抄録
我々はこれまでに、ササゲ黄化胚軸の細胞壁試料(glycerinated hollow cylinders; GHCs)を用いて、細胞壁の力学的パラメータ(展性; φ と臨界降伏張力; y )がpHに依存して調節されること、さらにyはyieldinにより制御されていることを明らかにした。一方、細胞壁のクリープ現象を酸性条件下で促進するタンパク質としてexpansinが知られている。我々は、これら細胞壁機能タンパク質の生体内での役割を検討するためには、生理学的な解析と分子遺伝学的な解析を合わせて行う必要があると考え、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を研究材料に取り上げた。今回は従来の細胞壁力学的パラメータの測定システムで、小さな植物材料であるシロイヌナズナ胚軸由来の細胞壁試料の力学的パラメータが測定可能であるか否かを検討した。
グリセリン処理した3日齢のシロイヌナズナ黄化幼植物の下胚軸を新たに改造した細胞壁伸展計に固定し、任意のpHの溶液中で荷重を0.1gあるいは0.05gずつ加え、それぞれの荷重下での細胞壁試料の伸展速度を測定した。その結果、シロイヌナズナの細胞壁試料においてもササゲGHCsと同様にpHに依存したφとyの調節が確認された。これは、細胞壁機能タンパク質の研究材料としてシロイヌナズナが有効に利用できることを示している。