抄録
ペクチン多糖ラムノガラクツロナンII(RG-II)は、種子植物の1次細胞壁に存在する複雑な構造を持つ多糖である。RG-IIは植物の必須微量元素であるホウ素(B)とホウ酸エステルを形成して、2量体(dRG-II-B)として存在する。最近、このホウ素によるRG-IIの架橋が植物の正常な成長に必須であることが示された。dRG-II-Bは種子植物に普遍的に存在することが知られているが、シダ植物やコケ植物中にdRG-II-Bが存在するかは不明である。そこで、シダ植物とコケ植物から細胞壁をアルコール不溶部分として調製し、植物体と細胞壁に含まれるBを定量した。また、LC/ICP-MSにより細胞壁中のdRG-II-B量を定量した。シダ植物からはdRG-II-Bを単離し、糖組成等の構造解析を行った。
シダ植物の細胞壁は種子植物とほぼ同程度のBを含み、細胞壁に存在するBの約半分はdRG-II-Bとして存在した。この値は種子植物とほぼ同じであった。シダ植物から単離したdRG-II-Bは種子植物のものとほぼ同じ構造を持っていた。一方、コケ植物の細胞壁はシダ植物の2/3程度のBを含んでいたが、dRG-II-Bとして存在するBは、細胞壁中に含まれるBの約1%という少量でしかなかった。