主催: 一般社団法人日本周産期・新生児医学会
会議名: 周産期学シンポジウム:周産期感染症への対応を再考する−これからの課題と対策−
回次: 41
開催地: 愛知県
開催日: 2023/01/13 - 2023/01/14
p. 80-83
要旨
近年,重症百日咳感染症の発症率は小児期全体では減少しているが,新生児期の発症は相対的に増加しており,この年齢層での感染防御能力の強化が社会的に重要である。諸外国では妊娠中に百日咳含有ワクチンを接種することにより新生児の百日咳感染/重症化を予防している一方で,日本では行われておらず,公衆衛生学的な問題となっている。そこで,わが国においても妊娠前・妊娠中の百日咳含有ワクチン導入を検討するにあたり,妊婦および新生児における百日咳菌抗体の陽性率を調査するとともに,妊娠初期の母体血清,出産後1週間以内の母体血清,臍帯静脈血を採取して,それぞれPT-IgG(EIA)/FHA-IgG(EIA)を測定した。また,初乳百日咳IgA(ELISA)も合わせて検討した。母体における妊娠初期血清PT-IgGおよびFHA-IgGの陽性率はそれぞれ69%および75%であり,約70%と非妊婦と同様であった。初期PT-IgG/FHA-IgG抗体価は臍帯血PT-IgG/FHA-IgG抗体価と正に相関した(P<0.001)。また母乳中百日咳IgA 陽性率は10%であった。妊娠初期の百日咳抗体価が高いほど,臍帯血移行抗体価が多いことが示されたため,百日咳に対する胎児の受動免疫は,妊娠初期の母体血清抗体が十分であれば,より高い確率で獲得されることが示唆された。少なくとも妊婦の30%は,十分な百日咳抗体を保有しておらず,感染対策が急がれる結果となった。また90%程度で母乳中百日咳IgA抗体が陰性で,児の感染防御には不十分と考えられた。日本で承認されている百日咳ワクチン(DTaP)は妊娠中の安全性に関する情報が不足しているため,妊娠前の時期にDTaPを導入することで,妊娠初期の百日咳抗体価を維持し,妊婦および新生児の百日咳感染予防を行うことが現実的な解決策の一つである可能性がある。