抄録
子供の心理的問題で来談した親子の話を聴いているとき,母親の抱えている問題と子供の問題との関連について考えさせられることが多い.母と娘の間に共通に働くイメージが存在することはC.G. Jungが記述している.また,母親のもつ子供イメージが,母子相互作用に大きな影響を与えることが,主として精神分析の研究者から提言されている.とりあげた事例は,娘の不登校について来談した母親である.そのクライエントの対人不安に強い影響を及ぼしていたのは,幼児期と思春期に体験した性的外傷であり,その被害について気づいてもらえず,誰にも相談できなかった家庭環境であった.クライエントは夢の中に多くの傷ついた子どものイメージを表現したが,それはこのクライエント自身が幼児期以来体験したものであった.夢の中の子どもイメージの回復に伴い,クライエントの自信も回復し,娘も少しずつ社会に出られるようになっていった.