抄録
我々は光周的花芽誘導機構の解明を目指して、ウキクサを用いた分子生物学的アプローチを行っている。二種のウキクサ、Lemna gibba G3とL. paucicostata 6746はそれぞれ厳密な光周性を示し、前者は長日性、後者は短日性の植物である。光周性や花芽誘導の生理学的知見がウキクサでは蓄積している一方で、分子レベルでのアプローチはこれまでになされていなかった。近年のシロイヌナズナやイネを用いた分子遺伝学的な研究から、概日時計や花芽誘導関連遺伝子が多数単離されている。シロイヌナズナのTOC1/APRR1はHis-Aspリン酸リレー系で働くレシーバードメイン様の配列をもつ核内因子であり、概日時計振動機構の主要因子の一つと考えられている。その遺伝子発現は概日リズムを示す。またこの遺伝子は遺伝子ファミリーを形成しており、それぞれが少しずつ異なった位相の概日発現リズムを示すと共に、光形態形成・光周性・概日時計に関わることが示唆されている。我々はTOC1/APRR1遺伝子ファミリーに注目し、長日、短日ウキクサからそれぞれ3種類のホモログを単離した。本会では花芽誘導に影響を与える様々な光周期下でのそれらの発現様式を報告するとともに、その発現様式のホモログ間での比較や長日ウキクサと短日ウキクサとの間の比較を通して、発現様式と光周性反応との相関について考察する。