Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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原著
がんサロンで活動をするピアサポーターが抱く困難と支援の要望
瀧澤 理穂 牧野 智恵
著者情報
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2026 年 21 巻 3 号 p. 171-179

詳細
Abstract

本研究の目的は,がんサロンで活動するピアサポーターが抱く困難と支援の要望を明らかにすることである.ピアサポーター27名を対象に半構造化面接を行い,質的記述的研究の手法で分析した.その結果,困難は「専門的知識を要する医学・経済的相談への対応」,「多様な背景や病状の参加者への関わりにおける葛藤」,「死別や辛い語りに伴う情緒的負担のコントロール」等の6カテゴリー,支援の要望は「他機関や医療者との連携・協力体制の構築」や「リフレクションの機会」等の3カテゴリーが抽出された.病院内外で活動するサポーターは,専門知識の不足や情緒面での負担を抱える傾向にある.そのため,個人のセルフケアに依拠せず,研修やリフレクションを組織的に保障する支援の構築が求められる.サポーターが活動を継続していくためには,地域の関係機関が連携した支援体制の構築が重要であると示唆された.

Translated Abstract

This study aimed to identify the challenges experienced by peer supporters in cancer support groups and to clarify their support needs. Semi-structured interviews were conducted with 27 peer supporters, and the data were analyzed using a qualitative descriptive approach. The analysis identified six categories of challenges. These included handling medical and financial consultations requiring specialized knowledge, managing conflicts in interactions with participants who have diverse backgrounds and medical conditions, and managing emotional burdens associated with bereavement and exposure to distressing narratives. Regarding support needs, three categories emerged, including the establishment of collaborative systems with other institutions and healthcare professionals and the provision of opportunities for reflection. Peer supporters working both within and outside hospitals tend to face limitations in specialized knowledge and significant emotional strain. The results indicate that support should not rely solely on individual self-care efforts; instead, it is essential to establish organizational systems that ensure opportunities for training and reflection. Ultimately, these findings suggest that building a community-based collaborative support system is crucial for the sustainability of peer support activities.

緒言

がんは日本の死因の第1位であり 1,がん対策の充実を図るため,「がん対策基本法」が施行された 2.2008年には「がん診療連携拠点病院の整備に関する指針」に伴い,がんサロンの開設が始まった.がんサロンは患者同士が気兼ねなく参加でき,参加者のそれぞれのがん経験を共有できることで,今後の生活への活力になっていくという利点がある 3.第4期がん対策推進基本計画 4では,がんとの共生に関する取り組むべき施策として,多様化・複雑化する相談支援のニーズに対応できる質の高い相談支援体制の整備や拠点病院等とピアサポーター等の連携の必要性が明記され,がんサロンでのピアサポーターの活躍が期待されている.

がんサロンの開催形態はさまざまであるが 5,がん患者等の相談支援に従事するスタッフのうち,1団体あたりの平均人数はピアサポーターが9.6人と多く 6,このようにピアサポーターはわが国のがん患者支援の現場において実質的な中核を担っている.

ピアサポーターの有用性は,がん体験者の視点から参加者の話が聞けることや,同じ体験をした者同士の対話によって孤独感が解消され情緒的サポートが得られることなどが国内外で報告されている 710.海外の系統的レビューでは,がんピアサポート活動において,参加者の苦痛に直面することによる情緒的負担や,グループ運営上の課題等が報告されており 11.サポーターの負担を軽減するためトレーニングや,専門職による継続的な支援が求められている 12.日本においても,ピアサポーターは,体験を通して自分自身への癒しやがんで悩む人の力になりたいと感じながらも,自己嫌悪に陥ったり,利用者の深刻な話に戸惑うといった困難感も抱いていることが報告されており 13,仲間同士の支え合いや体系的な学習の機会の必要性が示されている 14.既にピアサポーター養成研修プログラムやフォローアップ研修等の研修は行われているが 1517,がんサロンという独自の運営形態において,ボランティアとして活動の中核を担うサポーターが,具体的にどのような困難を抱き,どのような支援を求めているか,また既存の研修制度が現場で直面する生じる困難に対してどの程度機能しているかは十分に明らかにされていない.

