2026 年 21 巻 3 号 p. 149-157
【目的】ホスピス病棟における非末梢挿入型中心静脈カテーテル(central venous catheter: CVC)からミッドラインカテーテル(midline catheter: MLC)への移行に伴う使用実態と臨床転帰の変化を検討する.【方法】2017年7月から2025年7月に聖フランシスコ病院ホスピス病棟でCVCまたはMLCを挿入された69例(CVC群28例,MLC群41例)を対象とした後方視的観察研究である.【結果】CVC群では死亡による抜去が89.3%を占め,留置期間中央値は33.5日であった.MLC群では偶発抜去や閉塞などの非死亡要因による抜去があり,留置期間中央値は15.0日とCVC群より有意に短かった(p<0.001).全生存期間中央値はCVC群33.5日,MLC群26.0日であり,有意差は認めなかった(p=0.816).【結論】MLCは偶発抜去や閉塞のリスクを伴うものの,予後には影響せず,ホスピス病棟における静脈路の選択肢となりうる.
Objective: To examine changes in utilization patterns and clinical outcomes associated with the transition from non-peripherally inserted central venous catheters (CVCs) to midline catheters (MLCs) in a hospice ward. Methods: This retrospective observational study included 69 patients who underwent CVC or MLC insertion in the hospice ward of St. Francis Hospital between July 2017 and July 2025 (CVC group, n=28; MLC group, n=41). Results: In the CVC group, catheter removal due to death accounted for 89.3% of cases, and the median catheter dwell time was 33.5 days. In the MLC group, catheter removal due to non-death causes, such as accidental removal and occlusion, was observed, and the median dwell time was significantly shorter than that in the CVC group (15.0 vs. 33.5 days, p<0.001). The median overall survival was 33.5 days in the CVC group and 26.0 days in the MLC group, with no significant difference between the groups (p=0.816). Conclusions: Despite the risk of removal related to accidental dislodgement or catheter occlusion, midline catheters did not adversely affect prognosis and may serve as a feasible option for venous access in hospice wards.
緩和ケア病棟では,疾患の進行や化学療法の影響により末梢静脈路確保が困難となる患者が一定数存在する.このような患者に対して症状緩和や治療のために経静脈的な薬剤投与や輸液管理が必要となる症例も報告されている1,2).聖フランシスコ病院(以下,当院)の院内病棟型緩和ケア病棟(ホスピス病棟)では末梢静脈路確保が困難な症例に対しては薬剤や輸液の静脈投与の中止や皮下投与への変更を検討し,経静脈的な薬剤や輸液の投与が症状緩和に必要と判断する場合には中心静脈カテーテル(central venous catheter: CVC)を用いてきた.なお,本研究におけるCVCは鎖骨下静脈,内頸静脈または大腿静脈から挿入する非末梢挿入型中心静脈カテーテルを指し,末梢挿入型中心静脈カテーテル(peripherally inserted central catheter: PICC)は含まない.CVCは確実な静脈路確保と長期留置が可能である一方,挿入時の気胸や血胸などの合併症リスク3,4),カテーテル関連血流感染症(catheter-related bloodstream infection: CRBSI)のリスク5,6),さらには自己抜去予防のための身体抑制を要する場合がある7,8)という課題が存在する.
近年,ミッドラインカテーテル(midline catheter: MLC)が末梢静脈路と中心静脈路の中間的な選択肢として注目されている9,10).MLCは上腕の末梢静脈からアプローチし,カテーテル先端を上腕静脈または腋窩静脈に留置するデバイスであり,CVCと比較して挿入時の重篤な合併症リスクが低く10),挿入後の単純X線撮影による先端位置確認が不要である11)ため患者負担が少ないという利点がある.また,身体抑制を回避できる可能性があり,緩和ケア領域において患者の尊厳を保持した医療を提供するうえで有用と考えられる12,13).しかしながら,緩和ケア領域におけるMLCの使用実態や臨床転帰に関するデータは限られており,CVC使用時との比較検討も十分になされていない.
