抄録
18歳から77歳までの72名の健常女性(平均年齢±1SD:33.5±18.5歳)を対象にして,血液検査と心理検査(Y-G性格検査及びPOMS)を行い,血液成分(ACTH,コルチゾール,IL-1β,TNF-α)と心理検査各因子との関連を検討した.抑うつと関係が深いとされる血漿中IL-1β濃度は,重回帰分析の結果,Y-G性格検査の抑うつ因子得点で有意に説明され,末梢でのIL-1β濃度と性格的な抑うつとの関連性が支持された.このIL-1β濃度とY-G抑うつ性得点が双方とも平均値よりも1SD以上高かったものをgroup H(n=4),その他をgroup L(n=68)として比較すると,group Hはgroup Lに比して有意にコルチゾールとTNF-α濃度が高かった.年齢,身長,体重,肥満度には有意差はみられなかった.他方,対象者全員でのIL-1βとTNR-αには有意な正の相関傾向があったが,TNF-αと心理検査各項目の得点やコルチゾールとの間には有意な相関は見られなかった.上記の結果から,抑うつ傾向の高い者ではこれまで言われてきたようにHPA-axisの亢進が起こっており,併行して血漿中のIL-1β濃度も上昇することが知られた.他方,今回の結果からは,TNR-αと心理検査各項目やコルチゾールとの間には有意な関係性が認められなかったので,抑うつが即TNF-αを上昇させるのではなく,抑うつによって生じたIL-1βの上昇が付随的にTNF-αを上昇させる,ないしは,高コルチゾール血症下での全般的な細胞性免疫や液性免疫の低下が貧食細胞系を活性化させることにより高サイトカイン状態が生じる,ないしは高コルチゾール血症によって生じた糖新生の結果としてのフリーラジカルの上昇がサイトカイン系を駆動することで結果的にTNF-αを上昇させる結果を生み出すのではないかと推測した.いずれにせよ,IL-1βとTNF-αは連動し,TNF-αは血管炎症を促進させることから,抑うつ状態を有する人は動脈硬化などの血管障害に至る危険性が高いことが示唆された.