抄録
【目的】罹患した病名と手術術式のどちらがより術前の患者におけるメンタルヘルスに与えるインパクトが大きいのかを明らかにするために,悪性腫瘍に対する手術ではあるが開腹手術ではなく,侵襲が少ないと予想される子宮頸部上皮内癌に対するレーザー円錐切除術における術前不安と抑うつを良性婦人科疾患に対する諸手術におけるそれらと比較検討した.【対象と方法】子宮頸部上皮内癌に対するレーザー円錐切除術あるいは婦人科良性疾患(子宮筋腫,子宮脱,卵巣嚢腫)に対する手術目的にて入院した日本人女性348名(41.6±12.1歳;上皮内癌55名,良性疾患293名)を対象とし,入院後術前にHADS(Hospital Anxiety and Depression Scale)日本語版に無記名,自記式にて回答が得られた結果を解析した.【結果】上皮内癌患者では,婦人科良性疾患患者全体と比較してHADS総スコア,不安度,抑うつ度のスコアがいずれも有意に低値であった.卵巣嚢腫患者との比較では総スコア,不安度,抑うつ度のスコアはどれも有意に低値,子宮筋腫患者との比較では総スコア,抑うつ度のスコアが有意に低値であったが,子宮脱患者との比較では有意差を認めなかった.術式別検討でも,総スコア,不安度についてはレーザー円錐切除術が最も低値,抑うつ度については腹腔鏡下卵巣嚢腫摘出術に次いでレーザー円錐切除術が低値であった.【結論】レーザー円錐切除術は悪性腫瘍に対する手術でありながら,メンタルヘルスに与える影響は良性婦人科疾患に対する手術よりも少なかったことから,手術前の患者にとっては病名よりも手術術式がより強い心理的インパクトを持つ可能性が示唆された.