抄録
光合成生物におけるカロテノイドの役割の1つに光酸化障害から細胞を保護する機能がある。カロテノイドには多くの分子種が存在するが、生体内における分子構造と障害防止機能の関係は不明な点が多い。本研究では多くのカロテノイド分子種を持つ紅色光合成細菌Rubrivivax gelatinosusを用いて特定のカロテノイドを蓄積する変異株を作成することで、同一生体内でのカロテノイド分子種の障害防止機能の比較を行った。強光、好気条件下における成育測定、およびに、ローズベンガルによって一重項酸素を発生させた条件下での生存率測定の結果、共役二重結合の数(n)が9のニューロスポレンと10のスフェロイデンの障害防止機能は低いことが示された。また、リコペン(n=11)とスピリロキサンチン(n=13)は、生育においては高い障害防止機能を持つが、一重項酸素の消去能力はあまり高くないことが示された。2つの測定において、最も高い障害防止機能を示したのは、ケト化カロテノイドであるジケトスピリロキサンチン(n=13+2)とスフェロイデノン(n=10+1)であった。スフェロイデノンとリコペンの比較から、ケト化カロテノイドが高い一重項酸素消去機能を示す原因は、共役二重結合の数によるものではなく、ケト基の存在にあることが示唆された。