抄録
枯草菌などのgroESLやdnaKオペロンの転写調節はCIRCE配列へのHrcAリプレッサーの結合による通常温度での転写抑制と熱ショック温度におけるHrcAの不活性化による抑制解除によって説明される。シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803株のゲノム配列中には、hrcA相同遺伝子が存在し、二種類のgroEL遺伝子は転写開始点近傍にCIRCE配列をもつので、groEL遺伝子の調節はCIRCE-HrcA機構によるものであることが示唆されているが、シアノバクテリアHSP遺伝子の発現調節機構は未だ不明である。我々は、Synechocystis sp. PCC 6803株のhrcA遺伝子破壊株を構築し、groEL遺伝子の転写が通常の培養温度30℃において脱抑制されることを明らかにした。野生株と同じ転写開始点からの転写の脱抑制が確認されたが、変異株のgroEL遺伝子のmRNA蓄積量が熱ショックにより、さらに著しく増加したので、CIRCE/HrcA抑制機構以外の調節機構の関与が示唆された。
hrcA遺伝子の破壊によってgroEL遺伝子以外のHSP遺伝子の通常温度におけるmRNA蓄積量に変化は生じなかったが、熱ショック後の蓄積量の経時変化に影響がみられた。hrcA遺伝子の破壊で大量に蓄積したGroELが、他のHSP遺伝子の転写誘導に影響を及ぼしているのではないかと考えて研究を進めている。