周産期学シンポジウム抄録集
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Print ISSN : 1342-0526
第43回
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シンポジウム午前の部:周産期の鎮静・鎮痛・疼痛緩和 最新動向
中期中絶・死産に対する経静脈鎮静における至適薬剤の検討
染谷 真行
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p. 60-63

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抄録

 背景

 周産期におけるメンタルヘルスの重要性が近年注目されるようになっており,通常の出産後においても約10%で発症するともいわれている1)。一方で,中期中絶(以下,AA)や子宮内胎児死亡(以下,IUFD)は精神的にインパクトの大きな周産期イベントであり,海外のガイドラインでは『流産・死産に臨む妊婦に痛みの管理について情報提供すべきである』と記載されているものもある2)。それにもかかわらず,日本においてはそれらに対する精神的なケアは立ち上がったばかりであり,一例として筆者が勤務している札幌市においても,流産・死産を経験した家族に対するケアが始まったのは2025年4月とごく最近であり,今後の積極的な活用が期待される。

 また,通常の分娩における無痛分娩は欧米などでは従来より広く行われていたが,日本においてはその広がりが比較的緩やかであった。しかし,近年では無痛分娩を提供する施設が急速に増加している3)。その理由としては,インターネットやSNSなどによる情報の拡散の他,一部の自治体では無痛分娩に関連した費用の公的負担などが検討されていることから,患者確保の手段として無痛分娩の提供を行う施設が増えていることなどが考えられる。しかし,そういった流れの中においても,AA・IUFDに対して疼痛緩和を施行している施設は少なく,本シンポジウムの開催に先立って行われた周産期学シンポジウム運営委員会による全国調査においては,周産期新生児専門研修認定施設(基幹・指定)においても25%に留まっていた。その理由としては,麻酔科医が不足しておりAA・IUFDに対して疼痛緩和を提供できるだけの人的余裕が無いことや,疼痛緩和の際にどのような方法で行うのが良いのかといった情報が乏しいことなどが考えられる。

 一方で,運営委員会の調査において,AA・IUFDの管理の際に用いられる麻酔方法としては硬膜外麻酔が最も多いことが分かった。硬膜外麻酔は疼痛緩和としては有用であるが,技術的な困難さから産婦人科医が広く修得しているとはいえず,また穿刺に伴う侵襲・合併症のリスクも無視できない。当院では経静脈的に鎮静を行っており,これは薬剤の使用法を理解していれば産婦人科医にも扱いうる手段と考える。そして,鎮静の際に使用する薬物としては従来から使用されているジアゼパムやミダゾラム,チアミラールなどがあるが近年ではプロポフォール(以下,Prop)が良く使われている。更に最近ではデクスメデトミジン(以下,Dex)が呼吸抑制の少ない薬剤として使用される機会が広がっている。Dexには神経保護作用があることが数多く報告されており,本研究の共同研究者であるKiiらもマウスを用いた実験でDexの神経保護作用を示している4)

 そこで我々は,札幌医科大学附属病院(以下,当院)において従来から行っていた経静脈鎮静においてどの薬剤を用いるのが安全性及び精神面から適切なのかを検討すべく,臨床研究を立案した。

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