n=165)移行≧3回(n=77)p値
N(%)N(%)N(%)N(%)
患者
死亡年齢(平均,標準偏差)69.8 SD. 14.571.2 SD. 13.467.6 SD. 15.267.0 SD. 17.2<.001
性別
男性404(61.8)253(61.4)102(61.8)49(63.6)0.934
女性250(38.2)159(38.6)63(38.2)28(36.4)
がん種
142(21.7)96(23.3)30(18.2)16(20.8)0.118
上部消化管120(18.4)75(18.2)28(17.0)17(22.1)
下部消化管81(12.4)57(13.8)21(12.7)3(3.9)
肝胆膵113(17.3)70(17.0)31(18.8)12(15.6)
乳腺26(4.0)13(3.2)9(5.5)4(5.2)
婦人科33(5.1)19(4.6)7(4.2)7(9.1)
泌尿器科39(6.0)17(4.1)15(9.1)7(9.1)
血液57(8.7)39(9.5)11(6.7)7(9.1)
頭頚部14(2.1)11(2.7)3(1.8)00(0)
11(1.7)4(1.0)6(3.6)1(1.3)
その他18(2.8)11(2.7)4(2.4)3(3.9)
がん治療病院での診療期間
<1カ月78(12.0)63(15.3)10(6.1)5(6.5)<.001
1カ月~6カ月211(32.3)147(35.7)49(29.7)15(19.5)
6カ月~24カ月207(31.7)118(28.6)59(35.8)30(39.0)
>24カ月158(24.1)84(20.4)47(28.5)27(35.1)
がん治療病院から移行後,死亡までの期間
<1カ月123(18.8)86(20.9)29(17.6)8(10.4)0.009
1~3カ月180(27.5)127(30.8)37(22.4)16(20.8)
3カ月~6カ月123(18.8)75(18.2)36(21.8)12(15.6)
6カ月~12カ月109(16.7)58(14.1)31(18.8)20(26.0)
12カ月~24カ月67(10.3)34(8.3)22(13.3)11(14.3)
>24カ月52(8.0)32(7.8)10(6.1)10(13.0)
がん治療病院
がんセンター・大学病院229(35.0)113(27.4)77(46.7)39(50.7)<.001
総合病院392(59.9)280(68.0)80(48.5)32(41.6)
その他33(5.1)19(4.6)8(4.8)6(7.8)
最初のケア移行先
総合病院363(55.5)223(54.1)97(58.8)43(55.8)<.001
自宅(在宅診療)111(17.0)56(13.6)30(18.2)25(32.5)
PCU159(24.3)117(28.4)34(20.6)8(10.4)
その他21(3.2)16(3.9)4(2.4)1(1.3)
死亡場所
がん治療していた診療科病棟184(28.1)112(27.2)50(30.3)22(28.6)0.383
PCU以外の一般病棟166(25.4)110(26.7)39(23.6)17(22.1)
PCU193(29.5)128(31.1)43(26.1)22(28.6)
自宅96(14.7)53(12.9)27(16.4)16(20.8)
その他15(2.3)9(2.2)6(3.6)0(0)
回答者(遺族)
年齢(歳,標準偏差)50.8 SD. 14.052.9 SD. 0.6847.4 SD. 1.0746.6 SD. 1.56<.001
性別
男性376(57)242(58.7)93(56.4)41(53.3)0.633
女性278(43)170(41.3)72(43.6)36(46.8)
患者との関係
配偶者25(3.8)21(5.1)3(1.8)8(10.4)0.006
310(47.4)206(50.0)74(44.8)31(40.3)
99(15.1)61(14.8)24(14.6)5(6.5)
その他220(33.6)124(30.1)64(38.8)33(42.8)
同居者
なし138(21.1)84(20.4)34(20.6)20(26.0)0.536
あり516(78.9)328(79.6)131(79.4)57(74.0)
患者の死亡から回答までの期間
<1年80(12.2)37(9.0)32(19.3)11(14.3)<.001
1年~4年129(19.7)70(17.0)40(24.2)19(24.7)
>4年445(68.0)305(74.0)93(56.4)47(61.0)

群間の差はχ二乗検定および分散分析を用いて検定した.

移行先の推移では,最初の移行先はPCU以外の病院・病棟が55.5%(363/654),PCUが24.3%(159/654),自宅・その他が20.2%(132/654)であった.最初にPCU以外の病院・病棟へ移行した場合,PCU以外の病院・病棟で死亡した割合は,がんセンター・大学病院で73.5%(97/132),総合病院で81.3%(179/220)であり,PCUで死亡した割合は,がんセンター・大学病院で15.9%(21/132),総合病院で11.8%(26/220)であった.これに対し,最初でPCUへ移行した場合,PCUで死亡した割合は,がんセンター・大学病院で82.0%(41/50),総合病院で82.0%(82/100)であった.最初の移行先が自宅・その他の場合,自宅・その他で死亡した割合はがんセンター・大学病院で44.7%(21/47),総合病院で59.7%(43/72)であった(図2).