そのため本研究の目的は,がんサロンで活動するピアサポーターが抱く困難と,それに対する彼らの支援の要望を明らかにすることである.研究の意義として,ピアサポーターによる実際の語りから活動上の困難や支援の要望を把握することで,活動の継続性を高め,ピアサポートの質の向上に寄与することが期待される.

方法

研究デザイン

質的記述的方法

研究対象者

全国がん患者団体連合会の登録団体およびがん相談支援センター設置施設より488のがんサロンをリストアップした.実態調査の精度を高めるため,公式HPから活動内容の詳細が確認できること,休止中や連絡先不明の団体を除外した170の施設の代表者に研究依頼文を郵送した.代表者を通じて面接への協力が得られた候補者の連絡先を把握し,改めて研究者が直接説明を行い,最終的に面接の同意が得られた31名のうち,選定基準を満たした27名を最終的な研究対象者とした.

対象者の選定基準は,がん罹患体験を持ち,がんサロン等で継続的に相談支援活動に従事している者とした.一方,ピアサポーターとしての役割と医療従事者としての役割が混在し,専門的視点が分析に影響を及ぼす可能性がある者,および対象者や活動内容の特殊性が高い小児がん専門サロンの運営者については,分析の均質性を保つために対象から除外した.

データ収集方法

対象者の基本属性は自記式アンケートによって確認した.その後,1対1による半構造化面接を実施した.すべての面接は,質的研究に精通し,面談経験豊富ながん看護学の研究者1名が実施し,面談の導入から終了まで一貫した対応を行った.先行研究やがんサロン運営の現状 13,1824を踏まえたインタビューガイドに沿って,対象者のこれまでのピアサポーターとしての活動を取得後,がんサロンの活動において対応に苦慮したことおよび,活動を継続させるために必要と感じている支援の有無やその内容について,真意を捉えられるよう丁寧に面接を行った.面接時間は,がん体験者である対象者の身体的・精神的負担を考慮し,1回につき60分以内とした.面接は対面またはオンラインで行った.面接内容は研究対象者の許可を得て,ICレコーダーに録音し,逐語録を作成した.

データ分析方法

本研究の分析は,27名のデータを特定の主観に偏らず記述するため,内容分析の客観性を重視するベレルソン 25の手法を参考に以下の手順で行った.

まず筆者が全逐語録を繰り返し読み込み,全体像を把握した.そのうえで,各逐語録から,がんサロン活動における困難と要望について語られた範囲を文脈単位として特定した.次に,その文脈の中で研究目的に合致する最小単位を記録単位として意味ごとに抽出した.それらを文脈を損なわない範囲で内容を要約し,コードを作成した.さらに,内容の類似性によって分類しサブカテゴリーとした.最後にサブカテゴリーの意味内容の類似性に基づき,その本質を抽象化したものをカテゴリーとした.妥当性および信頼性の確保のため,共同研究者とのピア・デブリーフィングを繰り返し,研究者間での合意が得られるまで継続的な議論を行った.また,分析の全過程を記録する監査証跡により厳密性を確保した.

本研究では,20名分のデータ分析により主要なカテゴリーが抽出された後,27名まで順次分析をした結果,既存カテゴリーの補強のみで新たな概念が得られなかったことから,データの飽和に達したと判断した.

用語の定義

1)がんサロンとは,がん患者やその家族などが集まり,交流や情報交換をする場とする.また,医療者による支援そのものの要素は弱く,がん患者やその家族がボランティアとして活動している場と定義する 13,26,27

2)本研究における困難とは,ピアサポーターが参加者への関わりやサロンの場づくりといった役割を果たすうえで抱く対人支援等における心理的な葛藤,および活動の継続を妨げる環境・組織的障壁とする.

倫理的配慮

対象者には研究の趣旨,自由意志による参加,プライバシー保護等について口頭および書面にて説明し,すべての対象者から署名による文書での同意を得た.面接の実施にあたっては,面接開始前に「いつでも無条件で中断・中止が可能であること」,「回答したくない質問には答えなくてよいこと」,「体調に応じて休憩が可能であること」を口頭および書面にて再確認した.さらに,面接中は対象者の表情や言動を慎重に観察し,精神的負担の兆候がみられた場合には適宜休憩を促す体制を整えた.なお本研究は,石川県立看護大学倫理審査委員会の承認(看大第3945)を得たうえで実施した.

