抄録
ホウ素欠乏による障害の発生機構を明らかにするため、ホウ素欠乏で誘導される遺伝子を検索した。
タバコ培養細胞BY-2をホウ素濃度50 mg L-1(通常の1/20)の低ホウ素培地で継代し、馴化細胞を選抜した。この低ホウ素馴化細胞と対照細胞の間でcDNAサブトラクションを行い、馴化細胞特異的な遺伝子を13個同定した。これら馴化細胞特異的遺伝子の多くは他のストレスでも発現が誘導される遺伝子であり、ホウ素欠乏の二次的な影響を反映したものと判断した。特にグルタチオンS-トランスフェラーゼ、カタラーゼ、サリチル酸誘導性グルコシド糖転移酵素など酸化的ストレスで誘導される遺伝子が含まれたことから、ホウ素欠乏障害の少なくとも一部は過酸化ストレスによるものと推測した。現在、ホウ素欠乏状態の細胞で実際に活性酸素種が増加するか検討中である。
馴化細胞特異的遺伝子の一部は、対照細胞をホウ素欠除培地に移すホウ素欠除処理でも誘導された。特にサリチル酸誘導性グルコシド糖転移酵素は欠除処理開始30分以内に発現量が増加したことは、ホウ素欠乏の影響が極めて短時間で発生することを示唆する。