抄録
コーヒーに含まれるカフェインは、往々にして健康に害を及ぼす。そのため、カフェインレスコーヒーが作成されているが、化学的に抽出するため、コーヒー本来の風味が失われる。私たちは、分子育種によってカフェインレスコーヒー植物を創出することを目的とした。これまでに主要なコーヒー植物であるアラビカ種のcDNAライブラリーをスクリーニングして、カフェイン生合成系の鍵酵素の一つであるテオブロミン合成酵素をコードしている遺伝子(CaMXMT)を得ている。今回は、CaMXMTに特異的な部分配列を用いたRNAiコンストラクトの導入によるコーヒー植物のカフェイン生合成の制御について報告する。コーヒーの形質転換不定胚形成細胞におけるCaMXMT発現をRT-PCRにより解析した結果、その発現が強く抑制された細胞株が得られ、このような細胞株にはカフェインの蓄積はほとんど認められなかった。さらにカフェイン生合成系の前駆物質であるアデニンなどを加え、プリンアルカロイド合成量の変動を調べた。非形質転換株では中間代謝産物である7-メチルキサンチンやテオブロミン、最終産物であるカフェインなどが蓄積されるのに対して、RNAi形質転換株においてはカフェインの合成が促進されるには至らなかった。このことは、RNAi法によりコーヒー植物のカフェイン生合成系が改良されたことを強く示唆するものである。本研究は、NEDOの助成で行った。