図2 移行先の推移

移行後の最初のケアの場,死亡場所において,自宅とその他を合わせて「自宅・その他」,がん治療病院と治療科病棟,PCU以外の病院と一般病棟を合わせて「PCU以外の病院・病棟」と示している. PCU: palliative care units

GDIの各項目の点数の調整平均値は,すべての項目において,移行回数による有意差は検出できず,ESは小さかった.「身の回りのことは自分でできた」の調整平均値が,移行1回の群で4.44(95%信頼区間,4.23~4.65),移行3回の群で3.99(3.62~4.36)と,有意ではなかったが移行1回の群で高かった.GDIの合計点についても,移行回数による有意差は検出できなかった(図3)(付録1).

図3 移行回数別のGDIの調整平均値

移行回数別の3群における,GDIの各項目の点数の調整平均値の折れ線グラフ.プロットおよびエラーバーは,調整平均値および95%信頼区間.得点の範囲は1~7で,得点が高いほど死の質が高いと認識されている.すべてのGDI項目で,移行回数による有意差は検出されなかった(P>0.0167).  GDI: Good Death Inventory

考察

本研究は,終末期がん患者の繰り返す移行と望ましい死との関連,および実際の移行推移の実態を明らかにした,国内では初めての研究である.臨床上は,移行を繰り返すことでケアの連続性が保たれにくくなり,患者の負担は増加し,quality of life(QOL)は下がる懸念があるが,本研究の結果では,移行回数別のGDIに有意差を検出できず,ESは小さかった.調整平均値の95%信頼区間が広く,とくに移行3回群のサンプル数が限られていたことや,複数の共変量を同時に調整した影響で,推定の不確実性が高まったと考えられる.一方で,臨床的に意味のある差が含まれており,移行回数による有意差は完全には否定できないと考える.唯一,「身の回りのことは自分でできた」の項目が,移行の少ない群でより高い点数となったが,がん患者は急な病態悪化や介護力不足によって,療養場所を変更しうるため,日常生活におけるセルフケア能力が低下することで,移行を余儀なくされることを示唆している16.頻回の移行によって患者のQOLが下がらなった背景要因として,本研究では移行しなかった患者の割合が多く(図1),移行を受け入れた患者のGDIのみを調査している点が挙げられる.見捨てられ感が強い患者は移行を経験せず,一方で移行を受け入れた患者は,頻回の移行に抵抗感を抱きにくく,QOLへの影響も限定的であった可能性がある.また,特定の側面において改善の余地はあるが,一般病棟・PCU・在宅のいずれにおいても,満足のいくケアを提供できているとの報告もあり17,いずれの場所でも一定水準の療養が可能であることが示唆される.一方で,移行が頻回となる場合,ケアの連続性が損なわれたり,不適切な急性期医療につながったりするリスクが指摘されており18,移行前後の医療機関での連携は不可欠であると考える.加えて,PCUの病床数や在宅緩和ケア診療所,24時間対応の訪問看護ステーションの整備状況には地域差が存在し,各地域の医療資源を踏まえた支援体制の構築が重要である19.本研究のGDI平均値は多くの項目で3点台であり,先行研究の4~5点と比較し低値であった.各コアドメインの7件法各項目の回答割合をみると,3~4点の回答が50%前後であり「あまりそうは思わない」「どちらともいえない」の回答に集中していた(付録2).要因として,先行研究と比較して患者死後の期間が長く,リコールバイアスが生じやすかった可能性や,最期の1週間に付き添った日数や主介護者であったかなど,回答者の妥当性を評価する項目を測定していなかったことが挙げられる.

