抄録
フェリチンは24量体を形成する鉄貯蔵タンパク質として知られており、高等植物、動物、微生物など幅広い生物種において見出されている。演者らは、ダイズ種子に存在するフェリチンが二種類の異なるサブユニットからなるヘテロ24量体を形成し、両サブユニットはは機能的にも異なっていることを明らかとした。即ち、従来型サブユニット(H-1)はC-末端領域が成熟過程で切断され単独では24量体を保持できないのに対し、新規に見出したサブユニット(H-2)は切断を受けず24量体の安定に寄与するということがin vitroの系において示唆された(*)。各サブユニットの植物体内での安定性、鉄貯蔵機能を検討するため、各々の遺伝子を導入した形質転換タバコを用い解析を行った。
植物体の鉄含有量については通常鉄濃度のMS培地で生育させた場合には両者の間で大きな差は見られなかったが、鉄濃度を数倍に増やした培地においては新規サブユニットを発現する形質転換体が有意に高い値を示した。また、両サブユニットを共通に認識する抗体を用いたイムノブロッティングによる解析の結果、H-2サブユニットはH-1サブユニットよりも形質転換植物中での安定性に優れていることが明らかとなった。このことから、植物体内においても新規フェリチンサブユニットは安定に保持され、鉄貯蔵に寄与していると考えられる。
(*) Masuda et al. (2001) J. Biol. Chem. 276, 19575-19579