抄録
真核生物の染色体DNAはヒストンに巻きついたヌクレオソーム構造をとり、さらに染色体タンパク質と相互作用して凝集したクロマチン構造を形成している。動物での知見から、染色体上の異なる位置では凝集度合いの異なるクロマチン構造が形成され、遺伝子発現に影響を与えうることが示されている。植物においても導入遺伝子の発現に差異が生じることから、動物と類似した染色体環境にあることが想像されるが、解析例は乏しいのが現状である。我々はショウジョウバエと同程度のゲノムサイズであるシロイヌナズナを対象として、導入遺伝子の発現が染色体上の挿入位置により受ける影響を明らかにするために解析を行った。
シロイヌナズナ植物体に減圧湿潤法によりCaMV(cauliflower mosaic virus)35S-GUS(β-glucuronidase)遺伝子を導入した。得られた形質転換体のGUS活性値には顕著な差異が認められたが、選抜したシングルコピー導入個体のGUS活性値はいずれも同程度であった。
染色体上の異なる位置に挿入された導入遺伝子が同程度に発現することから、シロイヌナズナにおいては遺伝子発現に対して一様なクロマチン構造が形成されていることが示唆された。