Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
症例報告
急性腎障害および薬物相互作用を背景に発症したミルタザピンによるセロトニン症候群の1例
深澤 義輝
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2026 年 21 巻 3 号 p. 145-148

詳細
Abstract

【背景】セロトニン症候群の発症には原因薬剤の血中濃度の上昇が関与している.発症のタイミングは薬剤投与量の変更後が一般的だが,薬物動態の変化が発症契機となる可能性が指摘されている.【症例】82歳女性.多発性骨髄腫のため5年前から化学療法を継続中で,CYP(Cytochrome P450)阻害作用を有するフルコナゾールを常用していた.抑うつ症状に対してミルタザピンを開始した約3週間後に腸閉塞を発症し,脱水による急性腎障害をきたした.翌日から高熱,頻脈,意識障害,ミオクローヌスを認めセロトニン症候群を疑った.薬剤中止により症状は速やかに改善した.【結論】セロトニン症候群の発症には原因薬剤の投与量変更以外に,腎機能障害や薬物相互作用による薬物動態の変化が関与しうる.比較的リスクが低い薬剤でも複合要因での発症に注意を要する.

Translated Abstract

Background: Serotonin syndrome is associated with an increase in the serum concentration of causative agents. It typically occurs after initiation or dose escalation of serotonergic drugs; however, changes in pharmacokinetics may also trigger its onset. Case: An 82-year-old woman with multiple myeloma had been receiving chemotherapy for five years and was taking fluconazole, a cytochrome P450 inhibitor. Approximately three weeks after initiating mirtazapine for depressive symptoms, she developed bowel obstruction, followed by acute kidney injury due to dehydration. The next day, she presented with high fever, tachycardia, impaired consciousness, and myoclonus, raising suspicion of serotonin syndrome. Her symptoms improved promptly after discontinuation of the causative agents. Conclusion: Serotonin syndrome may occur not only after dose changes of causative drugs but also as a result of pharmacokinetic alterations due to renal dysfunction and drug interactions. Even agents considered to have a relatively low risk, such as mirtazapine, can induce serotonin syndrome under multiple contributing factors, and careful monitoring is warranted.

背景

セロトニン症候群は薬剤によるセロトニン受容体の過剰な活性化により精神症状・自律神経症状・神経筋症状を生じる重篤な疾患である.セロトニン症候群の発症には原因薬剤の血中濃度の上昇が関与するとされており,一般的には薬剤の開始あるいは増量から6~24時間以内に発症する1.一方でCYP(Cytochrome P450)阻害薬の薬物相互作用により原因薬剤の血中濃度が上昇することが発症の一因となる2ことから,投与量変更のタイミングによらず薬物動態の変化が発症に関与する可能性が指摘されている.本稿ではミルタザピンとCYP3A4(Cytochrome P450 3A4)阻害作用を有するフルコナゾールの併用中に急性腎障害を契機としてセロトニン症候群を発症した1例を報告する.なお本稿の報告にあたり,口頭で本人と家族の同意を得たうえで個人が特定されないよう配慮した.

症例

【患 者】82歳女性.

【主病名】多発性骨髄腫.

【既往歴】早期食道がん,早期大腸がん.いずれも内視鏡治療で完治.

【常用薬】プラバスタチン10 mg,エソメプラゾール20 mg,フルコナゾール100 mg,レンボレキサント5 mg,バラシクロビル500 mg(週3回),スルファメトキサゾール/トリメトプリム配合錠(週3回).

【発症までの経過】X−5年に多発性骨髄腫(IgG-κ型)の診断を受け化学療法を継続していた.X−41日に急性腎盂腎炎/菌血症のため入院し,10日間の抗菌薬治療を行った.X−37日に腰痛のため緩和ケアチームが介入し,アセトアミノフェン2000 mg/日を開始した.X−33日に抑うつ傾向のためミルタザピン15 mg/日を開始し,X−25日に30 mg/日に増量した.X−2日の朝から嘔吐が続き,前日まで全量摂取していた食事をほとんど摂れなかった.X−1日には1日10回以上の嘔吐があり,画像検査で腸閉塞と診断した.同日の血液検査で急性腎障害(クレアチニンクリアランスCockcroft–Gault式:X−3日61.2 mL/分→X−1日21.4 mL/分)を認めた.食事や内服薬はすべて中止し,経鼻胃管による腸管減圧と1日1500 mLの補液を開始した.X日の未明から高熱と不随意運動が生じたため担当医が診察した.