当院では2024年5月にMLCを導入し,それ以降は末梢静脈路確保困難例に対してMLCを第一選択としてきた.本研究では,当院ホスピス病棟におけるMLC導入前後の症例を後方視的に検討し,CVCとMLCの抜去理由,留置期間,および予後への影響を評価することを目的とした.
本研究は,長崎県長崎市に位置する聖フランシスコ病院のホスピス病棟における後方視的観察研究である.研究期間中にホスピス病棟のベッド数が段階的に増床された(2017年7月:22床,2018年12月:36床,2023年4月:44床).2024年度の年間入院患者実人数は652名,平均在院日数は39.8日であった.
対象患者本研究では,末梢静脈路確保困難であり,CVCまたはMLCの挿入に同意した患者で,2017年7月1日から2025年7月31日の期間内に当院ホスピス病棟でカテーテルを挿入し,抜去された症例を対象とした.カテーテル留置中に退院した症例は除外した.
評価項目主要評価項目は抜去理由の内訳とし,副次評価項目は留置期間,全生存期間とした.
データ収集診療録から以下のデータを抽出した:患者背景(年齢,性別,原発部位,転移の有無,Palliative Performance Scale[PPS],認知症の有無,せん妄の有無,意識障害の原因となりうる頭蓋内病変の有無[脳転移,脳腫瘍,脳出血,脳梗塞を含む],ステロイド使用の有無,身体抑制の有無),主な投与薬剤(抗菌薬・抗ウイルス薬,補液,peripheral parenteral nutrition[PPN]/total parenteral nutrition[TPN],脳圧降下薬,解熱鎮痛薬,その他),皮下投与困難の理由(皮下投与不可の製剤,1日1000 mL以上の補液,皮下投与時の疼痛,本人・家族の希望,血小板減少,不明),カテーテル関連情報(挿入部位,カテーテル径,カテーテルルーメン数,挿入手技,挿入日,抜去日,抜去理由,非計画抜去後の対応,手技合併症の有無),および転帰日(死亡日,生存退院日).
変数の定義患者背景のうち,PPS,認知症の有無,意識障害の原因となりうる頭蓋内病変の有無はカテーテル挿入時点で評価し,せん妄,ステロイド使用,および身体抑制の有無はカテーテル留置期間中のいずれかの時点での該当を記録した.認知症およびせん妄の有無は診療録に記載された臨床診断に基づいて判定した.
主な投与薬剤は,カテーテル挿入の契機となった薬剤を一つ選択して分類した.抗菌薬・抗ウイルス薬は,皮下投与不可の製剤を要した症例のみを含めた.
皮下投与困難の理由は,主たる理由を一つ選択して分類した.皮下投与不可の製剤は,皮下投与での対応が困難と担当医が判断した薬剤とした.1000 mL/日以上の補液は,皮下輸液では対応困難と判断された症例とした.皮下投与時の疼痛は,疼痛のため皮下投与の継続が困難であった症例とした.本人・家族の希望は,静脈路と皮下投与の両方を説明したうえで静脈路が希望された症例とした.不明は,カルテ上明らかな理由が確認できず,投与製剤からは皮下投与も可能であった症例とした.
カテーテル関連情報のうち,挿入部位は尺側皮静脈,橈側皮静脈,上腕静脈,大腿静脈,鎖骨下静脈,内頸静脈を記録した.抜去理由は診療録の記載に基づき,死亡,治療終了,自己抜去,脱落,腫脹,刺入部出血,閉塞,入れ替え,CRBSIに分類した.治療終了は抗菌薬等の経静脈治療終了によりカテーテルが不要となった場合,自己抜去は患者が抜去した場合,脱落は固定不良などにより偶発的に抜けた場合とした.閉塞はフラッシュによる開通が不能であった場合,入れ替えは長期留置に伴う交換とした.CRBSIはほかに明らかな感染源がなくカテーテルが感染源として疑われた場合とし,診療録に記載された臨床診断に基づいて判定した.いずれの合併症も担当医の臨床的判断に基づいた.解析にあたり,自己抜去と脱落の合計を偶発抜去,腫脹と刺入部出血の合計を局所トラブルと再定義した.非計画的抜去は,偶発抜去,局所トラブル,および閉塞による抜去と再定義した.