また本研究では,最初の移行先と死亡場所を調査しており,最初にPCU以外の病院・病棟に移行した患者は,78.4%(276/352)がPCU以外の病院・病棟で死亡し,最初にPCUに移行した患者は,82%(123/150)がPCUで死亡し,最初に自宅に移行した患者は,53%(64/119)が自宅で死亡した.さらに,がん治療終了後の最初の療養移行先の場所や,がん治療を担ってきた医療機関の特性により,死亡場所や移行回数に差が生じた可能性を示唆した.一つ目として,最初にPCU以外の病院・病棟へ移行した場合,大半がPCU以外の病院・病棟で死亡していた.がん患者において,病状や緩和ケアに関する認識が一致した患者は半数未満で,多くは医師よりも楽観的な理解を示していた,という報告がある20.PCUや在宅療養を介さない場合,患者・家族が緩和ケアを十分意識する機会がなく,PCU以外で最期を迎えていた可能性がある.また,その中でも少数ではあるが,がんセンター・大学病院でがん治療を受けていた場合には,PCUで死亡する割合がやや高い傾向にあった.がん診療連携拠点病院では,厚生労働省の指定要件により,緩和ケアチームの配置が義務づけられており,在院中から療養移行を見据えた早期介入がされやすい.さらに,緩和ケアチームの介入によって,ホスピス,自宅療養,ナーシング施設への移行が増加するという報告もあり21,こうした体制の違いが,移行に影響を及ぼしている可能性がある.二つ目として,最初にPCUへ移行した患者は,約80%がPCUで死亡していた.PCUに移行する患者は,症状緩和が難しい,介護力が乏しい,当初からPCUでの療養を希望していることが多い.さらに在宅療養患者は,予想よりも早い病状変化や,十分な苦痛緩和が得られないことで,再入院をしやすいことが報告されている22.これらの要因から,最終的にPCUでの看取りになりやすいと考えられる.三つ目として,がんセンター・大学病院では総合病院と比較して,移行回数が2回以上となる割合が高かった.また,最初の移行先が自宅・その他で,最終的に自宅・その他で死亡した割合が,治療病院ががんセンター・大学病院の場合は44.7%,総合病院の場合は59.7%と差がみられた.前者は患者の平均年齢が66.7歳,15~64歳の割合が41.5%であるのに対し,後者は平均年齢が71.8歳,15~64歳の割合が26.5%であり,AYA(adolescent and young adult)世代を始めとして比較的若いがん患者が,都道府県がん診療連携拠点病院に集中していることが要因として考えられる23.若いがん患者は,移行後死亡までの期間が相対的に長く,その間に移行回数が増える可能性がある.また,AYA世代がん患者では,死亡前30日での入院やICU利用が,高齢者よりも多い傾向が報告されている24.加えて,制度的な制約や在宅支援体制の不足から,病院で死亡している可能性がある25

本研究にはいくつかの限界がある.一つ目は,在院日数の制限,介護負担による在宅療養の継続困難など,患者希望に沿わない移行に関与しうる因子を,調整変数に含められなかった点である.また,医療資源の地域差や,療養場所ごとのケアの質,患者自身の個別性も大きいため,本調査だけでは測りきれない因子もありうる16,19,2628.今後,移行を繰り返した患者遺族へのインタビュー調査を行い,GDIに関与しうる因子を明らかにすることで,より妥当性の高いGDIを示せるかもしれない.二つ目は,本研究の対象者は,民間業者を介して登録した遺族であり,わが国の一般的な対象者と比較して偏りがあった点である.がん死亡患者の背景については,がん死亡数予測のデータと比較し,性別,がん種に大きな違いはなかった29.一方で,回答者である遺族の続柄は,他の遺族調査では配偶者が最多,次いで子が多かったが,本研究では親が最多,次いで子が多かった30.記述統計では患者よりも遺族のほうが若かったため,遺族にとっての患者との関係を回答していた可能性がある.また,がん患者遺族を「がんで家族を亡くした者」として調査したため,遺族の続柄,終末期における付き添い日数,死別後の経過期間などの条件設定は行っていない.このため,回答者が当時の状況を十分に把握しておらず,結果の評価にバイアスを生じた可能性がある.実際に,本研究では約6割が患者死亡時から回答まで4年以上経過していたことから,想起バイアスがあった可能性がある.三つ目は,遺族視点での評価のため,患者本人の評価とは異なる可能性がある点である31.四つ目は,移行推移は最初の移行先と,亡くなった場所について調査しており,その間の移行推移については調査できなかった点である.患者の希望に沿った予定退院や,PCUの在院日数制限による移動,自宅での対応困難による救急搬送など,質的に異なる移行パターンを含んでいた可能性がある.特定の移行推移,ケア移行先,死亡場所が,GDIに関連していたことも考慮される.

結論

本研究では,がん終末期にケア移行を繰り返すことと,望ましい死の達成との関連は示されなかった.今回の調査では,最初の移行後の詳細な経路や,患者の移行への希望までは調べられず,複雑な移行推移,患者の希望に沿わない移行などが,ケアの不連続性や患者の負担を増大させ,望ましい死を阻害していた可能性がある.一方で,療養の場を決める際,患者と家族の意向を引き出し,提供されるケアの特性を踏まえた意思決定支援を行い,移行前後で切れ目のないケアが提供されるのであれば,移行を繰り返すことは患者に不利益とはならない可能性もある.今回調査できなかった要因を含めた,繰り返す移行による望ましい死への影響について,今後のさらなる研究が望まれる.

謝辞

本研究の実施にあたり,調査の設計およびデータ収集にご協力いただいたマクロミル株式会社に,深く感謝いたします.また,調査にご参加いただいたすべての回答者の皆様には,貴重なお時間を割いてご回答いただき,本研究に多大な貢献を賜りましたことを,心より御礼申し上げます.

研究資金

本研究は,令和2~4年度 厚生労働科学研究費補助金(疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究事業)「現場や地域の実情に即したがん治療と並行する緩和ケアの実装の推進に関する研究」(研究課題番号:20EA1009)の助成を受けて実施した.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

永島は,研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.田上,小田切,釆野は,研究の構想およびデザイン,研究データの収集および分析,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

文献
 
© 2026 日本緩和医療学会

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