抄録
我々は、キュウリ(Cucumis sativus)クラスIIIキチナーゼCHI1, 2, 3が、ササゲ(Vigna unguiculata)下胚軸の臨界降伏張力(y)を pH依存的に調節することを報告した。今回は、キュウリ下胚軸におけるyの調節能の有無を調べるために、グリセロール及び凍結融解処理をしたキュウリ下胚軸細胞壁標品を作成し、細胞壁力学的パラメータのpH依存性を解析した。その結果、いずれの細胞壁標品においても壁展性(φ)及びyが存在し、それらの値はpHに依存して調節されることが明らかとなった。定荷重によるpH依存的な壁伸展の変化を観察したところ、酸性化による伸展は荷重がy以上である場合のみに起こった。細胞壁標品を熱処理したところpHに依存したyの変化は失われたが、φのpH依存性は消失しなかった。そこで、1M NaClで抽出した細胞壁タンパク質で熱処理標品を再構成すると、yはほぼ完全に回復した。
これらの結果から、キュウリにおいても伸長生長の調節はφのみでなくyによっても調節されていることが分かった。また、細胞壁タンパク質によって調節されるのはyであり、実際の伸長生長における律速パラメータである可能性が高い。