2017 年 22 巻 3 号 p. 266-270
生殖補助医療(ART)患者は近年増加傾向にあり,妊娠後も出生前検査の多様化に伴い選択肢も増え,妊婦の心身的ストレスは続く.今回我々は無侵襲的母体血性胎児染色体検査(NIPT)の遺伝カウンセリングを行った妊婦に対し,不妊治療歴があることによるストレス因子,不安,うつの影響について検討した.当院で平成26年6月から9カ月間にNIPTを施行した529名のうち,ARTを実施した121名のART群(22.9%),自然妊娠した288名のN群について,背景問診,心理社会的要因評価票,Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)を検討した.ART群,N群の妊婦の平均年齢はそれぞれ39.2±2.8(mean±SD),38.1±2.7歳,夫年齢は41.1±4.6歳,39.4±4.9歳であった.背景因子ではART群はN群に比して本人,夫の年齢が高く,分娩回数は少なく,NIPT施行週数は早かった.流産回数,年収,学歴などの背景因子には有意差はなかった.両群においてHADS-A,HADS-D,VAS,要因点数に有意な変化は見られなかったが,ART群のVASはN群より高い傾向にあった.我が国のARTによる出生児の割合は2012年に3.7%であるのに対し,今回NIPTカウンセリング希望者の中では23%と高かった.
ART群はN群より本人年齢・夫年齢が高く,実施週数が早いことから新しい出生前検査に対する関心が高いと考えられた.
また,ART群はその治療までの過程でストレス因子が高いと予想され,N群よりストレスがより高い傾向にあったため,N群より注意深い心理的サポートが必要であると考えられた.