抄録
Anabaena sp. strain PCC 7120は、窒素源として硝酸イオン、アンモニウムイオンなどを利用できるほかに、窒素欠乏状態ではヘテロシストと呼ばれる細胞をおよそ10細胞ごとに1個の割合で分化させ、窒素固定を行うことができる。窒素欠乏への応答に関してはこれまでに多くの研究がなされており、数多くの遺伝子の発現量が変化することが知られているが、それらは個々の情報にとどまっている。今回、我々はDNAマイクロアレイを用いて、窒素源の欠乏による遺伝子発現パターンのゲノム全体における変化を解析した。
アンモニウムイオンを窒素源として培養したAnabaenaを窒素源を含まない培地に移し、1、3、8、24時間後に細胞を回収し、RNAを抽出した。各時間における遺伝子発現パターンをアンモニウムイオン存在下でのパターンと比較した。その結果、遺伝子発現パターンは大きく3パターンに分けることができた。発現パターンは窒素源を除いた後、8時間において大きく変化しており、これはヘテロシスト分化へと細胞運命が決定する時間と一致していた。また、発現パターンをゲノム上での位置に応じて並べ替えることにより、同様の発現パターンを示す数十kbにわたる領域が存在していることが明らかとなった。これらの領域には20個前後のORFが含まれ、複数の転写ユニットが一括して調節されており、シアノバクテリアにおける染色体構造を含む転写調節機構の存在が示唆された。