2026 年 21 巻 3 号 p. 203-208
【目的】本研修はケアリング能力を高めることを目的に実施された.【活動の概要】A緩和ケア病棟の看護師21名にCPCN(Caring Peculiar to Cancer Nursing)を用いて,7回/年の研修を行った.成果を評価するための調査内容は自己評価,ケアリング行動質問紙,看取りケア尺度他四つの尺度であった.分析はウイルコクソンの符号付順位検定と相関分析を用いた.【成果】分析対象は16名で参加状況等に弱い相関が認められた.また,研修前後の尺度得点では,ケアリング行動質問紙得点前3.89,後4.13(p=.036),看取りケア得点前76,後85.63(p=.004),患者ケアに対する満足度得点前51.75,後59.19(p=.007),看護婦の自律性得点前148.5,後159.25(p=.047)で,有意差が認められた(有意水準5%).【結論】『看護のなかの死』の事例を教材とし,CPCNを用いた,終末期がん看護のケアリング教育の成果が示唆された.
Objective: This training program was conducted with the aim of enhancing caring competence. Summary of Activities: We conducted training sessions seven times a year for 21 nurses in a palliative care unit ward A using the CPCN (Caring Peculiar to Cancer Nursing). The assessment tools used to evaluate the outcomes included self-assessment, the Caring Behavior Questionnaire, the “MITORI” Care Scale, and four additional scales. Data were analyzed using correlation analysis and the Wilcoxon signed-rank sum test. Results: The analysis included 16 participants and showed weak correlations with participation status. Caring Behavior Questionnaire scores increased from 3.89 before training to 4.13 after training (p=.036). “MITORI” care scores increased from 76 to 85.63 (p=.004), patient care satisfaction scores increased from 51.75 to 59.19 (p=.007), and nurse autonomy scores climbed from 148.5 to 159.25 (p=.047). All other scale scores also increased significantly (p<.05). Conclusion: Using five case studies from “Death in Nursing” as teaching materials and CPCN, this study suggests that caring education may produce positive outcomes in terminal cancer nursing.
がん看護の課題として,質の高いケアを提供するためにケアリング能力を高めることが提唱されている 1).ケアリングとは対象者の人格を尊重し,人間的な親しみを感じられる援助関係に基づく看護実践であり 2),看護の核として,質の高い看護のなかに見出されている 3).また,終末期がん患者が自己の限界や苦悩をあるがままのものとして認めながら,自分らしく生きることを可能にする 4).しかし,どのような教育がケアリング能力を高め,がん看護の質向上に必要なケアリングの実践を可能にするのかは明らかにされていなかった.
そのため,著者らは「がん看護特有の41のケアリングを基盤とする8構成要素CPCN(Caring Peculiar to Cancer Nursing 2021);以下,CPCNと記す」を導き 2),終末期がん看護のケアリングの評価指標になることを確認した 5).
そこで,終末期がん看護におけるケアリング能力を高めるために,CPCNを評価指標として,『看護のなかの死』 6)を教材に用いた終末期がん看護のケアリング教育を実施した.その結果,終末期がん看護におけるケアリング教育の成果が示唆されたので報告する.
がん看護特有のケアリングを基盤とするケアリングの構造より8構成要素41のケアリング(CPCN)の理解を深め,実践力向上を図る.
2. 研修の参加者A緩和ケア病棟の看護師21名(病棟の研修として位置づけられていたため全員参加).
3. 研修の進め方(表1)研修の日程および内容と進め方を表1に示す.
