抄録
ニコチアナミン(NA)は鉄キレーターであるムギネ酸類生合成の中間体としてイネ科植物の鉄吸収において重要な役割を果たす.一方,NA自体が鉄やそのほかの金属のキレーターであり、ムギネ酸類を合成しない双子葉植物にも存在することから植物体内の金属イオンの輸送や分配に関与していると考えられている.しかしその生理的機能の詳細については明らかでない.演者らは,3分子のS-アデノシルメチオニンからNAを合成するニコチアナミン合成酵素(NAS)の遺伝子群を,オオムギ、イネ、トウモロコシから単離しており,シロイヌナズナからも3種類の遺伝子(AtNAS1,2,3)を単離した.
イネ科以外の植物におけるNAの機能を明らかにするために,本研究では,シロイヌナズナの3種類のNAS遺伝子のそれぞれについて,金属元素に対する応答をプロモーターGUSアッセイ,定量的RT-PCRにより解析した.
その結果,3種類の遺伝子は鉄によってそれぞれ異なる制御を受けていること,またそれぞれの発現部位が異なることが明らかになった.AtNAS1,2は鉄欠乏によって転写レベルでの発現が誘導された.これは双子葉植物ではムギネ酸が合成されないので,NAS遺伝子の発現は鉄欠乏により誘導されないと想定されていたことを否定する結果である.一方,AtNAS3は鉄欠乏によって発現が抑制され,AtNAS1,2とは異なる生理機能を持つことが示唆された.