主催: 一般社団法人日本周産期・新生児医学会
会議名: 周産期学シンポジウム:周産期と医療安全
回次: 28
開催地: 京都府
開催日: 2010/01/15 - 2010/01/16
p. 105-109
はじめに
およそ0.5%の分娩に急速遂娩が必要とされる1,2)。緊急帝王切開は急速遂娩出の重要な手段の一つである。予定帝王切開あるいは選択的帝王切開は陣痛発来前の帝王切開と定義されるのに対し,緊急帝王切開は陣痛発来後に施行される帝王切開と定義される。また,緊急帝王切開はさらに緊急度に応じて,たとえば,①母体あるいは胎児に差し迫った生命の危機が存在する場合,②母体あるいは胎児にとって差し迫っているわけではないが危険が存在する場合,③分娩が必要であるが,母体,胎児にとって危険であるという証拠はない場合,というように分類される。
The American College of Obstetricians and Gynecologistsとthe American Academy of Pediatricsはすべての分娩を扱う施設は緊急帝王切開の場合,決定から執刀までは30分以内に行える能力を有すべき,という提言をしている3)。日本においても,本年,厚生労働省から提出された「周産期医療体制整備指針」によれば,周産期センターにおいて「迅速(おおむね30分以内)に手術への対応が可能となるような医師(麻酔科医を含む)およびその他の各職員を配置するようにつとめることが望ましい」とされている。しかしながら,決定から執刀までの30分という数値自体は,周産期予後を改善する確固たる証拠に基づいているものではない。あくまで,分娩施設の質をはかる一つの指標であると考えられる。
日本における周産期医療が危機的状況におかれていることは周知されつつある。そのなかで,大学病院は最後の砦として人的資源,施設面とも恵まれた環境にあると考えられ,最高水準の医療を提供する場としての役割を期待されている。しかし,実際のところ,①のような超緊急帝王切開を実施する場合でも,決定から30分以内に執刀を行うことは容易ではない。我々の施設においても,児を娩出させるまでに30分を越える例がしばしば発生した。人的資源・施設面における制約はもちろん,手術室・麻酔担当医・新生児担当医,コメディカルスタッフなどの連携が困難であることも大きな要因である。児の娩出までに時間がかかることが起こりうる状況下では,産科医は危機的状況を回避するために早めの帝王切開を決断することを強いられる。その結果として,娩出した児の状態が良いことが続くと各科・各部署が緊急帝王切開の必要性について疑義を抱き,連携が不良となるという悪循環が生じる。この循環を断ち切ることを目的に,我々は新たな緊急帝王切開ルールを作成した。その成果を確認したので報告する。