期間の定義留置期間はカテーテル挿入日から抜去日までの日数と定義した.
全生存期間は,カテーテル挿入日を起点とし,死亡日までの期間と定義した.観察期間は2017年7月1日から2025年10月31日までとし,観察期間内に死亡が確認されなかった症例については,生存退院例では退院日を,入院継続例では観察期間終了日まで観察し,それぞれ打ち切りデータとして扱った.
統計解析本研究は探索的研究であり,事前のサンプルサイズ計算は行わなかった.連続変数は中央値と四分位範囲(interquartile range: IQR)で示し,群間比較にはMann–Whitney U検定を用いた.カテゴリカル変数は度数と割合で示し,群間比較にはFisherの正確検定を用いた.留置期間および全生存期間の群間比較にはKaplan–Meier法とlog-rank検定を用い,全生存期間中央値の95%信頼区間(95% confidence interval: 95% CI)を算出した.また,Cox比例ハザードモデルにより,カテーテルの種類が予後に及ぼす影響を評価した.多変量解析では,年齢,PPS,転移の有無を調整因子として投入した.
すべての統計解析にはEZR version 1.68(自治医科大学埼玉医療センター,埼玉)14)を使用し,有意水準は両側5%とした.
倫理的配慮本研究は聖フランシスコ病院臨床研究審査会の承認を得て実施した(承認番号:202507281).本研究は診療録情報を用いる後方視的観察研究であり,研究の性質上,文書によるインフォームド・コンセントの取得は免除された.匿名化した診療情報を用い,病院ウェブサイトにて研究内容を公開するオプトアウト方式により研究対象者が研究への参加を拒否できる機会を設けた.個人情報は匿名化して取り扱い,「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」を遵守した.
2024年5月1日に当院でMLCが導入され,以降はMLCのみが使用された.MLC導入前(2017年7月1日~2024年4月30日)にCVCを挿入された29例のうち,挿入したまま転院となった1例を除外し,28例を解析対象とした.MLC導入後(2024年5月1日~2025年7月31日)にMLCを挿入された41例は全例を解析対象とした.いずれの症例もカテーテル抜去(死亡による抜去を含む)まで観察された.合計69例を最終的な解析対象とした.
観察期間中,66例(95.7%)が死亡し,2例(2.8%)が生存退院となり,1例(1.4%)は観察期間終了時点まで入院を継続していた.観察期間中のホスピス病棟への入院実人数を分母として算出した使用頻度は,入院実人数100人あたりCVC群で0.83例,MLC群で5.47例であった.
患者背景両群の患者背景を表1に示す.年齢,性別,原発部位,転移の有無,認知症,せん妄,頭蓋内病変,ステロイド使用について両群間に有意差は認められなかった.PPSは,CVC群で中央値10(IQR: 10–30),MLC群で中央値30(IQR: 10–40)であり,MLC群で高い値を示したものの,統計学的有意水準の境界にとどまった(p=0.050).身体抑制については,CVC群で4例(14.3%),MLC群で1例(2.4%)に実施されており,CVC群で高い傾向がみられたが,統計学的有意差は認められなかった(p=0.150).CVC群4例のうち3例はCVC挿入後にカテーテルの自己抜去予防を目的として抑制が開始され(抑制着2例,ミトン1例),1例はCVC挿入前より膀胱留置カテーテル保護目的で抑制着が使用されていた.MLC群の1例はMLC挿入前より腹部ドレーン保護目的にミトンが使用されていたものであり,MLCの自己抜去予防を目的とした抑制は行われていなかった.