| 日程(月/日) | 研修の内容 | 調査 |
|---|---|---|
| 1回目(6/7) | ケアリング・がん看護のケアリング | 研修前① |
| 2回目(7/5) | 事例①「遺言状(p154–160)]の検討 | |
| 3回目(9/6) | 事例②「シスター沢田(p141–146)」の検討 | |
| 4回目(11/1) | 事例③「償い(p147–153)」の検討 | |
| 5回目(12/6) | 事例④「植木の水(p197–204)」の検討 | |
| 6回目(2/7) | 事例⑤「もうすぐね(p178–188)」の検討 | |
| 7回目(3/7) | 研修のまとめ | 研修後② |
| 【研修の内容】 | ||
| (1)1回目:ケアリングおよびがん看護のケアリング(がん看護に特有な41のケアリングと8構成要素)について学習する(講義中心). (2)2~6回目:『看護のなかの死』の五つの事例を用いて,寺本が実践した終末期がん看護のケアリングについて検討する.5回の事例検討を通して,8構成要素・41のケアリングおよび終末期がん看護のケアリングについて理解を深める. (3)7回目:研修の目的である,「がん看護特有のケアリングを基盤とするケアリングの構造より8構成要素41のケアリング(CPCN)の理解を深め,実践力向上を図る」ためのまとめとして,五つの事例で実践されたケアリングについて振り返る. |
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| 【研修の進め方】 | ||
| (1)事例①~⑤は,事前に事例を精読し,自身で事例を検討してくることを課題とする. (2)研修では,寺本の終末期がん看護の実践について数名に発表してもらい,事例で実践されている終末期がん看護について共有(5分). (3)事前に検討した結果に基づいて,グループワーク(2~3人)を行い,寺本が実践した終末期がん看護のケアリングについて討議する.最後に,各自で実践されたケアリングを検討し,ワークシートの「Gワーク・後」に記入する(15分). (4)寺本が実践した終末期がん看護のケアリングについて,どのようなケアリングが実践されていたか解説する(20分). (5)まとめ・参加状況,理解度を記載する(10分). |
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| 【研修の受講方法】 | ||
| (1)研修は日程のとおり,14:30~15:20(50分)に病棟内で実施する. (2)研修日に日勤で参加できるものは対面で受講する(研修は録画を行う). (3)対面で参加できない場合は,勤務時間内に録画視聴で受講とする. |
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研修は勤務時間内に対面と録画視聴で受講(50分).また,事例の分析にはワークシートを用いた(図1).事例は,寺本の著書に記載されている看護実践を用いた 6).著者らが事前にCPCNを用いて分析したところ 5),CPCNが網羅されており,研修に適していると判断し採用した.

(1)研修開始時に,同時に研修終了前後に回収する調査票,自己評価表,研修資料を配布した.
(2)調査票は病棟にポストを設置し,留め置きで回収した.
(3)調査内容
①個人属性:性別,年齢,看護経験年数,緩和ケア経験年数.
②参加状況:事例検討を行った5回の参加状況を「5. 研修に全時間出席した」から「1. 研修・録画視聴共に1/2未満であった」の5段階で,数値化して集計.
③理解度(自己評価):先行研究 5)で著者らが抽出したケアリングとの合致率を「5. 80%以上~100%」から「1. 0%~20%未満」の5段階で,数値化して集計.
④「ケアリング行動質問紙」:41項目 7)
5件法で5点(81%~100%)から1点(0%~20%)を配点し,単純平均を得点とする.得点が高いほどケアリングの実践力が高い.
⑤「看取りケア尺度」:22項目 8)
5件法で5点(よく実施できるている)から1点(全く実施できていない)を配点し,合計を得点とする.得点が高いほど終末期がん患者と家族の状況に応じたケアの実践力が高いと考えた.
⑥「終末期医療に携わる看護婦の患者ケアに対する満足度」:20項目 9)
6件法で5点(非常によくあてはまる)から0点(全くあてはまらない)を配点し,合計を得点とする.得点が高いほど満足度が大きく実践力が高いと考えた.
⑦「看護婦の自律性測定尺度」:47項目 10)
5件法で5点(かなりそう思う)から1点(全くそう思わない)を配点し,合計を得点とする.得点が高いほど看護師の実践力が高いと考えた.
5. 分析分析は,記述統計量(平均・標準偏差)の算出,四つの尺度の平均総得点差(研修後−研修前),ウイルコクソンの符号付順位検定を行った.また,「ケアリング行動質問紙」の総得点については,研修前後の得点差と研修への参加状況および理解度との相関をスピアマンの順位相関係数を用いて分析した.分析はSPSS statistics(Base System)Ver.25(IBM, Armonk, NY, USA)を使用した.
倫理的配慮本研究は宮崎県立看護大学研究倫理審査委員会の承認(第3-31号)を得て実施した.対象者には研究の主旨,内容,研究協力の方法について文書と口頭で説明した.研究協力は自由意志であること,協力しなくても不利益を被ることはないこと,個人情報の保護,撤回の方法,学会等での発表や調査結果の提供などを伝えて同意を得た.なお,対応のあるデータを取るために調査票に番号を記載したが,対象者のみが把握できるようにした.
分析対象は,21名の参加者のうち事例検討にすべて参加した16名(有効回答率76.19%)であった.全員女性であり,年齢は27~57歳で平均41歳,看護経験年数は7~29年で平均19年,緩和ケア経験年数は1~8年で平均3年であった.
