抄録
酸化的ストレスによる植物のレドックス状態の変動を観察するために、スピンプローブ剤を用いた電子スピン共鳴(ESR)法を開発してきた。植物に取り込ませたスピンプローブ剤は葉中で還元された後に、レドックス状態の酸化方向への遷移に伴って再酸化される。本報告では、植物のストレス応答能を評価するESR計測法の確立を最終目的として、ストレス負荷に対するスピンプローブ剤の反応を解析した。
一般的に用いられるESRプローブ剤であるcarbamoyl-PROXYLをダイコン幼植物体またはエンドウ葉に取り込ませた。その後に、光照射によって引き起こされるプローブ剤のESR信号変化を計測した。個々の葉におけるプローブ剤のESR信号強度の増加量は、照射光強度と葉中のプローブ剤量に依存していた。低温下での強光照射 (45000 lux, 7度, 3時間)によって予め光障害処理を施した幼植物体の葉においては、クロロフィル蛍光量子収率の低下と相関して光照射による信号強度の増加量が増大した。これらの結果から、酸化的ストレスに対する個々の葉のストレス適用能力をESR計測によって決定し得ることが示された。