| CVC n=28 | MLC n=41 | P値 | |
|---|---|---|---|
| 患者背景 | |||
| 年齢,y(中央値[IQR]) | 77.5(70.8–86.3) | 75(69–89) | 0.835 |
| 性別(女性) | 14(50.0%) | 27(65.9%) | 0.219 |
| Palliative Performance Scale(中央値[IQR]) | 10(10–30) | 30(10–40) | 0.050 |
| 転移あり | 16(57.1%) | 29(70.7%) | 0.306 |
| 認知症あり | 11(39.3%) | 17(41.5%) | 1.000 |
| せん妄あり | 11(39.3%) | 22(53.7%) | 0.327 |
| 頭蓋内病変あり | 11(39.3%) | 11(26.8%) | 0.304 |
| ステロイド使用 | 5(17.9%) | 15(36.6%) | 0.111 |
| 身体抑制あり | 4(14.3%) | 1(2.4%) | 0.150 |
| 主な投与薬剤 | |||
| 抗菌薬・抗ウイルス薬 | 12(42.9%) | 23(56.1%) | — |
| 補液 | 10(37.5%) | 4(9.8%) | — |
| PPN/TPN | 3(10.7%) | 2(4.9%) | — |
| 脳圧降下薬 | 1(3.6%) | 4(9.8%) | — |
| 解熱鎮痛薬 | 0 | 2(4.9%) | — |
| その他 | 2(7.1%) | 6(14.6%) | — |
| 皮下投与困難の理由 | |||
| 皮下投与不可の製剤 | 17(60.7%) | 32(78.0%) | — |
| 1000 mL/日以上の補液 | 7(25.0%) | 4(9.8%) | — |
| 皮下投与時の疼痛 | 0 | 4(9.8%) | — |
| 本人・家族の希望 | 2(7.1%) | 0 | — |
| 血小板減少 | 0 | 1(2.4%) | — |
| 不明 | 2(7.1%) | 0 | — |
| カテーテル関連情報 | |||
| 挿入部位 | |||
| ・尺側皮静脈 | 0 | 16(39.0%) | — |
| ・橈側皮静脈 | 0 | 6(14.6%) | — |
| ・上腕静脈 | 0 | 19(46.3%) | — |
| ・大腿静脈 | 22(78.6%) | 0 | — |
| ・鎖骨下静脈 | 4(14.3%) | 0 | — |
| ・内頸静脈 | 2(7.1%) | 0 | — |
| カテーテル径(外径,mm) | 1.5 | 1.0 | — |
| ルーメン数(シングル) | 28(100%) | 41(100%) | — |
| 挿入手技 | |||
| ランドマーク法 | 24(85.7%) | 0 | — |
| エコーガイド下 | 2(7.1%) | 41(100%) | — |
| 透視下 | 2(7.1%) | 0 | — |
原発部位の内訳としてMLC群では消化器がん17例(41%),呼吸器・胸腔内臓器がん5例(12%),乳がん3例(7%),婦人科がん8例(20%)など,CVC群では消化器がん14例(50%),呼吸器・胸腔内臓器がん4例(14%),口腔・咽頭がん2例(7%),皮膚悪性腫瘍2例(7%)などであった.主な投与製剤,皮下投与困難の理由,カテーテル関連情報については群定義に依存するため,P値は算出していない.
PPN, peripheral parenteral nutrition; TPN, total parenteral nutrition; CVC, central venous catheter; MLC, midline catheter
主な投与薬剤および皮下投与が困難であった理由を表1に示す.両群ともに抗菌薬・抗ウイルス薬が最多であり,皮下投与不可の製剤が主な理由であった(CVC群60.7%,MLC群78.0%).CVC群では消化管通過障害や電解質異常などにより1000 mL/日以上の補液を要した症例が7例(25.0%)あった.
カテーテル関連情報カテーテル関連情報を表1に示す.CVC群では大腿静脈からの挿入が最多(78.6%)であり,MLC群では全例上肢から挿入された.挿入手技はCVC群ではランドマーク法が24例(85.7%),MLC群は全例エコーガイド下であった.CVC群では気胸,動脈穿刺などの重篤な手技合併症は認めなかった.MLC群においても動脈損傷,神経損傷などの重篤な手技合併症は認めなかった.