結果

研究対象者の概要

研究対象者は男性4名,女性23名であった(表1).全員が,都道府県等が実施するピアサポーター養成研修とフォローアップ研修を受講していた.対象者が活動するがんサロンの運営規模は,1回あたりの参加者が5名程度から30名を超えるものまで幅がみられた.活動頻度は,週2~3回から月1回程度と対象者の生活状況や体調に応じて多様であった.面接時間は平均55分(35分から60分)であった.

表1 対象者一覧

ID 年齢 性別 活動年数 主な活動の場 地域 対象
A 60代 女性 4年 病院外 石川県 全がん
B 60代 女性 9年 病院外 石川県 全がん
C 70代 男性 6年 病院内 石川県 全がん
D 60代 女性 6年 病院内 石川県 全がん
E 70代 男性 16年 病院外 石川県 主に直腸がん
F 60代 男性 6年 病院内 石川県 全がん
G 50代 女性 4年 病院内 石川県 全がん
H 50代 女性 8年 病院内 山梨県 全がん
I 50代 女性 8年 病院内 静岡県 主に乳がん
J 60代 女性 12年 病院内 神奈川県 全がん
K 60代 女性 7年 病院内 三重県 主に婦人科がん
L 40代 女性 1年 病院内 和歌山県 全がん
M 50代 女性 5年 病院内 千葉県 全がん
N 40代 女性 1年 病院内 長野県 全がん
O 30代 男性 10年 病院外 長野県 全がん
P 50代 女性 10年 病院内 千葉県 全がん
Q 40代 女性 6年 病院内 千葉県 全がん
R 60代 女性 7年 病院外 京都府 乳がん
S 50代 女性 6年 病院外 山梨県 全がん
T 50代 女性 9年 病院外 山梨県 全がん
U 50代 女性 2年 病院内 三重県 主に婦人科がん
V 50代 女性 2年 病院内 千葉県 全がん
W 60代 女性 10年 病院内 滋賀県 全がん
X 60代 女性 5年 病院外 奈良県 全がん
Y 70代 女性 30年 病院内 千葉県 全がん
Z 60代 女性 9年 病院内 神奈川県 全がん
AA 60代 女性 9年 病院外 奈良県 全がん

※活動年数には治療等による活動休止期間も含む

ピアサポーターが抱えている困難の内容

がんサロンで活動をしているピアサポーターが抱えている困難の内容として,97の意味単位の語りが抽出された.分析の結果,43のコード,20のサブカテゴリー,6のカテゴリーが抽出された(表2).

