婦人科疾患による入院は良性疾患であってもメンタルヘルスに影響を与えるが,疾患の種類,予定手術の違いによるインパクトの差異はいまだ明らかではない.そこで今回我々は,メンタルヘルスにおいて重要な因子である不安と抑うつを評価することができる簡便な自己記入式質問紙であるHADS(Hospital Anxiety and Depression Scale)を用いて疾患,予定手術別にスコアの差違からそのインパクトを検討した.対象は,婦人科良性疾患に対する手術目的で婦人科病棟に入院した293名(41.9±12.0歳)である.疾患の内訳は子宮筋腫169名,子宮脱20名,卵巣嚢腫104名であった.これらに対し,入院後3日以内にHADS日本語版に無記名,自記式にて回答が得られたものを解析した.卵巣嚢腫群では子宮筋腫群に比較してHADS不安度のスコアが有意(p<0.05)に高値であり,不安あるいは抑うつ状態にあると考えられる割合も有意に高かった.一方,子宮脱群の総スコア,不安度,抑うつ度のスコアは卵巣嚢腫群,子宮筋腫群よりも低値であったが,有意差は認めなかった.また,3群とも不安度と抑うつ度の間には中等度の相関が認められた.術式別の検討では,子宮筋腫群における子宮全摘出術と筋腫核出術,卵巣嚢腫群における開腹術と腹腔鏡下手術,付属器切除術と嚢腫摘出術の比較においては総スコア,不安度,抑うつ度に有意差を認めなかった.しかし,HADSの14項目のうち子宮全摘出術,開腹術,嚢腫摘出術の方が有意に高いスコアを示す項目が存在した.今回の検討により,良性疾患であっても術前に心理的ストレスがあること,またそのストレスは疾患の種類と予定術式によりメンタルヘルスに与えるインパクトが異なることが明らかとなった.特にインパクトの差違には疾患の種類による影響が大きいことが示唆された.
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