カテーテル抜去理由カテーテル抜去理由を表2に示す.死亡による抜去はCVC群89.3%に対しMLC群43.9%であり有意差を認めた(p<0.001).MLC群では偶発抜去が17.1%に発生し,CVC群(0%)と有意な差を認めた(p=0.036).閉塞はMLC群で12.2%,CVC群で0%であった(p=0.075).
| 抜去理由 | CVC n=28 | MLC n=41 | P値 |
|---|---|---|---|
| 死亡 | 25(89.3%) | 18(43.9%) | <0.001 |
| 治療終了 | 2(7.1%) | 6(14.6%) | 0.458 |
| 偶発抜去 (自己抜去+脱落) | 0(0%) | 7(17.1%) | 0.036 |
| 局所トラブル (腫脹+刺入部出血) | 0(0%) | 4(9.8%) | 0.141 |
| 閉塞 | 0(0%) | 5(12.2%) | 0.075 |
| 入れ替え | 0(0%) | 1(2.4%) | 1.00 |
| CRBSI | 1(3.6%) | 0(0%) | 0.406 |
偶発抜去の内訳:MLC群で自己抜去6例,脱落1例.局所トラブルの内訳:MLC群で腫脹2例,刺入部出血2例.
CVC, central venous catheter; MLC midline catheter; CRBSI catheter related blood stream infection
MLC群における偶発抜去(自己抜去+脱落),局所トラブル(腫脹+刺入部出血)または閉塞による非計画的抜去16例の抜去後の対応を調査した.MLC再挿入が10例(62.5%),薬剤の変更または減量による皮下投与への変更が4例,CVC挿入が1例,投与中止が1例であった.
カテーテル留置期間と全生存期間のKaplan–Meier分析カテーテル留置期間と全生存期間のKaplan–Meier分析結果をそれぞれ図1, 2に示す.カテーテル留置期間中央値は,CVC群33.5日(95% CI: 19–46),MLC群15.0日(95% CI: 8–20)であり,CVC群で有意に長かった(log-rank検定,p<0.001).全生存期間中央値は,CVC群で33.5日(95% CI: 21–46),MLC群で26.0日(95% CI: 16–41)であり,両群間に統計学的有意差は認められなかった(log-rank検定,p=0.816).

カテーテル留置期間のKaplan–Meier曲線.CVC群とMLC群におけるカテーテル留置期間を示す.留置期間中央値は,CVC群33.5日(95% CI: 19–46),MLC群15.0日(95% CI: 8–20)であり,CVC群で有意に長かった(log-rank検定,p<0.001). CVC,中心静脈カテーテル;MLC,ミッドラインカテーテル

全生存期間のKaplan–Meier曲線.CVC群とMLC群における全生存期間を示す.全生存期間中央値は,CVC群33.5日(95% CI: 21–46),MLC群26.0日(95% CI: 16–41)であり,両群間に統計学的有意差は認められなかった(log-rank検定,p=0.816). CVC,中心静脈カテーテル;MLC,ミッドラインカテーテル
単変量および多変量Cox比例ハザード解析の結果を表3に示す.Cox比例ハザードモデルによる単変量解析では,MLCを基準としたCVC使用のハザード比(hazard ratio: HR)は1.06(95% CI: 0.64–1.75,p=0.826)であり,有意な差は認められなかった.