【発症時の現症】JCS(Japan Coma Scale)I3,GCS(Glasgow Coma Scale)11(E4V3M4),体温39.1°C,血圧93/60 mmHg,脈拍133回/分,呼吸数20回/分,酸素飽和度96%(室内気).

開眼しているが一点を見つめてすべての質問に「はい」と答える.

瞳孔両眼3 mm,四肢にミオクローヌスあり,筋トーヌスは正常で左右差なし,明らかな運動麻痺なし,深部腱反射が両側で亢進,Babinski反射は両側で陰性.

肺雑音なし,腹部は平坦,軟,明らかな圧痛はなし.

WBC(white blood cell count)6860(Neu[neutrophils]62.6%)/μL,Hb(hemoglobin)8.9 g/dL,PLT(platelet count)374000/μL,Alb(albumin)3.0 g/dL,BUN(blood urea nitrogen)40.2 mg/dL,Cre(creatinine)1.50 mg/dL(Cockcroft-Gault 15.5 mL/min),Glu(glucose)163 mg/dL,Na(sodium)140 mmol/L,K(potassium)3.3 mmol/L,Cl(chloride)86 mmol/L,Ca(calcium)8.0 mg/dL,CRP(C-reactive protein)2.40 mg/dL.

胸部単純X線:経鼻胃管の先端は胃内,肺野に浸潤影は認めない.

【その後の経過】セロトニン症候群の可能性を考えつつ,細菌感染症が否定できないため抗菌薬の投与(セフメタゾール1g 1日2回)を行った.X+1日は意識障害とミオクローヌスが持続していたが,X+2日には意識障害とミオクローヌスは消失し通常通りに会話可能となった.発熱や頻脈はX+5日にかけて緩やかに改善した(図1).発症時の血液培養は2セット陰性であり抗菌薬は7日間で終了した.腸閉塞の経過も良好でありX+8日から経口摂取が再開され,以降は再発なく経過した.X+37日に退院した.

図1 臨床経過

考察

セロトニン症候群の診断基準としては高い感度(84%)と特異度(97%)が示されるHunter基準の使用が一般的である2,3.本症例はセロトニン作動性薬剤の使用中に自発的で反復性のミオクローヌス(クローヌス様不随意運動)および腱反射亢進を認めた.これらの所見は「spontaneous clonus」または「tremor plus hyperreflexia」に該当する所見であり,同基準を満たすと判断した.しかしあくまでも臨床診断であり,鑑別疾患の除外が必要である.本症例の発症時は腎盂腎炎で治療後かつ腸閉塞発症翌日という状況であり,まず腎盂腎炎の再発やbacterial translocationによる菌血症/悪寒戦慄の状態を考えた.またせん妄や,うつ状態を背景とした昏迷など精神疾患の関与も考慮した.しかしこれらの疾患ではミオクローヌスや腱反射亢進を説明できなかった.血液検査で血糖値/電解質異常などの代謝性要因も否定的であった.重要な鑑別疾患である髄膜脳炎も念頭に置いたが,腱反射亢進が非典型的であることに加えて,薬剤の中止により速やかに改善したことから,可能性は低いと判断した.

