抄録
シソは短日処理で誘導された花成状態が長期間持続するのが特徴であり、これはバーナリゼーションにおける低温効果が長期間維持されることを連想させ、両者の間に共通の機構があることを想起させる。バーナリゼーションにはDNAメチル化・脱メチル化による遺伝子発現制御が関与することが報告されている。そこで、シソ、‘青ジソ’と‘赤ジソ’種子を250μMの5-アザシチジンで5日間処理後、培養土に移植して、25℃、長日条件(16時間明条件)で育てたところ、10週間後には2品種とも開花に至った。DNA脱メチル化剤による花成誘導は光周的に花成が制御される植物では初めての知見である。5-アザシチジン処理によって形成された花の形質は、短日処理で形成された花の形質と異なるところはなく、5-アザシチジンは花成を誘導するほかには、若干の生長抑制を引き起こすだけで、他の形質には影響しなかった。このことは、特定の少数の遺伝子だけが脱メチル化されて発現を制御されたことを示唆し、脱メチル化で発現を誘導される遺伝子(花成関連遺伝子)を特定できる可能性を考えうる。5-アザシチジン処理は茎頂に対しても有効で、このとき、下位の節にも花芽が形成された。この結果は、5-アザシチジン処理は輸送可能な花成誘導物質の生産を誘導したことを示唆する。