参加状況と理解度参加状況は,録画を全時間視聴が60%を占め,研修に全時間出席が35%であった.理解度は60%以上~80%未満が54%,40%以上~60%未満が25%であった.
4尺度の記述統計量と4尺度および参加状況と理解度によるケアリング教育の成果(表2)研修前後の尺度の平均総得点および得点の差(研修後−研修前)は,「ケアリング行動質問紙」では研修前3.89,研修後4.13で差は0.25点,「看取りケア」では研修前76.00,研修後85.63で差は9.63点,「患者ケアに対する満足度」では研修前51.75,研修後59.19で差は7.44点,「看護婦の自律性」では研修前148.50,研修後159.25で差は10.75点で四つの尺度共に上昇した.
| 尺度 | 得点幅 | 尺度の平均総得点(SD) | p値 | 検定統計量 | スピアマンの相関係数 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 研修前 | 研修後 | 研修後−研修前(得点差) | |||||
| ケアリング行動質問紙 | 1–5 | 3.89 (0.58) | 4.13 (0.60) | 0.25 (0.44) | 0.036 | 108.5 | |
| 看取りケア尺度 | 22–110 | 76.00 (10.37) | 85.63 (12.24) | 9.63 (10.47) | 0.004 | 123.5 | |
| 終末期医療に携わる看護婦の患者ケアに対する満足度 | 0–100 | 51.75 (14.26) | 59.19 (13.83) | 7.44 (9.85) | 0.007 | 120.5 | |
| 看護婦の自律性尺度 | 47–235 | 148.50 (27.97) | 159.25 (27.69) | 10.75 (20.23) | 0.047 | 95.0 | |
| 参加状況 | .316 | ||||||
| 理解度 | .233 | ||||||
(p<0.05)
注1:四つの尺度はウイルコクソンの符号付順位検定
注2:自己評価の二つの項目は相関分析
研修前後の評価では,「ケアリング行動質問紙」の平均総得点(p>0.036),「看取りケア」の平均総得点(p>0.004),「患者ケアに対する満足度」の平均総得点(p>0.007),「看護師の自律性」の平均総得点(p>0.047)のすべての尺度に有意差を認めた.また,「ケアリング行動質問紙」の研修前後の平均総得点の差と参加状況(r=.316),理解度(r=.233)に弱い相関を認めた.
看護師は業務のなかで学びを積み重ねており,対象は平均看護経験年数が19年であり,基本的な看護実践能力が確立され,新たな知識やスキルを統合しやすかったのではないかと思われる.研修の成果のみを抽出することは難しいが,対応のあるデータを用いて個人差をなくした分析において,すべての尺度得点が上昇し有意差を認めたことや「ケアリング行動質問紙」の得点差と参加状況および理解度に弱い相関が認められたことより,ケアリング教育の成果が伺えた.
研修の目的は,CPCNの理解を深め実践力向上を図ることであった.CPCNを用いて検討することで,評価指標が共有され,必要ながん看護の過不足が分析シートにより可視化できることが有益であったと考えられる.また,がん看護に重要なCPCNの理解を図るためには,『ケアリングカリキュラム』 11)に示されている「ケアリングの機会が起こる」場面が必要であり,「理論と実践が一体となって,互いに情報交換が行われる」必要がある.そのため,『看護のなかの死』の事例を用いてCPCNを評価指標に検討し,他者と意見交換ができる機会を設けることで,ケアリングの機会が起こる場面と理論と実践が一体となった情報交換が可能となる教育的介入が有効であったと考えられる.
しかし,研修を業務内に実施する等の制約により録画視聴が65%であり,録画視聴は対面のようにグループワークなどが思うようにできなかったなど,研修の受講の仕方により差が生じたことが推察される.今後の課題は,研修参加への負担軽減に努めつつ参加率の向上を図ること,対象を複数施設にして参加人数を増やすことである.
終末期がん看護のケアリング教育に取り組んだ結果,「ケアリング行動質問紙」や「看取りケア尺度」等4尺度すべてにおいて有意差が認められた.また,「ケアリング行動質問紙」の得点差と参加状況および理解度に弱い相関を認めたことより,CPCNを用いた終末期がん看護のケアリング教育の成果が示唆された.
令和4年度宮崎県立看護大学地域貢献等研究推進事業費補助金の助成を受けて実施した.
すべての著者の申告すべき利益相反なし
重久加代子は研究のデザイン,データの分析,原稿の起草に貢献;田中香織はデータ収集,原稿に関する批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文の最終承認および研究の説明責任に同意した.