抄録
日本には、発熱植物として知られているザゼンソウ(Symplocarpus foetidus)、発熱現象が未解析のまま残されているヒメザゼンソウ(S. nipponicus)とナベクラザゼンソウ(S. nabekuraensis)の3種のザゼンソウ属が分布している。本研究では、これらのザゼンソウ属のうち、ザゼンソウおよびヒメザゼンソウに着目し、それぞれの発熱現象の比較と、脱共役タンパク質(UCP)およびシアン耐性呼吸酵素(AOX)をコードする遺伝子群の発現解析を行った。UCPおよびAOXはミトコンドリア内膜に局在し、ミトコンドリアの呼吸活性を増大させることにより、発熱反応を誘導する機能を持つ発熱関連因子である。その結果、ザゼンソウの熱産生部位である雌期肉穂花序は、外気温度が-10℃程度の低温化においてもその体温を20℃程度に保つ能力を有することが判明したが、ヒメザゼンソウの雌期肉穂花序においては、発熱による明確な体温の上昇は観察されなかった。また、ザゼンソウにおけるUCPbおよびAOXの発現は雌期肉穂花序で特異的であることが明らかとなり、ザゼンソウにおけるこれらのミトコンドリア因子と発熱現象との密接な関連性が示唆された。しかしながら、これらの発熱関連遺伝子は、ヒメザゼンソウの雌期肉穂花序においても高い発現レベルを示すことが判明したため、調査したザゼンソウ属における「みかけ」の発熱現象は必ずしも発熱関連遺伝子の発現レベルを反映していないことが明らかになった。