表2 がんサロンで活動するピアサポーターが抱える困難

カテゴリー サブカテゴリー コード
専門的知識を要する医学・経済的相談への対応 最新の医学情報への対応困難 参加者が持っている最新の情報に追いつけずもどかしい
話の内容を理解するために知識不足を感じ申し訳ない
医学的・経済的助言を求められることへの対応困難 専門職ではない立場から助言することに戸惑う
検査データを示されてもどうしたらよいかわからない
お金や仕事の悩みに対して何もできない無力感
多様な背景や病状の参加者への関わりにおける葛藤 自分のがんの体験と異なる参加者への共感の難しさ がんの種類や性別が違うことで体験を共有しきれない
自分が経験していない過酷な状況を分かち合うことが難しい
予後不良者や末期の参加者を配慮した言葉かけの難しさ 再発や治療の中止を告げられた人にかける言葉が見つからない
深刻な病状にある相手に対して踏み込めない
自身の振る舞いが相手に与える影響への不確かさ 自身の対応の是非や影響に対する不安 自分の言動が相手の役に立ったか確信が持てない
ピアとしての話し方や聞き方が適切であったか自問自答する
自身の病歴が相手に与える心理的影響への懸念 手術直後の相手に対し,自分の病歴を話すことで再発への不安を助長してしまうのではないかと迷う
再発を明かすことで,相手に自分の予後まで心配させてしまうのではないかと悩む
死別や辛い語りに伴う情緒的負担のコントロール 死に直面した切実な訴えや沈黙に寄り添うことの心理的な重苦しさ 死に直面したデリケートな相談を受ける精神的な重荷
死に対するつらい思いを抱える相手の沈黙に向き合うことが苦しい
深く関わった者との死別体験による喪失感 サポーター仲間の死を目の当たりにすることが辛い
長く関わった参加者との度重なる別れによるやり場のない喪失感
共感,傾聴に伴う情緒的消耗 参加者家族のつらさに深く共感してしまうことによる疲れ
AYA世代の過酷な経験を聴くことで心が揺れ動く
サロン後も内在する心的負担 サロンが終わっても参加者のことを考え続けてしまう
活動での重い気持ちをプライベートに持ち込まないようにする難しさ
サロン開催における安心・安全性の管理の難しさ 代替療法など勧誘行動制止に伴う対応の負担 ルールに反して特定の療法を推奨し,他の参加者の不安を煽る発言への対応に困り果てる
他の参加者への配慮に欠ける人への対応困難 配慮に欠ける発言から参加者を守れず,サロンを退かせてしまったことへの心残り
安易な励ましや助言で相手の言葉を遮ってしまう者への対応の難しさ
参加者とサポーターとしての役割の境界線を守ることの難しさ サロン外での個人的な連絡先交換を求められることへの戸惑い
私生活を追及されるなどのプライバシー維持の難しさ
SNS等を通じた昼夜を問わない即時対応に伴う負担 昼夜を問わない頻繁な連絡によって自分の時間が削られる
切迫したメッセージに対して,即座に対応しなければならない
全員に平等な発言の機会を確保する場づくりの難しさ 話が止まらない参加者の思いを受け止めにつつ,話を区切る難しさ
特定の参加者に時間を独占させてしまい,全員に話す機会を確保できないファシリテーション技術の未熟さ
中立の立場を維持することの難しさ 相手を否定せず,かつ場を守るために立ち回る苦労
中立でいようとすることで表面的な関わりになることへのジレンマ
様々な背景・価値観を持つ参加者への対応の難しさ 初発の参加者が再発の参加者の話を聞くことで生じる不安に気を遣う
世代の違いによる価値観のズレを調整することの難しさ
多様な治療内容の中で共通の話題を見つける難しさ
活動継続のための運営の維持の困難 交代制における参加者への継続的支援の限界 交代制のため,気になる参加者のその後を見守れないもどかしさ
核となるメンバーの参加が交代制で流動的になり,一貫して関われない歯がゆさ
サポーターの体調や高齢化に伴う活動の継続の困難 自身が治療を行いながら運営することの不安定さ
体調不良による欠員が出た時のやりくりの大変さ
運営メンバーの高齢化による将来への引き継ぎの不安
若い世代が仕事や生活の中で活動を続けていくことの厳しさ
活動を維持する上での資金の確保 サロンを続けていくために必要なお金を確保する苦労
組織を大きくしようとするほど運営費に追われる負担感

1. 専門的知識を要する医学・経済的相談への対応

このカテゴリーは,サポーターが最新の医学的知見や治験,経済的支援制度に関する専門的知識の不足に起因する内容である.サブカテゴリーは,〈最新の医学情報への対応困難〉,〈医学的・経済的助言を求められることへの対応困難〉であった.〈最新の医学情報への対応困難〉の語りとしては,「最近では治験とか代替療法とかの話をどうしても情報を得たいと思われる参加者の方が多かったので,知識をある程度,持っていないとお話が進んでいかないし,それを求められているんだろうなと思って,難しかったですね.(AA氏)」等であった.

2. 多様な背景や病状の参加者への関わりにおける葛藤

このカテゴリーは,自身の体験を基盤とするピアサポートにおいて,未経験の状況(再発や治療中止など)にある相手の心情を推察することに限界を感じ,参加者との心理的距離感や予後の悪い方への声掛けに躊躇している内容である.サブカテゴリーは,〈自分のがんの体験と異なる参加者への共感の難しさ〉,〈予後不良者や末期の参加者を配慮した言葉かけの難しさ〉であった.〈予後不良者や末期の参加者を配慮した言葉かけの難しさ〉の語りとしては,「(病状が)深刻な方ですかね.病状があんまりよくない,予後がよくない.それはもう全然介入できないので,つらいですよねくらいしかいえないですよね.(B氏)」等であった.

