周産期学シンポジウム抄録集
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第24回
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シンポジウム午後の部
羊水塞栓症における予後因子としてのインターロイキン(IL)8
大井 豪一小林 浩木村 聡西口 富三金山 尚裕
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p. 53-56

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抄録

 はじめに

 羊水塞栓症(amniotic fluid embolism ;AFE)は,1926年Meyer1)により,分娩中に急性ショックと肺水腫を併発し死亡した妊婦の病理解剖において,肺の血管内部に胎児由来と思われる扁平上皮細胞やムチンを認めた所見から考えられた疾患である。そして,現在この疾患は,いったん発症すると約60%という高率に母体死亡を引き起こす,重篤な周産期疾患の一つとして知られている。しかし,その発症原因は,いまだ謎のままであり,この疾患での母体死亡率の低下に繋がっていない。本症の確定診断方法は,死後の剖検組織から,主として肺組織より胎児成分である,塞栓した皮膚組織や胎便などを検出する方法である。母体血中(心房内)から胎児組織を見出すという方法も報告された2)。しかし,心臓病合併妊婦に挿入したスワンガンツカテーテルより採取した血液から,AFE症状を全く示さなかったにもかかわらず,胎児成分が見出された3)ため,診断方法として確立していない。

 当科において,血清学的補助診断法として,1992年に母体血清中の亜鉛コプロポルフィリン1(Zn-CP1)の測定が有用であること4)を,1993年に同様に母体血清中のSialyl Tn(STN)の測定も有用であること5)を報告した。これら2つのマーカー測定依頼のため,羊水塞栓症の検体(血清や肺組織)とともに臨床データが,全国各地から毎年当科へ送られてくるようになった。そして,2003年8月に日本産婦人科医会において,本症の血清診断としての事業が正式に開始された。現在,当科には従来の約5倍に相当する検体が送られてきている。また,血清学的診断以外に我々は,当施設に送られてきた患者剖検肺組織の解析より,本症における死亡原因が病理学的に早期死亡症例と数日後死亡症例の2種類存在することを見出した。早期死亡症例の肺組織標本における所見は,肺胞構造の破壊はなく,好中球の浸潤は軽度,そして,肺胞壁は軽度の浮腫像のみであった。しかし,数日後死亡症例の肺組織標本における所見は,肺胞壁の破壊が進み,肺胞構造が保たれず,そのうえ,好中球の強度浸潤を伴ったAcute Respiratory Distress Syndrome(ARDS)の像を示していた6)。他の文献報告においても,高率にARDSに移行することが記載されている7)。この事実より,炎症性サイトカインが数日後死亡例において関与している可能性が示唆されたため,2002年の日本産科婦人科学会学術講演会において,患者血清中のインターロイキン(IL)IL-8と予後の関連を報告した。発症後約7時間以後における血清中IL-8は,数日後死亡症例では400pg/rnl以上の値を示しており,生存症例のIL-8値に比較し高値を示していた。その後,症例数が増加し,今回,血清中サイトカインIL-8が,予後と相関するかを再検討した。

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© 2006 日本周産期・新生児医学会
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