抄録
細胞質雄性不稔(CMS)は、広く高等植物に見られる現象で、多くの場合、ミトコンドリアゲノムの組み換えよって生じたミトコンドリア遺伝子の発現が原因であることが明らかになっている。また、稔性回復(Rf)については、CMSに特異的な核遺伝子の存在が知られている。このように、CMSとRfはミトコンドリア遺伝子と核遺伝子の相互作用を明らかにする上で、良いモデル系となると考えられる。
我々はこれまで、コセナダイコンのCMS 及び Rfについて研究を進めてきた。コセナCMS個体では、コセナダイコン細胞質に特有なミトコンドリア遺伝子orf125が存在し、その翻訳産物の蓄積が見られる。これに対し、稔性回復個体では、この蛋白質の蓄積量がそのmRNA量の減少を伴わす、著しく低下することが明らかになっている。この回復遺伝子の単離を目的に、ポジショナルクローニングを行い、候補の遺伝子を形質転換することにより同定した。この遺伝子は、687アミノ酸をコードできるORFをもち、オルガネラ遺伝子発現を調節することが提唱されているpentatricopeptide repeat motifを16個持つものであった。現在、この遺伝子の発現様式を種々の組織で解析している。また、稔性不稔個体において、orf687遺伝子に非常にホモロジーの高い遺伝子が存在・発現していた。これらの結果をもとに稔性回復遺伝子の機能について考察する。