抄録
ザゼンソウ(Symplocarpus foetidus)は、氷点下を含む外気温の変動にもかかわらず、その肉穂花序温度を20 oC 内外に維持する能力を持つ恒温植物である。興味深いことに、本植物の肉穂花序温度の時系列データには、複雑な振動現象が頻繁に現われることが見出されている。我々は、このような複雑な体温振動と肉穂花序における体温制御システムとの関係を明らかにするため、動的システム理論によりザゼンソウ肉穂花序温度の時系列データを詳細に解析した。その結果、ザゼンソウに見られる複雑な体温振動は決定論的なカオスダイナミクスに従い、その振動制御メカニズムには2つの重要な因子が関わっていることが推定された。次に、ザゼンソウ肉穂花序における温度制御メカニズムのモデル化を行うため、我々は、自然環境のもとで人工的に気温変化を与えることのできる装置を開発し、ザゼンソウ肉穂花序温度における体温振動の周期と肉穂花序重量との関係を詳細に測定した。その結果、驚くべきことに、ザゼンソウの肉穂花序温度における体温振動は、肉穂花序の重量とはまったく無関係であり、その周期はおよそ60分であることが判明した。これらの結果に基づき、ザゼンソウ肉穂花序における温度制御メカニズムについて、肉穂花序の重量に関わるパラメータを一切含まない減衰振動モデルを組み立て、シミュレーションを実行した。