抄録
植物や酵母など真核生物の酸性オルガネラ膜にある液胞型H+-ATPase(V-ATPase)はATP 加水分解反応と共役して H+を輸送し、液胞内部を酸性に保っている。一般に、V-ATPaseは酸化還元状態により活性が変化することが知られており、Forgacらは触媒サブユニットであるAサブユニットの基質結合部位近傍にある二つのシステイン残基間のジスルフィド結合形成による調節機構を提唱している(J. Exp. Biol. 203: 71-80)。
我々はV-ATPaseの酸化還元調節機構の詳細を調べるため、酵母S.cerevisiaeの液胞膜にあるV-ATPaseのH+輸送活性をパッチクランプ法で解析した。液胞を酸化剤であるCuSO4や5,5’-dithio-bis(2-nitrobenzoic acid)を含む緩衝液に曝すと ATP依存電流が消失し、還元剤であるDTTに曝すと活性が一部回復することが確認された。ところが、ジスルフィド結合形成に関わると報告されているAサブユニットのCys-261をValに置換した変異体でも、ATP依存H+輸送活性はCuSO4で抑制され、その後のDTT処理で回復した。この結果は酵母V-ATPaseが第二の酸化還元調節部位を持つことを示唆している。