抄録
植物の花芽形成に関与する生理活性物質の研究は、一部の植物において花芽形成候補物質が単離・同定されているものの、大部分の植物、特に長日植物ではほとんど明らかにされていない。本研究では、シロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana)を用いて、花芽形成に関与する生理活性物質の探索を行った。長日処理を行い、花芽形成が起こりつつある植物と短日条件下で栽培した植物をそれぞれメタノールで抽出した。抽出物を酢酸エチルと水で分配し、酢酸エチル可溶部をHPLCに供した。前者と後者のクロマトグラムを比較したところ、前者において後者より明らかに減少するピークが幾つか検出された。これらを明らかにするために植物体の抽出物を分離・精製し、NMR、MSを用いて解析したところ、このうちの一つは monogalactopyranosyl diacylglycerol (MGDG)であることが明らかになった。短日条件下で栽培し、生物検定の前日に長日条件下においた植物体にMGDGを投与した結果、花芽形成が促進されることを見出した。これらの結果からMGDG は花芽形成物質の前駆物質あるいは基質としてシロイヌナズナの花芽形成に重要な役割を演じていることが示唆された。一方、花芽形成後のシロイヌナズナから2種の新規糖脂質Arabidopside Aおよび Bを、MGDGとともに単離したので、これらの構造についても併せて報告する。