| 変数 | 単変量HR | 95%信頼区間 | P値 | 多変量HR | 95%信頼区間 | P値 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 挿入カテーテル(MLC=0, CVC=1) | 1.06 | 0.64–1.75 | 0.826 | 0.82 | 0.48–1.39 | 0.456 |
| PPS(1ポイント増加ごと) | 0.97 | 0.95–0.99 | 0.003 | 0.97 | 0.95–0.99 | <0.001 |
| 年齢(1歳増加ごと) | 1.01 | 0.99–1.03 | 0.40 | 1.01 | 0.99–1.04 | 0.20 |
| 転移(なし=0,有り=1) | 1.07 | 0.64–1.80 | 0.79 | 1.50 | 0.85–2.66 | 0.16 |
CVC, central venous catheter; MLC, midline catheter
年齢,PPS,転移の有無で調整した多変量解析においても,挿入カテーテルの種類は独立した予後因子ではなかった(HR=0.82, 95% CI: 0.48–1.39, p=0.456).一方,多変量解析ではPPSのみが独立した予後因子として同定された(HR=0.97,95% CI: 0.95–0.99,p<0.001).
本研究では,ホスピス病棟におけるCVCからMLCへの移行に伴う抜去理由,留置期間および全生存期間の変化を検討した.CVC群では死亡による抜去が多く留置期間が有意に長かった一方,MLC群では偶発抜去や閉塞による早期抜去が認められた.患者背景ではPPSのみCVC群で低値を示し(中央値10 vs. 30,p=0.050),その他の臨床背景に有意差は認められなかった.
カテーテル挿入の臨床的適応と皮下投与との位置づけ皮下投与が選択されなかった主な理由は皮下投与不可の製剤の使用であり(CVC群60.7%,MLC群78.0%),とくに添付文書上皮下投与が認められていない抗菌薬・抗ウイルス薬が両群で最多であった.また,皮下輸液は一般に1箇所あたり1.5 L/日程度まで投与可能とされる15)が,るいそうや浮腫を伴う患者では吸収が困難となる場合があり,1000 mL/日以上の補液を要する症例では静脈路が必要と判断された.
PPSの群間差と結果の解釈PPSの群間差は,両群の患者選択基準の違いを反映していると考えられる.MLC群はCVCと比較して挿入時の重篤な合併症リスクが低く上肢から挿入可能なため,一時的な抗菌薬投与目的の患者から予後が厳しい患者まで幅広い臨床状況で使用され,使用頻度の増加につながった.一方CVC群では,大腿静脈からの挿入が多く歩行可能な患者には適用しにくかったこと,また侵襲的な手技であるため,感染症治療など予後改善が期待できる病態や,activities of daily living(ADL)低下の主要因が併存疾患・がん関連合併症による廃用性機能低下であり予後が見込まれる患者に限定して挿入されていたと考えられる.PPS中央値が10と低値であったにもかかわらず全生存期間中央値が33.5日であったことは,こうした慎重な患者選択を事後的に支持する.PPSは現時点の機能状態を測定するツールであり16),同一スコアでも患者背景により生存期間が異なりうることが報告されている17).
このような患者選択基準の違いは,留置期間や抜去理由の群間差にもデバイスの特性とともに影響していると考えられる.
抜去理由の違いが意味することMLC群では全生存期間の中央値が26.0日であったのに対し留置期間の中央値は15.0日と短く,この差は非死亡要因による早期抜去を反映していると考えられる.
MLC群では偶発抜去(自己抜去と脱落の合計)が17.1%(7例)に発生し,CVC群(0例)と比較して有意に高率であった(p=0.036).この違いには,身体抑制の実施状況や挿入部位の違いが関与している可能性が考えられる.
CVC群では3例でカテーテルの自己抜去予防を目的とした身体抑制が実施されていたのに対し,MLC群ではカテーテル保護目的の抑制は行われていなかった.MLC群で偶発抜去が多かった背景には,身体抑制が行われなかったことに加え,MLCが全例上肢に留置されており日常動作や体動の影響を受けやすかったことも関与していると考えられる.
MLC群では閉塞による抜去が12.2%(5例)に発生し,CVC群(0%)と比較して高い傾向がみられた(p=0.075).カテーテルの径や留置部位などの要因が影響している可能性もあるが,本研究の設計では因果関係は明らかでない.