3. 自身の振る舞いが相手に与える影響への不確かさ

このカテゴリーは,自身の言動が参加者に及ぼす影響を危惧する内容である.サブカテゴリーは〈自身の対応の是非や影響に対する不安〉,〈自身の病歴が相手に与える心理的影響への懸念〉であった.〈自身の対応の是非や影響に対する不安〉の語りとしては,「これでいいのかなとか,あんなこと言わんとけばよかったとか,言い過ぎたかなとか.沢山話をして帰って頂くのですが,果たして満足して帰って頂けたかなとか.(T氏)」等があった.

4. 死別や辛い語りに伴う情緒的負担のコントロール

このカテゴリーは,死別による喪失感を体験した参加者の語りに触れることに起因する消耗感に関する困難である.サブカテゴリーは〈死に直面した切実な訴えや沈黙に寄り添うことの心理的な重苦しさ〉,〈深く関わった者との死別体験による喪失感〉等であった.〈深く関わった者との死別体験による喪失感〉の語りとしては,「去年はとくに沢山そういう送る(死別)という経験を私もしまして,それはやはり本当につらいことですよね.そういうことをどうやって乗り越えたらいいんだろうかと.(R氏)」等があった.

5. サロン開催における安心・安全性の管理の難しさ

このカテゴリーは,サロンを安心・安全に実施するための約束事を守られない参加者への対応に関する困難である.サブカテゴリーは.〈代替療法など勧誘行動制止に伴う対応の負担〉,〈参加者とサポーターとしての役割の境界線を守ることの難しさ〉,〈SNS等を通じた昼夜を問わない即時対応に伴う負担〉等があった.〈代替療法など勧誘行動制止に伴う対応の負担〉の語りとしては,「抗がん剤はこういう文献があって毒だっていう方が2人いました.(J氏)」等があった.

6. 活動継続のための運営の維持の困難

このカテゴリーは,がんサロンを継続するために,ピアサポーターの健康・年齢・運営資金等の課題に関する内容である.サブカテゴリーは〈交代制における参加者への継続的支援の限界〉,〈サポーターの体調や高齢化に伴う活動の継続の困難〉,〈活動を維持する上での資金の確保〉であった.〈サポーターの体調や高齢化に伴う活動の継続の困難〉の語りとしては,「運営側が,今週あるけど誰々は調子悪いし,誰々は今抗がん剤をしているし,誰が行けるかみたいになりますよね.(K氏)」等があった.

ピアサポーターが抱く支援の要望の内容

がんサロンで活動をしているピアサポーターが求める支援の要望として,38の意味単位の語りが抽出された.分析の結果,13のコード,6のサブカテゴリー,3のカテゴリーが抽出された(表3).なお,この内容については,面接内で要望があった20名の語りを対象に分析した.

表3 がんサロンで活動するピアサポータが求める支援の要望

カテゴリー サブカテゴリー コード
他機関や医療者との連携・協力体制の構築 多様な関係機関との情報共有を可能にするシステム 病院・行政・サロンの垣根を越え,地域の多様な支援情報を一元化するネットワークが欲しい
参加者のニーズに応じて,自サロン以外の外部リソースを入手し,提供できる活用体制があると良い
医療者との連携・協力体制の強化 患者理解のために医療職にもがんサロンに参加して欲しい
(院外サロンにおいて)病院の相談支援部門との協力体制を構築したい
医療者に専門的な内容を適宜相談できる窓口が欲しい
がんサロン活動に必要な医学知識やコミュニケーション技術のブラッシュアップの機会 医学知識を習得する機会 最新のがん医療や治療に関する継続的な学習機会が欲しい
外部の研修会等への参加を後押しする費用の助成して欲しい
サポーターとしての対人援助技術の向上の機会 サポーターに必要な対人援助の知識や技術を学べる制度があると良い
熟練サポーターの知恵や具体的な工夫を学びたい
困難事例への対応を検討し解決策を共有する検討会を実施して欲しい
リフレクションの機会 サポーター同士が悩みを共有する場 活動に伴う葛藤や悩みを仲間と共有しリフレクションする機会が欲しい
サポーターへのリフレッシュと組織的サポート サポーターとしての役割から離れ心身をリフレッシュできる時間があると良い
自身のメンタルヘルスを組織的に支えて欲しい

