抄録
植物病原菌Phytophthora cryptogea由来のタンパク質性エリシター(cryptogein)をタバコ培養細胞(BY-2)に処理すると、細胞質の凝集等の形態変化を伴う過敏感反応様のプログラム細胞死が誘導された。フローサイトメトリー法による解析から、エリシター処理によりG1期, G2期の細胞の割合が増加し、S期の細胞の割合が減少することが明らかとなり、細胞死誘導に先立って細胞周期が特定部位で停止すると考えられた。細胞死誘導に伴う細胞周期停止点を明らかにするため、3種類の方法で細胞周期の進行を同調化して、核の形態観察やフローサイトメトリー法による解析を行ったところ、M期、G1期にエリシター処理した細胞は、G1/S期で、S期にエリシター処理した細胞は、G2/M期でそれぞれ細胞周期が停止し、その後細胞死が誘導された。G2期後半からG1期にかけてのそれぞれの時期にエリシターを処理し、細胞死誘導を観察したところ、エリシターの処理時間の長さに関わらず、全ての細胞でほぼ同時刻から細胞死が観察され始めた。こうしたことから、プログラム細胞死の誘導には、それに先立つ細胞周期の停止が必要であり、それが細胞死の律速段階となり得ると考えられる。