なお,本研究のCVCとMLCはカテーテル先端位置(中心静脈vs.末梢静脈)と刺入部位(大腿静脈・鎖骨下静脈・内頸静脈vs.上肢静脈)の両方が異なっており,偶発抜去や局所トラブルの差にいずれの要因がより関与しているかは区別できない.これらを分離して評価するにはPICCを含めた比較が必要である.
カテーテルの種類と予後の関連本研究では,カテーテルの種類は生存期間に影響を与えず,PPSのみが独立した予後因子であった.すなわち,CVCからMLCへの移行は予後を悪化させなかった.この結果は,静脈路の選択においては予後への影響よりも,安全性,管理の容易さ,患者の負担といった臨床的実用性を重視して判断できる可能性を示唆している.
医療資源の観点緩和ケア病棟入院料は包括払い制度であり,デバイスのコストは入院料に包含される.当院でのカテーテル単価はMLC約15,000円に対しCVC約1,800円であった.近年,より安価なMLCも発売されているが,現時点ではコスト面ではCVCが優位であり,臨床的利点を含めた総合的な費用対効果の検討が今後必要である.
研究の限界本研究にはいくつかの重要な限界がある.第一に,後方視的な単施設研究であり,デバイス選択における医師の判断や患者・家族の希望など,測定されていない要因による選択バイアスの影響を受けている.第二に,CVC群とMLC群ではデータ収集期間が大きく異なり(CVC群2017年~2024年,MLC群2024年~2025年),この間の患者背景や診療方針の変化が結果に影響を与えた可能性がある.とくに,MLC導入により低侵襲なデバイスが選択可能となったことで適応が拡大し,CVC時代とは異なる全身状態の患者が対象となった可能性があり,PPSの群間差や留置期間の差にはデバイスの特性だけでなくこれらの背景の違いも反映されている可能性がある.第三に,CVC群とMLC群ではカテーテル挿入を行った術者が異なっており,CVC群は主に1名の医師がランドマーク法で挿入したのに対し,MLC群は別の1名の医師が全例エコーガイド下で挿入した.術者の手技や経験の違いが結果に影響した可能性がある.第四に,研究期間中のベッド数の増床により患者受け入れ数が変化しており,これがデバイス使用頻度に影響を与えた可能性がある.第五に,閉塞の原因について,使用薬剤,ロック方法,フラッシュ頻度などの管理方法の詳細を評価しておらず,デバイス特性以外の要因が閉塞率の差に影響した可能性がある.第六に,CRBSI発生は両群合わせて1例のみであり,ホスピス病棟では発熱時の精査を控える場合もあることから18,19),本研究のCRBSI発生率は真の発生率を反映していない可能性がある.
これらの限界,とくにCVC群とMLC群でデータ収集期間が異なることから,本研究は両デバイスの優劣を比較したものではなく,それぞれが使用された時期における臨床転帰を示したものとして解釈する必要がある.
今後の課題今後の課題として,明確な適応基準のもとで前向きに比較する研究により,どのような患者背景や臨床状況でMLCが適しているかを明らかにすることが重要である.また,本研究で示唆されたMLCの閉塞リスクに対して,最適な管理方法の検討も必要である.さらに,患者のquality of life(QOL),介護負担,コスト効果などの観点からの評価も今後の研究課題である.
本研究では,ホスピス病棟においてCVCとMLCの間で生存期間に差がないことが示された.MLCは偶発抜去(17.1%)および閉塞(12.2%)のリスクがあるが,カテーテルの種類は予後に影響せず,予後はPPSにより規定された.このため,MLCはホスピス病棟における静脈路確保の選択肢の一つとなりうる.
本研究にご協力いただいた皆様に深謝いたします.また,本研究に関連する入院患者数等のデータ収集に際し,当院医事課の山下氏にご協力をいただきました.ここに感謝申し上げます.
本研究は特定の研究資金の支援を受けていない.
すべての著者の申告すべき利益相反なし
小室は研究の構想およびデザイン,データ収集,データ解析,原稿の起草に貢献;右田は研究の構想およびデザインに貢献;森,加藤,川畑,上野,松添は原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.