1. 他機関や医療者との連携・協力体制の構築

このカテゴリーは,病院や団体の垣根を超えた情報共有システムを整備し,包括的な支援ネットワークを構築することへの要望である.サブカテゴリーは〈多様な関係機関との情報共有を可能にするシステム〉,〈医療者との連携・協力体制の強化〉の要望であった.〈多様な関係機関との情報共有を可能にするシステム〉の語りとしては,「病院ごとやがんサロンごと,患者会ごとで情報が遮断されてしまうんですよね.情報を全部共有できれば,もっと患者さんに必要なことが届くと思うのですが,もう少し情報伝達システムがあると嬉しいなと思うんです.(N氏)」等があった.

2. がんサロン活動に必要な医学知識やコミュニケーション技術のブラッシュアップの機会

このカテゴリーは,対人援助の質を担保するための実践的な技術習得と知見の共有など教育的なフォローアップ体制の充実を求める内容である.サブカテゴリーは〈医学知識を習得する機会〉,〈サポーターとしての対人援助技術の向上の機会〉の要望であった.〈サポーターとしての対人援助技術の向上の機会〉の語りとしては,「各地の成功事例を集めるとか,体験談を語るとか.(V氏)」等があった.

3. リフレクションの機会

このカテゴリーは,参加者の悩みを聞くことで生じるピアサポーターの心理的負担感を癒やす機会を求める内容である.サブカテゴリーは〈サポーター同士が悩みを共有する場〉,〈サポーターへのリフレッシュと組織的サポート〉の要望であった.〈サポーターへのリフレッシュと組織的サポート〉の語りとしては,「自然の中でゆったりとか,いいですね.(Y氏)」,「自分を解放できる機会,今は求めてます.(B氏)」等があった.

考察

がんサロンのピアサポーターが抱える困難と支援の在り方

本研究の結果,ピアサポーターは「専門的知識を要する医学・経済的相談への対応」に関する困難を抱いていることが明らかとなった.具体的には,参加者から寄せられる最新の治療法や副作用といった医学的な悩み,あるいは経済的な相談に対し,助けてあげたいが限界があるという葛藤に直面していた.先行研究において,ピアサポーターの役割はがん体験者として参加者に寄り添うことであり,医療情報の提供や心理ケアは必須の役割ではないとされている 18,28.しかし,実際のがんサロンの現場では,参加者から症状や診断,治療,さらには医療費などの経済面に関する多岐にわたる相談が寄せられる傾向にあり 6,サポーターが本来の役割と現場の切実なニーズとの乖離に苦慮している実態がうかがえた.

とくに,近年のがんサロンは医療施設内だけでなく地域へと開設の場が広がっており 29,活動の場に医療関係者が不在であるケースも少なくない.そのため,ピアサポーターが最新の医療知識を得る機会を求めるのは,参加者の不安に真摯に向き合おうとする思いの現れといえる.このように,役割の限界を超えた相談への対応に苦慮する現場の実態は,サポーターが適切な判断を仰げるよう「他機関や医療者との連携・協力体制の構築」の支援を求めていることと関係しているものと推察される.今後,がん診療連携拠点病院や都道府県が中心となり,サポーターとの連携体制を整備することは,活動継続を支える実効的な支援策となりうる.

また,ピアサポーターは「多様な背景や病状の参加者への関わりにおける葛藤」や,「自身の振る舞いが相手に与える影響への不確かさ」という困難を抱えていた.これは,再発や治療中止といった深刻な状況にある他者への共感に限界を感じ,自身の病歴の開示が相手に与える心理的影響を懸念する実態を反映している.さらに,参加者が平等に心地よく話をするためのルールを守るファシリテーターの役割として,「サロン開催における安心・安全性の管理の難しさ」に直面していた.がんサロンでは,守秘義務の遵守や勧誘行動の禁止など,一般的な対応策についても情報が提供されているが 18,サポーターは同じがん患者としての立場ゆえに,参加者への注意喚起の難しさや戸惑いを抱えていた.

