周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
Print ISSN : 1342-0526
第7回
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はじめに
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武田 佳彦
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p. 3

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抄録

 第7回日本周産期学会のテーマには胎内発育障害を取り上げた。近年周産期医療の中で児の長期予後を左右する最も重要な疾患の1つである。

 IUGRは胎児の成長,成熟が障害された症候群であり,低体重,低血糖,水分電解質異常を主徴とする新生児期の病態は以前より知られていたが,妊娠中期に出生した極小未熟児,超未熟児に合併した本症では生命に対する予後ばかりでなく長期の中枢神経系の予後も極端に悪いことが明らかになってきた。

 胎児発育は妊娠20週以降で加速され,機能発現に伴う臓器構築,酵素誘導など臓器固有の機能成熟が在胎週数に伴って進行する。したがってこの期間の障害は発育や成熟の遅延ばかりでなく,発育と成熟のベクトルが一致せずに異形成に陥ることもある。

 本シンポジウムでは基礎的知見も含めて病因,病態を討議し,それを踏まえて管理,予後を討議する2つのセッションで構成した。

 病因と病態のセッションでは絨毛細胞の物質輸送,子宮胎盤循環,胎児との物質交換系の機能を生化学的要因,生理学的要因のそれぞれから考察が行われ,さらに胎児での発育の基礎的背景を構成する成長因子の作用機序,結合蛋白の特異性など基礎的な検討に加えて,関連演題で胎盤終末絨毛の定量的な形態学的観察,胎児の血流分布など病態について最新の知見が総合的に討論されている。成因についても要因不明の同胞例の報告など症候群としての胎内発育障害の多様性が浮き彫りにされた。

 管理と予後のセッションでは,胎内治療の可能性とその限界について長期予後を含めて討議された。胎内治療では栄養障害の治療が重要であり,脂質,糖,アミノ酸の母児間代謝動態を中心にそれぞれの意義と効果が検討された。出生後の新生児適応過程での管理は早産IUGRが予後の点からも最も重視されるが,血液凝固線溶機能など臓器不全の基礎的背景についても討議された。長期予後では中枢神経系の発達障害が問題であり,発育障害の程度,発症の時期など胎児期の異常と新生児期の適応障害との関連が討議された。

 現在周産期障害で最重視される胎内発育障害がこれほど広汎にしかも系統的に討議されたのは初めてであり,本シンポジウムで最新の知見が集約され,研究の方向付けがなされたことの意義は極めて大きい。周産期医学の進歩の一里塚としての輝かしい成果を強調したい。

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© 1989 日本周産期・新生児医学会
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