抄録
シロイヌナズナでは、Mt型およびCp型のモノデヒドロアスコルビン酸還元酵素(MDAR)と思われるEST配列が1つずつ報告されている。両者のアミノ酸配列を比較すると、Mt型がN末端に7アミノ酸を余分に持っていたが、それ以降(8番目にある2つ目のMetから)は全く同一であった。そこでゲノム配列を検索したところ、両者は同じ遺伝子から由来することがわかった。Mt型のN末端の7アミノ酸内には、イントロンがあった。我々は、それぞれを特異的に増幅するプライマーを設計し、poly (A)+ RNAに対するRT-PCR解析を行い、両者が共に転写されていることが確かめた。さらに、Cap Site Hunting法により両者の転写開始点を決定したところ、Cp型の転写開始点はMt型の第1イントロン内にあることがわかり、このMDAR遺伝子が転写開始点を使い分けて、長短2種類のmRNAを作り分けていることがわかった。それぞれのシグナル配列部分、あるいはcDNA全長にGFPを融合させシロイヌナズナの葉に導入したところ、Mt、Cpへとそれぞれ輸送された。Mt型N末端の7アミノ酸部分は、Mt移行シグナルに典型的な正荷電の両親媒性αヘリックスを形成すると予測された。1つの遺伝子由来のタンパク質がMtとCp輸送される例は約20程あるが、転写開始点の使い分けによる例はこれまで報告されておらず、これは新規の機構と思われる。