本研究の対象者は全員が養成研修を修了していたが,それでもなお「がんサロン活動に必要な医学知識やコミュニケーション技術のブラッシュアップの機会の提供」を求めていた.これは,既存の研修が基礎知識の習得に留まり,活動継続に伴い直面する個別性の高い事例や,深刻な心理的葛藤への対応までは十分にカバーしきれていない現状を反映している.したがって,実践現場で生じる困難を解決するためのがんサロンのニーズに即した勉強会や事例検討会を企画・実施することが必要であると考えられる.

また精神面においては,「死別や辛い語りに伴う情緒的負担のコントロール」という課題に直面していた.参加者の話を傾聴し,深い関わりを持った参加者の死に触れることは,サポーター自身の精神的健康を脅かす要因となりうる.参加者の死への対応策は報告されているが 18,サポーター自身も死を受け入れることに困難を抱いている様子がうかがえた.情緒的消耗は専門職にとってもバーンアウトのリスクがあり 30,活動頻度の調整や,適切な対人距離を保つための支援が不可欠となる.こうした深刻な情緒的負担に直面する現状は,サポーターが自身の感情を客観視し整理するための「リフレクションの機会」という支援ニーズと構造的に結びついていると考えられる.死別による悲嘆や情緒的負担を持ち越すことは心身の健康状態に影響を及ぼす可能性があり 31,感情を適切に表出できる場が必要である.サポーターが「困った時は自分も助けてもらえる」という相互依存的な信頼関係を構築できるよう 13,組織的なメンタルケアの充実を図ることが求められる.さらに,蓄積した情緒的消耗を回復させるためには,役割を離れ心身を休める時間の確保や,ストレス軽減効果のある短期旅行・自然との触れ合いの活用も有用である 32,33.とくに,旅先でのスパやヨガ,瞑想等を通じて健康回復や活力を得るヘルスツーリズムは注目されており 34,行政等が従来の研修に加えこうしたリフレッシュ企画を支援することは,活動継続を支える新たな支援策となりうる.

最後に,「活動継続のための運営の維持の困難」に関し,先行研究 18でも指摘されているボランティアや運営資金の確保といった構造的課題が,本研究の参加者からも同様に語られた.サポーター自身の罹患に伴う活動の不安定さや人手不足による負担は,活動継続を阻む要因となりうる 26

これらの困難は,個人の努力では解決し難い運営上の限界を示しており,医療機関や行政ががんサロンの活動を評価し,運営を組織的に支援する体制を構築していくことがピアサポート活動の持続的な発展に寄与するものと示唆された.

研究の限界と課題

本研究の限界として,第一に,7名から支援の要望が得られなかった点が挙げられる.これはパイロットテスト未実施により問いかけが不十分であった可能性や,対象者が困難を支援策として言語化する段階に至っていなかった可能性を反映している.第二に,公表されているサロンを対象としたため,小規模組織等の意見が反映されにくい点や,医療者の関与状況等のサロンの運営背景を網羅できていない点がある.第三に,本研究で得られた困難と支援の要望の各カテゴリーに関しては,それらが一対一に対応するような直接的な因果関係や,詳細な関連性の構造を特定するには至っていない.

今後は,活動環境や背景要因が困難感に与える影響を踏まえ,困難の内容に応じた段階的な支援ニーズとの関連性を検証し,実効性の高い支援モデルを構築することが課題である.

結論

がんサロンのピアサポーターは,専門知識を要する相談や死別に伴う情緒的負担,安全な開催を進めるための集団管理など,多岐にわたる困難を抱えている.これに対し,医療者との連携,専門知識や技術の習得,およびリフレクションの機会を求める要望が明らかとなった.活動継続のためには,個人の尽力に委ねるのではなく,研修やメンタルケアを組織的に保障する体系的な支援体制の構築が重要であると示唆された.

謝辞

本研究に協力頂きましたピアサポーターの皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

瀧澤はデータの分析,原稿の起草;牧野は研究計画,倫理申請,データの収集・分析,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は研究の構想もしくはデザイン,研究データの解釈,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認および研究の説明責任に同意した.

文献
 
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