セロトニン症候群の発症には主に5-hydroxytryptamine 2A(5-HT2A)受容体の過剰な活性化が関連するとされている4,5.ミルタザピンは5-HT2A受容体を遮断する効果を持つことから,同受容体を活性化しやすい選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor: SSRI)やモノアミン酸化酵素阻害薬(monoamine oxidase inhibitor: MAOI)などと比較すると,セロトニン症候群のリスクは低いとされる6.しかしながらα2アドレナリン受容体アンタゴニストとしてノルアドレナリンだけでなくセロトニン放出を促進する作用を有しており,他のセロトニン作動性薬剤との併用によりセロトニン症候群を発症したケースのほか7,ミルタザピン単剤での発症も少数ながら報告されている8,9

また,本症例ではミルタザピンの血中濃度が上昇しやすい要因が複数併存していた.まず1点目はCYP3A4などを阻害する作用を持つアゾール系抗真菌薬であるフルコナゾールの併用である.ミルタザピンの代謝にはCYP3A4が関与している6.アゾール系抗真菌薬の一種であるケトコナゾールとの併用によりミルタザピンの最高血中濃度(maximum concentration: Cmax)と血中濃度曲線下面積(area under the curve: AUC)がそれぞれ42%,52%上昇すると報告されており,本邦のミルタザピンの添付文書ではフルコナゾールを含むアゾール系抗真菌薬を「併用注意」と記載している10.またミルタザピン以外のセロトニン作動性薬剤もCYPでの代謝を受けるものが多く,CYP阻害薬の併用はセロトニン症候群の発症に関連する重要な要因とされている5

2点目は併用薬としてのレンボレキサントおよびエソメプラゾールの影響である.両薬剤はCYP3A4による代謝を受けるため,基質としてミルタザピンの代謝を競合し一定の影響を及ぼした可能性がある.なお本邦の添付文書ではレンボレキサントをフルコナゾールと併用する際には副作用の観点から2.5 mgでの使用を推奨している.本症例では入院前から忍容性に問題がなく減量は行わなかったが,基質としての競合を助長した可能性がある.

3点目は患者の年齢と性別である.ミルタザピンは高齢者,女性でそれぞれ血中濃度が上昇しやすく,非高齢男性と比較して65歳以上の高齢女性はCmaxが35%,AUCが123%上昇するというデータがある10,11.これらの要因が重なることで,セロトニン症候群の発症リスクが高い状態であったと考えられる.

セロトニン症候群が発症するタイミングは,一般的に原因薬剤の開始あるいは増量から6~24時間以内である1.これは“薬剤の血中濃度の上昇”が引き金となることを示しており,安定した血中濃度であればセロトニン症候群を発症するリスクは低い.逆に原因薬剤の“投与量を変更していない”場合でも,何らかの原因で薬剤の血中濃度が上昇する場合にはセロトニン症候群を発症しうる.本症例はミルタザピンの増量から25日間が経過し通常であれば血中濃度は定常状態で安定しているが,発症直前に脱水による急性腎障害をきたした.ミルタザピンは肝臓での代謝を経て約75%が尿中に排泄される.未変化体は5%以下とされるが,本症例と同程度の中等度腎機能障害(クレアチニンクリアランス11–39 mL/min)ではAUCが54%上昇するという報告があるように血中濃度は腎機能に影響を受ける10,12.これが最終的な引き金となってセロトニン症候群を発症したと考える.

セロトニン症候群は見逃されているケースが多いとされている13.要因として疾患自体の認知が不十分であることや,本症例のように細菌感染症に伴う発熱や悪寒と間違えられやすいことが指摘されている14.緩和ケア領域は鎮痛薬,制吐薬,抗うつ薬などとしてセロトニン作動性薬剤を使用する場面が多いことに加えて,高齢,マルチプロブレムによる多剤内服,肝機能や腎機能の変動など薬物動態を変化させる要因に富んでいる.セロトニン症候群のリスクが比較的低い薬剤でも複合要因での発症を念頭に置き,予防を含めた適切な対応が求められる.

結論

セロトニン症候群の発症には原因薬剤の投与量変更以外に,腎機能障害や薬物相互作用による薬物動態の変化が関与しうる.ミルタザピンなど単剤でのリスクが比較的低い薬剤でも複合要因での発症に注意を要する.

研究資金

この報告に関して資金提供の受領はない

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

著者は研究の構想およびデザイン,研究データの収集・分析,原稿の起草・批判的な推敲に貢献した.また投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

文献
 
© 2026 日本緩和医療学会

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
feedback
Top