抄録
植物は低温馴化過程において、細胞内に適合溶質を蓄積し、耐凍性を獲得・向上させる。本研究では耐凍性の獲得と、適合溶質の量的効果(浸透圧調節能)および質的効果(直接保護作用)との関連を検討する事を目的として、低温馴化過程における適合溶質の細胞内局在性を決定し、その量的変化を測定した。材料は、冬コムギであるNorstar を用い、3℃、0~21日間低温馴化処理を行った。適合溶質は、糖・アミノ酸・グリシンベタイン含量をそれぞれ測定した。適合溶質の細胞内局在性は、Nonaqueous Fractionation法(Stitt et al., 1989)を本実験用に改変し、4つの細胞内画分(細胞質・液胞・葉緑体・ミトコンドリア)について決定した。その結果、低温馴化後、1)適合溶質中、全ての細胞内画分において糖の蓄積量が最も多い;2)適合溶質の蓄積は細胞質で最も多い;3)糖は液胞に最も蓄積しているが、単・二糖類は細胞質に最も多い;4)プロリンの蓄積は細胞質 > 液胞 > ミトコンドリアの順に多い;5)ベタインの蓄積は細胞質 > 液胞 > 葉緑体の順に多い、という点がわかった。以上の結果について、電顕観察により得られた細胞内画分の体積推定値を用い、適合溶質のオルガネラにおける濃度を求め、耐凍性との関連について考察する。(本研究の一部は、生研機構からの研究費により行われた。)